ルパンの消息

横山 秀夫(光文社)


 横山秀夫の幻の処女作。1998年の「陰の季節」で松本清張賞受賞する7年前に書かれたもの。たいがい作家はある程度、作家としての地位が安定してくると未発表の処女作を出す傾向がある。読者にしてみると創作活動に苦しんでいるのではないかと考えてしまう。


 横山秀夫の場合は、この「ルパンの消息」でサントリーミステリー大賞佳作をとっているが、現時点で15年も前の作品。いまさら処女作を読まなくてもいいと思うかもしれないが、横山秀夫には空白の7年間がある。「ルパンの消息」を書いて佳作はとったものの、出版されず、その後7年間文字通り本人自身消息不明となった。その空白の7年の謎を解き明かすのにも「ルパンの消息」の出版について、多くのファンの熱い要請があった。


 本書は警察官は登場するものの、現在の横山秀夫の特徴の警察管理部門小説のテイストは感じさせず、むしろ、警察小説でありながら、できの悪い高校生が主人公で、15年前に期末テスト奪取計画の際に出くわした女性教師殺人事件の真相を追う青春ミステリーとしても読める。その当時、日本を震撼させた三億円事件も絡む複眼的な要素を盛り込んでいる。


たぶんこの先に横山秀夫はこういった作品は書かないだろう。そういった意味でも読み価値あり。今年の横山秀夫は多筆で新刊の発売目白押し。今年の文芸書を牽引してくれることを楽しみにしている。