ことばの波止場
和田 誠

 2006年最後の締めくくりとして来年の新書界の動向を考慮して、白水Uブックスの和田誠のエッセイ「ことばの波止場」を紹介したい。今年の新書を振り返ってみると、新書創刊ラッシュが続いた。祥伝社、朝日新聞、幻冬舎など大手出版社がこぞって新書に参入した。入門書という新書の本来持っていた枠組みを取り払い、サブカル的な要素が強い新書も登場するようになった。来年は新書界でエッセイ、文学新書が予想される。その先駆け的な存在の白水Uブックスから可能性を探りたい。

 まずこれだけ今年新書が創刊されたなかで、純粋に書き下ろし文学作品を新書の形で出版したのは唯一、ちくまプリマー新書「包帯クラブ」であった。ノベルズや文庫があるため、新書での文学作品は、白水社のUブックスをみてもわかるとおり、古典名作や質の高いエッセイといったラインナップ。また、新書の字数制限の影響もあってエッセイ、文学はこれまでなかなか出版されなかった。この条件なかで来年、創刊されたばかりの新書が次々に読み物を出版するだろうか。答えは、和田誠のエッセイの中にあった。このエッセイ、1995年に同社から単行本で出版され、約10年の歳月を経て新書になった。最近の単行本から軽装版になるスパンが短くなっていく傾向のなかで異例。それは内容が決して古くない。いつ読んでも新鮮さを感じる。イラストレイターであり、絵本作家であり、翻訳家であり、評論家である和田誠のことばへの愛情がひしひし伝わる。ことば遊びがなつかしい。意味もわからず覚えた語呂のいい歌や韻を踏む詩。そこには時代をこえて語り継ぐことば文化が存在していた。10年経った今になってまったく新しい読み方ができる。既存の新書には10年、20年経ってもいまでも遜色なく読める新書が実に多い。岩波新書や中公新書に多い。来年出版されるエッセイ新書、文学新書が新刊のときはいいが、10年経って読んだときにこの和田誠のエッセイのような輝きはあるだろうか。白水Uブックスのような良質のエッセイならエッセイ新書の可能性は充分にあると思う。

 果たしてエッセイ新書、文学新書が登場し、定着していくのか来年も新書から目が離せない。