どうで死ぬ身の一踊り
西村 賢太
注目の新人作家が登場した。
先日の第135回芥川賞は糸山秋子の「沖で待つ」が受賞した。芥川賞はだいたい文芸雑誌に掲載されたものが候補作になるので、単行本になるのは発表後になる。芥川賞も直木賞も受賞作に注目が集まり、芥川賞候補作が単行本になる頃には、「そういえば、これ候補作だったなあ」とすっかり忘れてしまっている。実は次のノミネート作品候補を考えるにも、チェックしたほうがいいのだ。なにせ年ある2回の芥川賞、直木賞で、何度ノミネートされ落選したかが、最近の受賞のステータスでもある。落選作品を読むことは次の受賞作を的中させるためにも欠かせない。
芥川賞候補作の今回の収穫は「どうで死ぬ身の一踊り」。
著者の西村賢太は同人雑誌出身で、これまでまったく名前を聞いたこともない新人。いきなり芥川賞候補作で驚いたが、読んで見て納得した。

凄まじい負のエネルギーと読後の衝撃。藤沢清造への偏愛と貧困、女への暴力というだめ男ぶりは車谷長吉を凌駕する私小説。坂口安吾の「生きよ 墜ちよ」の世界を身をもって実践する作家、いや平成の文士。最近、クールで小奇麗で小さくまとまる作家が多いなかで、異彩を放つ書き手が誕生した。