林文子 すべては「ありがとう」から始まる
岩崎 由美, 林 文子(日本経済新聞社)

 わが町の中心地にあって、長らく住民に安価な品を提供し流通改革を全国各地で巻き起こした「ダイエー」が閉店した。創業者の中内功が死んで1年ぐらい経った。ダイエーはもうだめなのかと思っていた。そんな矢先に外部から新社長を招き、ダイエーの再建に最後の望みをかけるという記事をみる。その重い責任を背負ったのがなんと女性で新社長の林文子氏だった。

 

 林文子氏はもとはホンダのセールスレディだった。今のように男女雇用機会均等法が存在しなかった時代で、当然飛び込み営業をやる女性など前例のないこと。そんな逆境のなかで林文子氏は売上記録を塗り替え、トップセールスを続けた。ヘッドハンティングでBMWに移り、現場で22年の営業活動を続け、フォルクスワーゲン東京の社長に就任しトップマネジメント6年という実績をもつ。女性の社会進出と出世コースを歩んだ草分け的存在。注目する世界の経営者ランキングでその年に日本人唯一選ばれるという世界的にも注目されている人物。


 従業員やお客様との幸せを第1に考え、相互間のコミニュケーションの必要性を説く。林イズムが浸透するまでには多少時間がかかると思うが、かつてカルロスゴーンが日産再建でおこなった非採算工場の閉鎖や大量のリストラを前面に押し出したゴーン改革とは違い、日本的経営のもつ従業員は家族であるという考えのもと、日本人にあう穏便な改革を推し進めているのに好感が持てる。

自身もれっきとした主婦で帰りにダイエーで毎日惣菜を買ってかえるようだ。庶民の感覚をもつカリスマ女社長でダイエーがいつの日かわが町に戻ってくることを期待している。