クオリア降臨
茂木 健一郎(文芸春秋)

 茂木健一郎の勢いが止まらない。「脳と仮想」で小林秀雄賞受賞後、人気がうなぎ昇り。それに伴って新刊ラッシュが続いている。そしてついに文芸批評含む芸術論を出版した。


 養老孟司のミステリー好きは有名な話だが、一般に脳学者や心理学者たちは、文学偏重だと思う。脳と文学、もしくは科学と文学は違うようであるけど実は非常に似ているのである。だから脳の仕組みや心理の分析の専門知識を駆使して、普通の文芸評論ではありえない視点で内容や表現への深い考察と質の高い批評ができるのだろう。その読書領域が古典から若手作家までカバー得るのは、文学のもつ柔軟な融合性のために起こる。

「百万部突破」とか「10年に1度の傑作」と呼ばれる最近の作品はあたかも価値があるものかのように宣伝させているけれど、情報の氾濫のなかで人間の脳は悲鳴を上げ、情報というものをとらえ切れていない。いまこそ中身のないスカの現代文明から本質を切り取って情報環境に屈しない人間回復をめざしたい。それには古典の再考と訴えている。


今月の徳間書店の新刊からなんとファンタジー小説を発売する予定の茂木健太郎だが、そこまではやるとやりすぎだ。