ママの狙撃銃
荻原 浩
 「明日の記憶」でブレークして今や押しも押されぬ人気作家になった荻原浩。
山本周五郎賞受賞「明日の記憶」の後、原稿依頼が当然殺到した。この新刊は3、4本の連載を同時進行している中で、生まれた作品である。 

 「明日の記憶」「あの日にドライブ」では中高年のせつなさを書かせたら、荻原浩も右にでるものいないと言わしめた。「噂」「さよならバーズデー」では、衝撃のラストシーンに震えた。「衝撃ラストの浩」の異名をも作った。
今回の新刊「ママの狙撃銃」。初期の荻原浩の作風を思い出させる作品。いってみれば荻原の得意のジャンル。純文学のように高尚でなく、ミステリーや時代小説のようなあっと驚くトリックや感情を揺さぶる人情話ではもない。荻原の小説は、今最も多くの読者から読まれている新ジャンルの小説、一部ではエンタメ小説と名づけられる。
エンタメ小説はそのストーリーの設定の面白さがまず重要。そして登場人物のキャラクターの造形でよりいっそう読ませる。話は収まりよく終わらないのも特徴的。
「ママの狙撃銃」の主人公はアメリカでおじに育てられ、日本で夫と娘と息子の3人家族で暮らすどこにでもいる平凡な主婦、曜子。実は曜子は裏の顔を持っているという話。そうスナイパー。
娘と息子と夫にはそれに気づかれずに生活しながら、任務を遂行しなくてはならない。その現実生活と仕事との葛藤なかで、任務を成功させるドタバタ劇が笑える。
荻原浩のユーモアが久々に炸裂した作品だった。