「お昼だよー!」
 子供達に向って言う、子供達は俺に気付くと走ってこちらに向って来た、皆揃って家の方に向う。
 途中カズキが話し掛けてきた。
「今日は一緒に遊べる?」
 俺は少し悩んで答える。
「んー、大丈夫だよ、ご飯食べたら遊ぼうか」
 特に急いでいる農作業も無いし大丈夫だろう、そう思って俺は答えた。
「やったー」
 カズキは嬉しそうにはしゃいでいる、他の子供達も嬉しそうにして飛び跳ねる様に歩いていた。
 家に戻ると器にそれぞれ食事を盛り付け家の中に運ぶ、カズキは自分の分、俺は村長さんと自分の分を持って行くと揃って食事を始めた。
「いただきます」
 そう言って食事に手を付ける、相変わらずカズキはあっと言う間に食べ終わると家の外に走って行く。
「先に行ってるね」
 カズキは家の入口近くで振り返ると俺に向かって言った、俺は食事の手を止め手を振りながらそれに応える。
「ああ、わかってるよ」
 俺はそれからしばらくして食事を食べ終わると食事の後片付けをする、食器を片付けながら考えた。
 今日は何をして子供達と遊ぼうか、いつもボール遊びだけでは直ぐに飽きてしまうだろう、そういえば。
 俺は後片付けを終えると直ぐに広場には向わずに小屋へ向った、小屋に入ると印刷用紙が入った袋と鉛筆を6本取り出す。
 印刷用紙と鉛筆を小屋の入口近くに置くと次は下敷きになる様な板を探す、なかなか見つからない、少し前、子供達に広場で文字を教えようとした時に使った板を取って置けばよかった。
 他の家の小屋には何かあるだろうか、そう思って小屋を出ようとしたところで思いついた。
 俺は小屋の中に戻り印刷用紙の詰まったダンボール箱から印刷用紙の袋を取り出す、取り出した印刷用紙を小屋の中に重ねて置くと、ダンボール箱を分解して6枚のダンボール紙にする、これを下敷きにしよう。
 小屋から出した筆記用具を脇に抱える様にして広場へ向おうとしたが、一度に全ては持てなかった為、抱えていた筆記用具を全て小屋の前に重ねて置くと、手ぶらで広場へ向った。
 広場に着くと子供達は相変わらずボールで遊んでいた、俺は広場の入口で手を振り、子供達を呼び集める。
「おーい」
 子供達はボールをこちらに投げ、それを追いかける様にして集まって来た、俺は足元まで転がってきたボールをカズキに渡す。
「今日は何するの?」
 ボールを受け取るとカズキは言った、どんな楽しい事があるのだろうと目を輝かせながらこちらを見ている。
「今日はお絵描きをしよう」
「お絵描き?」
 何の事だか分からないといった様子で聞き返す。
「付いて来て」
 そう言って俺は家の方に向って歩き始めた、子供達も揃って後を付いて来る、歩いている間も子供達はボールを投げ合って遊んでいた。
 小屋の前に着くと、俺は子供達にダンボールで作った下敷きと鉛筆を渡した、カズキが早速下敷きを曲げようとしていたのでそれを止める。
「待って待って、その紙は曲げないで」
 カズキは慌てて下敷きから手を離す、俺はカズキが落とした下敷きを拾い上げるとカズキに渡しながら言った。
「じゃぁこれを持って広場に戻ろう」
 俺は自分の分の下敷きと印刷用紙、鉛筆削りを持つと広場の方へ歩き出した、子供達も後から付いて来る、ボールは蹴って運んでいるようだ。
 広場に着くと俺は草が生えている所を選んでそこに座る、子供達も同じ様にして俺の周りに座った。
 俺は印刷用紙を一枚ずつ子供達に渡すと辺りを見回した、広場の家とは逆方向の端に少し大きな木が生えている、それを指差しながら言った。
「じゃぁあの木を描こう」
 子供達はよく分からないといった様子でこちらを見ていた、しょうがないなと思い俺は手早く木を描く、自分で言うのもなんだがやはり下手だ。
 これを見せたとしても子供達にとってあまり良い手本にはならないだろう、それどころかあの木を描いたのだと分かってくれるかどうか心配になるほど俺が描いた絵の出来は悪かった。
 そうは言っても他に手本が無いからしょうがない、そう思って自分の描いた木の絵を見せる。
「ほら、こんな感じで」
 子供達は少し感心した様子でそれを見ると手を動かし始めた、しかし直ぐに手を止めて言った。
「これ」
 隣に座っていたシオンだ、手には削られていない鉛筆が握られている。
「あー、ごめん、ごめん」
 俺は鉛筆削りを子供達に渡す、子供達は順番に鉛筆を削り終わると木を描き始めた、俺もその様子を見届けると、せめて風景に見える様にと思い、さっき手本用に描いた木の絵の続きを描き始めた。
 木の奥にある畑、手前の広場、そしてその境目に生えている草等を描き足してゆく、一通り描き終えたところで少し離して見てみる。
 思ったより上手く描けた、周りに居る子供達の様子を見てみる、皆思い思いの方法で風景を描いていた。
「できた!」
 そう言って立ち上がったのはカズキだ、カズキは俺の近くまで歩いて来ると手に持っていた紙を俺に渡す。
 俺は渡されたその絵を見る、思ったより、いや、かなり上手だ、字を覚えたりせずに絵を描くと上手く描けるものなのだろうか。
「上手だね、俺より上手だよ」
 俺は素直に感想を言ってカズキに絵を返す、絵を受け取ったカズキは嬉しそうに笑っていた。
 やがて他の子供達も描き終わった様だ、それぞれ自分の描いた絵を持って見せ合っている、俺も自分の絵を子供達に渡し、子供達の絵を受け取って見た。
 やはり皆上手だ、俺が下手というのもあるかもしれないが、それを差し引いても皆上手く描けている様に思えた。
「次はー?」
 シオンが言った。
「んー」
 俺は少し考えた、思ったよりも皆早く描き終わってしまった、夕食まではまだ時間があるが絵を描く以外の事は考えてなかった。
「よし」
 俺はそう言って立ち上がると腰を軽く捻り背伸びをする、同じ風景を描いてもつまらないだろう、そう思って言った。
「じゃぁ病院の方に行ってみよう」
「病院?」
 子供達も立ち上がり聞き返してくる。
「ほら、ヘリコプターが来る所」
「わかった!」
 子供達は返事をすると、それぞれ自分の下敷きと鉛筆、印刷用紙を持って立ち上がった、皆揃って広場を後にする。
 家の間の道を通り水田の間に出る、もう少しで水田の間を抜けるだろうかという辺りで水田の方から声を掛けられた。
「おーい! どごさ?」
 シゲさんだ、農作業中なのだろうか、水田の中からシゲさんはこちらを見て手を振っている。
「ちょっと病院の方まで絵を描きに行こうと思って」
 俺も手を振りながら応える。
「そうかー気を付けでなー」
 そう言うとシゲさんはまた農作業を始めた、俺と子供達はまた病院の方に向って歩き始めた。
「ちょっと水を飲んで行こう」
 そう言って俺は水田の間を抜けた所で道を外れて脇の方に進んで行く、子供達も後から付いて来る。
 滝の前に着くと、俺は筆記用具を脇に置いて袖を捲くり、滝の中に腕を突っ込んだ、手をよく洗い、水をすくって口に含む。
 子供達も同じ様に手を洗い、水をすくって飲んでいた、水を飲み終わり手から水をよく切って袖で手と顔を拭くと、また筆記用具を持ち、子供達と揃って病院の方に向って歩いて行く。
 村の中央を通っている道に戻り、病院と村の間にある森を抜けて行く、森を抜けると背の低い草が生えている場所に出る。
 前に見た時よりも少し草が伸びていた、今は腰の辺りまである、病院の敷地内、コンクリートの地面になっている所まで来た。
「じゃぁこの辺で描こうか」
 俺はそう言うと座って筆記用具を膝の上に置いた、子供達も同じ様にして座る、子供達に新しい印刷用紙を一枚ずつ渡した。
 子供達は印刷用紙を受け取るとそれぞれ絵を描き始めた、俺も自分の印刷用紙を下敷きの上に置いて病院のある風景を描き始める。
 やはり直線的な建物は描き易い、建物の輪郭に沿って真っ直ぐに線を引き病院を描いてゆく。
 病院の建物を大体描き終わり、その後ろにある森を少し描いたところで手を止めて立ち上がった。
 こっそりと子供達が描いている様子を後ろから見る、さっき広場で描いた風景と同様、皆上手く描けている。
 ロクスケの描いている絵を見ると、今ここには無いがヘリコプターも描かれていた、その周りに沢山人が居る。
 ついこの間やった物資を受け取っていた時の風景だろう、子供の絵らしく人は全員正面を向いていた。
 同じ様にしてシオンの描いている絵を見る、ヘリコプターは描かれていないが病院の前に人が並んでいる、村の人だろうか。
 そう思って見ているとシオンが気付いて振り返った、シオンは恥ずかしそうにして自分の描いている絵を隠してしまう。
「ごめんごめん」
 俺はそう言って座っていた場所に戻り絵の続きを描き始めた。
「出来た!」
 カズキが座ったまま言った、俺は自分の描いている絵を地面に置くと立ち上がってカズキの近くまで行く。
「上手に描けてるね」
 後ろから覗きながらそう言うとカズキの隣に座る、カズキは嬉しそうにして自分の描いた絵を眺めていた。
「これは、村の人?」
 俺はそう言いながらカズキの絵に描かれている人を指差す、カズキの絵には病院が描かれていてその前に人が並んで立っていた。
「ううん、ここの人」
 カズキは病院を指差しながら言った、病院の人、という事なのだろうか、俺が知る限り病院には村上さん、鈴木さんの2人しか居なかった、しかしこの絵にはもっと沢山の人が居るように描かれていた。
 他の子供達も皆描き終わった様でそれぞれ自分の描いた絵を見せ合っている、俺はしばらく黙ってその様子を見ていた。
「ご飯できたよー」
 後ろの方から呼ぶような声がした、振り向くと敏子さんがこちらに向って手を振っている、俺も手を振って応えた。
「じゃぁそろそろ戻ろうか」
 そう言って立ち上がる、子供達も俺に続く様にして立ち上がると揃って村の方に歩き始めた。
 病院と村の間にある森の中を抜け、水田の間を通り村に戻る、空を見るともう陽が傾き始めていた。
「夕飯、作っておきましたから」
 ちょうど道を外れて村長さんの家の方向に向おうとした所で敏子さんが言った、俺は慌てて振り返り礼を言う。
「ああ、ありがとうございます」
 子供達はそれぞれ自分の家に駆け足で向かって行った、カズキも駆け足で村長さんの家の方に向う。
 俺も敏子さんに向って軽くおじぎをするとその後を付いて行き村長さんの家の中に入った。
 家の中に入ると村長さんは既に食事を済ませていた様だった、俺とカズキの分の食事が並べて置いてある。
 カズキは既に食事を始めていた、俺もその隣に座って食事を食べる。
 俺は食事を食べ終わり後片付けを済ませると直ぐに床に就いた。