そう言うと男達は揃って森の中へ入っていった、俺は気付かれないように男達が戻っていく方向を見る。
あちら側は多分村がある方向だ、男達が完全に遠ざかったのを確認すると俺は立ち上がった。
何者なのかは分からないがこの状況で森の中に居ると言う事は間違いなくフタバを連れて行った奴だろう。
村の方へ戻ったと言う事は村に居るのだろうか、村で1年以上生活しているが一度も見た事がない。
その時ふと思い出した、懐中電灯を持っていた3人とは別の2人、そいつ等の服装、はっきりとは見えなかったがあれは白衣だ。
俺は病院の事を思い出す、病院としては大きくは無いがあの建物は2階建て、それに地下もあるようだった。
だが病院に居る人で会った事があるのは村上さんと鈴木さんだけだ、あれだけ大きな病院を2人だけで管理しているとは思えない。
村は親が居ない子供達の為の養護施設で病院はその村の為の医療施設だと思っていたが、それだけならばあれだけ大きな建物である必要は無い。
きっと子供達を連れて行った連中は病院に居るのだ、そして、俺や子供達が病院に行く時には隠れている。
このままフタバを連れて行った自動車を追いかけても行き先は分からないだろう、しかし病院に行けば何か手掛かりがあるかもしれない。
そう思うと俺は歩き出した、真夜中とはいえ村の中を通る訳にはいかないだろう、懐中電灯の明かりもさっきまで俺を捜していた連中に気付かれない様に、足元だけを照らす様にして暗い森の中を歩いて行く。
懐中電灯を消して辺りを見回す、大分村の方まで戻ってきた様だ、木々の隙間から月明かりに照らされた村が見える、森の近くには畑が広がっていてその直ぐ奥には家が見える、今はちょうど家がある所の真横辺りだろうか。
さっき俺を追いかけてきた連中が俺を捜してこの辺りに潜んでいないとは限らない、ここならば村の方から誰かが来ても直ぐに分かるしいざと言う時は森の中に逃げ込む事も出来るだろう。
そう思って懐中電灯は消したまま村と森の間を歩き始めた、家、水田、新しい畑、そして病院と村の間にある森の中に入った。
木々の隙間から病院の様子を伺う、照明はついていない様だが、うっすらと光が見える、常夜灯や非常口にある光だろうか。
病院までは結構距離がある、森と病院までは背の低い草しか生えていない、しかも病院の敷地内はコンクリートで整備されていて身を隠す場所も無い。
もしここから病院に向う途中で俺を追って来た連中に見つかったら逃げるのは難しいだろう。
そう思うと俺はまた森の中を歩き始めた、病院の様子を伺いながら森の中を病院の裏手に向って進む。
やがて木々が途切れ、草だけが生えている場所に出る、ダイゴを捜して森の中に入った時に通った場所だ。
身を低くして病院と森の境目まで歩いて行く、ちょうど境目の所に着くと辺りを見回した。
俺は森を出ると身を低くしたまま走り出す、そして病院の壁に背を付けるとまた辺りを見回した。
誰も居ない、大丈夫だ、気付かれていない、壁に背を付けたままゆっくりと動き出す、そのまま病院の入口近くまで来ると俺は止まった。
森の中で俺を追いかけてきた連中は何処に行ったのだろう、病院の中に居るだろうか、それとも村、もしくは森の中にまた行ったのだろうか。
考えていてもしょうがない、俺は病院に入って子供達が連れて行かれた場所の手がかりを探すのだ。
しかしその後はどうする、歩いて森の中を通り抜け、警察に駆け込むか、どうするにせよ、まずは子供達が連れて行かれた理由を調べてからだ。
辺りを見回しながら病院の正面に回る、鍵が閉まっていたらどうしようかと思ったが病院の扉はすんなり開いた。
病院の中は外とは違い少しの足音でも大きく響きそうだ、俺は靴を脱いで抱えると実を低くし、ゆっくりと歩き出した。
入口付近と病室がある辺りしか通った事がない、どちらに向えばいいかも分からないが俺は廊下を進んで行く。
病院の中は思ったよりも明るかった、誰かが同じ廊下に居たら直ぐに気付かれてしまうだろう、誰かが来ても先に気付く事ができるように物音に注意しながら病院の廊下を歩いて行く。
やがて廊下の終端に着いた、正面は非常口になっているのだろう、非常口である事を示す緑色の看板が光っている。
ここまで歩いて来てあったのは病室と給湯室だけだ、非常口の直ぐ脇には階段があった、上、下どちらに向うべきか。
もしもこの病院の中に隠したい物があるとしたら地下だろう、俺はそう思うと足音を立てないように気を付けながら階段を下り始めた、素足だったので思ったより足音はしなかった。
階段を下りると廊下を見渡す、誰も居ない事を確認して廊下を歩き始める、1階は病室と給湯室だけだったが地下は色々な部屋があった、俺は1つ1つの部屋を確認する様に進んで行く。
幸い部屋の扉には鍵が掛かっていなかった、音を立てないようにゆっくりと扉を開けて部屋の中に入る。
ここは手術準備室だろうか、部屋の中を見回す、部屋の中にある棚には手術に使う為と思われる道具が陳列されている、ここには手掛かりになりそうな物は無い、そう思って部屋から出た。
隣の部屋の扉を開ける、部屋が狭く感じるくらい大量の棚が置かれていて中には薬品が入っている、ここにも何も無いだろう。
そうしていくつかの部屋を確認していると物音が聞こえた、足音だ、俺は慌てて廊下を見渡す、誰も居ない、だが足音は確かに聞こえる、そしてその音は大きくなっている気がする、多分階段を下りて来ているのだ。
近くにあった部屋に入り息を潜める、扉越しでもはっきりと分かるくらい足音が近づいてきた、やがて足音は遠ざかって行く。
俺は軽く溜め息をついて辺りを見る、暗くてよく見えない、部屋の中ならば明かりをつけても大丈夫だろう、そう思って俺は懐中電灯をつけた。
診察室、いや、病院の職員の部屋だろうか、棚に懐中電灯を向けるとなにやら難しそうな本が並べられている。
部屋の奥には大きめの机が置かれていた、机の上には何も乗っていない、引き出しには何か入っているかも知れない。
俺は机の裏に回ると椅子を寄せて引き出しを開けた、中に入っている書類を床に置いて広げる、そして1つ1つ懐中電灯で照らしながら内容を確認する。
医療器材を購入した明細の様な物、医薬品の効能をまとめた様な資料、そういった物をめくりながら床に広げた書類を確認する。
子供達の手掛かりになりそうな物は無い、そう思って別の引き出しを開ける、中にはクリアファイルにまとめられた書類が入っていた。
クリアファイルを手に取り中身を取り出す、診断書のコピーだろうか、性別、血液型、生年月日等が書かれている、名前が書いてあるところを見たが聞いた事の無い名前だ、村の人ではないのだろうか。
引き出しに入っていたクリアファイルを次々と取り出して中身を見る、どれも見た事の無い人の物だ。
いくつかそうして見ていると少し違った形式で書かれている物があった、名前欄を見る、苗字は書かれておらず、一樹、とだけ書かれている。
「カズ、キ?」
俺は思わず口にした、続けてその診断書のコピーを見る、生年月日、血液型が書かれているがカズキの生年月日も血液型も分からない、だが生年月日から逆算すると年齢は13歳、大体カズキもそのくらいだ。
同じクリアファイルに入っていた別の書類を取り出す、組織適合検査、書類の一番上にはそう書かれていた。
書類の中身を見るがよく分からない、なにやら数値が書かれている、一番上に書かれている通り何かの検査結果なのだろう。
別のクリアファイルを取り出す、カズキの物と同じ様に苗字が無く名前だけが書かれている、二葉、きっとフタバの事だ。
性別は女性、生年月日から逆算すると年齢は12歳、間違いないだろう、同じクリアファイルに入っていた別の書類を見る、カズキの物と同じく組織適合検査と書かれていたがこの書類には赤いペンで、適合、と書かれていた。
書類はモノクロなので後から書き足された物だろう、気持ちの悪い、いや、恐ろしい予感が脳裏を過ぎる。
俺は次のクリアファイルを取り出して中身を見る、名前欄には正三、会った事は無いが子供達が言っていたショウゾウ君の事だろう。
同じ様にクリアファイルに入っている別の書類を取り出す、予想通り赤いペンで、適合、と書かれている。
引き出しに入っているクリアファイルを次々に取り出し中身を見てゆく。
シオン、ダイゴ、ロクスケ、それぞれ同じ様に診断書と組織適合検査という書類が入っている、そしてダイゴの組織適合検査と書かれた書類には赤いペンで、適合、と書かれていた。
俺は取り出した書類をクリアファイルに戻してまとめると、壁に背をつけて大きく息を吐いた。
やはりこの村は養護施設では無かった、子供達の将来など考えられてはいない、子供達は臓器提供者として育てられていたのだ。
自分で出した結論だがあまりにも恐ろしい話だ、だが今まで村で見てきた事、そしてここにある書類を見ればそうとしか考えられない。
心臓が高鳴る、俺は座ったままクリアファイルを抱えて考えた、これからどうするべきか、子供を臓器提供者として育てるなど許される訳が無い、やはりこれを持って警察に行くべきだろうか。
どうするにせよ俺はもうこの村には居られない、朝が来れば村を出る事も出来なくなるだろう、逃げるならば今のうちだ。
俺はクリアファイルを懐に入れると立ち上がった、入口の扉の前で外の音を聞く、何も聞こえない、それを確認すると懐中電灯を消してゆっくり扉を開いた、部屋の外に出て左右を確認するが誰も居ない。
来た時と同じように音を立てないように気を付けながら廊下を歩く、階段を上り1階へ上がる。
「誰だ!」
ちょうど階段から廊下に出た時、廊下の奥から声が聞こえた、俺は慌てて声がした方を向く。
懐中電灯でこちらが照らされている、しまったと思い慌てて靴を履く、近くには非常口がある、ここから出れば逃げられる。
非常口の扉を開けて外に飛び出す、どっちに向えばいい、取り敢えず森に入らなければ直ぐに見つかってしまう。
病院の壁伝いに走る、病院の裏まで来ると森に向かった、もう少しで森に着く、そう思った瞬間、森の中から何か飛び出した。
人だ、森の中に潜んでいたのだ、俺は慌てて方向を変えて別の場所から森に入ろうとするがそこにも人が居た。
振り向くと病院の方からも人が走ってくるのが見えた、逃げる場所が無い、だがこのままでは捕まってしまう。
一か八か森から出てきた人を振り切って森に入ろうとしたがあっけなく取り押さえられてしまった。
うつ伏せに倒れた俺の上に人が乗っている、やがて病院の方から走ってきた人も取り押さえられたままの俺の周りに集まってくる。
俺は周りの様子を確認する為に頭を上げようとするが押さえつけられてしまう。
「はなせ!」
押さえつける力に抵抗しながら叫んだが反応は無い、変わらない力で俺を押さえつけている。
右腕が一際強い力で押さえつけられた、抵抗しようとするが動かす事も出来ない、多分2、3人掛かりで押さえつけているのだろう。
それから直ぐに何を腕に刺されたような感覚、注射だ。
「やめろー!」
叫びながら暴れる様に抵抗するが身動きが出来ない、押さえつける力が弱まった気がした、いや、意識が遠のいて感覚が弱くなっているのだ。
やがて押さえつけられている感覚は完全に無くなる、目の前も真っ暗になりそのまま眠ってしまった。
――ちょうど大樹が森の中で自動車のブレーキランプを見つけていた頃。
村では村長の家に村人が集まって話していた、子供達は敏子の家で眠ったまま、ここに居るのは大人達だけだ。
ロウソクが数本立てられているが家の中は薄暗い、その中で村の大人達が話している、中には立ち上がって怒鳴る様に話している男、俯いて泣いている様な女も居た。
村長は男の話を黙って聞いている、他の男がなだめる様に立ち上がっていた男を座らせる。
やがて村長が口を開いた、村人達は黙ってそれを聞いている。
村長が話し終わると意を決した様に男が立ち上がった、それに続いて女も1人立ち上がる。
立ち上がった男は村長に何か話すと、家の外に出て行った、立ち上がった女もそれに続いて家を出る。
2人は暗い森の中に消えてゆく、残った村人は黙ってそれを見送っていた。
あちら側は多分村がある方向だ、男達が完全に遠ざかったのを確認すると俺は立ち上がった。
何者なのかは分からないがこの状況で森の中に居ると言う事は間違いなくフタバを連れて行った奴だろう。
村の方へ戻ったと言う事は村に居るのだろうか、村で1年以上生活しているが一度も見た事がない。
その時ふと思い出した、懐中電灯を持っていた3人とは別の2人、そいつ等の服装、はっきりとは見えなかったがあれは白衣だ。
俺は病院の事を思い出す、病院としては大きくは無いがあの建物は2階建て、それに地下もあるようだった。
だが病院に居る人で会った事があるのは村上さんと鈴木さんだけだ、あれだけ大きな病院を2人だけで管理しているとは思えない。
村は親が居ない子供達の為の養護施設で病院はその村の為の医療施設だと思っていたが、それだけならばあれだけ大きな建物である必要は無い。
きっと子供達を連れて行った連中は病院に居るのだ、そして、俺や子供達が病院に行く時には隠れている。
このままフタバを連れて行った自動車を追いかけても行き先は分からないだろう、しかし病院に行けば何か手掛かりがあるかもしれない。
そう思うと俺は歩き出した、真夜中とはいえ村の中を通る訳にはいかないだろう、懐中電灯の明かりもさっきまで俺を捜していた連中に気付かれない様に、足元だけを照らす様にして暗い森の中を歩いて行く。
懐中電灯を消して辺りを見回す、大分村の方まで戻ってきた様だ、木々の隙間から月明かりに照らされた村が見える、森の近くには畑が広がっていてその直ぐ奥には家が見える、今はちょうど家がある所の真横辺りだろうか。
さっき俺を追いかけてきた連中が俺を捜してこの辺りに潜んでいないとは限らない、ここならば村の方から誰かが来ても直ぐに分かるしいざと言う時は森の中に逃げ込む事も出来るだろう。
そう思って懐中電灯は消したまま村と森の間を歩き始めた、家、水田、新しい畑、そして病院と村の間にある森の中に入った。
木々の隙間から病院の様子を伺う、照明はついていない様だが、うっすらと光が見える、常夜灯や非常口にある光だろうか。
病院までは結構距離がある、森と病院までは背の低い草しか生えていない、しかも病院の敷地内はコンクリートで整備されていて身を隠す場所も無い。
もしここから病院に向う途中で俺を追って来た連中に見つかったら逃げるのは難しいだろう。
そう思うと俺はまた森の中を歩き始めた、病院の様子を伺いながら森の中を病院の裏手に向って進む。
やがて木々が途切れ、草だけが生えている場所に出る、ダイゴを捜して森の中に入った時に通った場所だ。
身を低くして病院と森の境目まで歩いて行く、ちょうど境目の所に着くと辺りを見回した。
俺は森を出ると身を低くしたまま走り出す、そして病院の壁に背を付けるとまた辺りを見回した。
誰も居ない、大丈夫だ、気付かれていない、壁に背を付けたままゆっくりと動き出す、そのまま病院の入口近くまで来ると俺は止まった。
森の中で俺を追いかけてきた連中は何処に行ったのだろう、病院の中に居るだろうか、それとも村、もしくは森の中にまた行ったのだろうか。
考えていてもしょうがない、俺は病院に入って子供達が連れて行かれた場所の手がかりを探すのだ。
しかしその後はどうする、歩いて森の中を通り抜け、警察に駆け込むか、どうするにせよ、まずは子供達が連れて行かれた理由を調べてからだ。
辺りを見回しながら病院の正面に回る、鍵が閉まっていたらどうしようかと思ったが病院の扉はすんなり開いた。
病院の中は外とは違い少しの足音でも大きく響きそうだ、俺は靴を脱いで抱えると実を低くし、ゆっくりと歩き出した。
入口付近と病室がある辺りしか通った事がない、どちらに向えばいいかも分からないが俺は廊下を進んで行く。
病院の中は思ったよりも明るかった、誰かが同じ廊下に居たら直ぐに気付かれてしまうだろう、誰かが来ても先に気付く事ができるように物音に注意しながら病院の廊下を歩いて行く。
やがて廊下の終端に着いた、正面は非常口になっているのだろう、非常口である事を示す緑色の看板が光っている。
ここまで歩いて来てあったのは病室と給湯室だけだ、非常口の直ぐ脇には階段があった、上、下どちらに向うべきか。
もしもこの病院の中に隠したい物があるとしたら地下だろう、俺はそう思うと足音を立てないように気を付けながら階段を下り始めた、素足だったので思ったより足音はしなかった。
階段を下りると廊下を見渡す、誰も居ない事を確認して廊下を歩き始める、1階は病室と給湯室だけだったが地下は色々な部屋があった、俺は1つ1つの部屋を確認する様に進んで行く。
幸い部屋の扉には鍵が掛かっていなかった、音を立てないようにゆっくりと扉を開けて部屋の中に入る。
ここは手術準備室だろうか、部屋の中を見回す、部屋の中にある棚には手術に使う為と思われる道具が陳列されている、ここには手掛かりになりそうな物は無い、そう思って部屋から出た。
隣の部屋の扉を開ける、部屋が狭く感じるくらい大量の棚が置かれていて中には薬品が入っている、ここにも何も無いだろう。
そうしていくつかの部屋を確認していると物音が聞こえた、足音だ、俺は慌てて廊下を見渡す、誰も居ない、だが足音は確かに聞こえる、そしてその音は大きくなっている気がする、多分階段を下りて来ているのだ。
近くにあった部屋に入り息を潜める、扉越しでもはっきりと分かるくらい足音が近づいてきた、やがて足音は遠ざかって行く。
俺は軽く溜め息をついて辺りを見る、暗くてよく見えない、部屋の中ならば明かりをつけても大丈夫だろう、そう思って俺は懐中電灯をつけた。
診察室、いや、病院の職員の部屋だろうか、棚に懐中電灯を向けるとなにやら難しそうな本が並べられている。
部屋の奥には大きめの机が置かれていた、机の上には何も乗っていない、引き出しには何か入っているかも知れない。
俺は机の裏に回ると椅子を寄せて引き出しを開けた、中に入っている書類を床に置いて広げる、そして1つ1つ懐中電灯で照らしながら内容を確認する。
医療器材を購入した明細の様な物、医薬品の効能をまとめた様な資料、そういった物をめくりながら床に広げた書類を確認する。
子供達の手掛かりになりそうな物は無い、そう思って別の引き出しを開ける、中にはクリアファイルにまとめられた書類が入っていた。
クリアファイルを手に取り中身を取り出す、診断書のコピーだろうか、性別、血液型、生年月日等が書かれている、名前が書いてあるところを見たが聞いた事の無い名前だ、村の人ではないのだろうか。
引き出しに入っていたクリアファイルを次々と取り出して中身を見る、どれも見た事の無い人の物だ。
いくつかそうして見ていると少し違った形式で書かれている物があった、名前欄を見る、苗字は書かれておらず、一樹、とだけ書かれている。
「カズ、キ?」
俺は思わず口にした、続けてその診断書のコピーを見る、生年月日、血液型が書かれているがカズキの生年月日も血液型も分からない、だが生年月日から逆算すると年齢は13歳、大体カズキもそのくらいだ。
同じクリアファイルに入っていた別の書類を取り出す、組織適合検査、書類の一番上にはそう書かれていた。
書類の中身を見るがよく分からない、なにやら数値が書かれている、一番上に書かれている通り何かの検査結果なのだろう。
別のクリアファイルを取り出す、カズキの物と同じ様に苗字が無く名前だけが書かれている、二葉、きっとフタバの事だ。
性別は女性、生年月日から逆算すると年齢は12歳、間違いないだろう、同じクリアファイルに入っていた別の書類を見る、カズキの物と同じく組織適合検査と書かれていたがこの書類には赤いペンで、適合、と書かれていた。
書類はモノクロなので後から書き足された物だろう、気持ちの悪い、いや、恐ろしい予感が脳裏を過ぎる。
俺は次のクリアファイルを取り出して中身を見る、名前欄には正三、会った事は無いが子供達が言っていたショウゾウ君の事だろう。
同じ様にクリアファイルに入っている別の書類を取り出す、予想通り赤いペンで、適合、と書かれている。
引き出しに入っているクリアファイルを次々に取り出し中身を見てゆく。
シオン、ダイゴ、ロクスケ、それぞれ同じ様に診断書と組織適合検査という書類が入っている、そしてダイゴの組織適合検査と書かれた書類には赤いペンで、適合、と書かれていた。
俺は取り出した書類をクリアファイルに戻してまとめると、壁に背をつけて大きく息を吐いた。
やはりこの村は養護施設では無かった、子供達の将来など考えられてはいない、子供達は臓器提供者として育てられていたのだ。
自分で出した結論だがあまりにも恐ろしい話だ、だが今まで村で見てきた事、そしてここにある書類を見ればそうとしか考えられない。
心臓が高鳴る、俺は座ったままクリアファイルを抱えて考えた、これからどうするべきか、子供を臓器提供者として育てるなど許される訳が無い、やはりこれを持って警察に行くべきだろうか。
どうするにせよ俺はもうこの村には居られない、朝が来れば村を出る事も出来なくなるだろう、逃げるならば今のうちだ。
俺はクリアファイルを懐に入れると立ち上がった、入口の扉の前で外の音を聞く、何も聞こえない、それを確認すると懐中電灯を消してゆっくり扉を開いた、部屋の外に出て左右を確認するが誰も居ない。
来た時と同じように音を立てないように気を付けながら廊下を歩く、階段を上り1階へ上がる。
「誰だ!」
ちょうど階段から廊下に出た時、廊下の奥から声が聞こえた、俺は慌てて声がした方を向く。
懐中電灯でこちらが照らされている、しまったと思い慌てて靴を履く、近くには非常口がある、ここから出れば逃げられる。
非常口の扉を開けて外に飛び出す、どっちに向えばいい、取り敢えず森に入らなければ直ぐに見つかってしまう。
病院の壁伝いに走る、病院の裏まで来ると森に向かった、もう少しで森に着く、そう思った瞬間、森の中から何か飛び出した。
人だ、森の中に潜んでいたのだ、俺は慌てて方向を変えて別の場所から森に入ろうとするがそこにも人が居た。
振り向くと病院の方からも人が走ってくるのが見えた、逃げる場所が無い、だがこのままでは捕まってしまう。
一か八か森から出てきた人を振り切って森に入ろうとしたがあっけなく取り押さえられてしまった。
うつ伏せに倒れた俺の上に人が乗っている、やがて病院の方から走ってきた人も取り押さえられたままの俺の周りに集まってくる。
俺は周りの様子を確認する為に頭を上げようとするが押さえつけられてしまう。
「はなせ!」
押さえつける力に抵抗しながら叫んだが反応は無い、変わらない力で俺を押さえつけている。
右腕が一際強い力で押さえつけられた、抵抗しようとするが動かす事も出来ない、多分2、3人掛かりで押さえつけているのだろう。
それから直ぐに何を腕に刺されたような感覚、注射だ。
「やめろー!」
叫びながら暴れる様に抵抗するが身動きが出来ない、押さえつける力が弱まった気がした、いや、意識が遠のいて感覚が弱くなっているのだ。
やがて押さえつけられている感覚は完全に無くなる、目の前も真っ暗になりそのまま眠ってしまった。
――ちょうど大樹が森の中で自動車のブレーキランプを見つけていた頃。
村では村長の家に村人が集まって話していた、子供達は敏子の家で眠ったまま、ここに居るのは大人達だけだ。
ロウソクが数本立てられているが家の中は薄暗い、その中で村の大人達が話している、中には立ち上がって怒鳴る様に話している男、俯いて泣いている様な女も居た。
村長は男の話を黙って聞いている、他の男がなだめる様に立ち上がっていた男を座らせる。
やがて村長が口を開いた、村人達は黙ってそれを聞いている。
村長が話し終わると意を決した様に男が立ち上がった、それに続いて女も1人立ち上がる。
立ち上がった男は村長に何か話すと、家の外に出て行った、立ち上がった女もそれに続いて家を出る。
2人は暗い森の中に消えてゆく、残った村人は黙ってそれを見送っていた。