昔書いた童話を掘り当てました

自分的には割と好き

紙芝居にして読み聞かせに使ったこともあります


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 たかしくんのおとうさんはロボットを作る会社で働いています。

 交通整理をするロボットも、お料理ロボットも、ロボット消防隊も、おとうさんの会社の人達が作ったものです。

 おとうさんは街でロボットを見たり、テレビにロボットが出たりすると、指を差して「たかし、ごらん。あれもおとうさんが作ったロボットだぞ。」と自慢します。
 たかしくんはそんなおとうさんを少しうるさいなと思うこともありましたが、それよりずっと、おとうさんは偉いなと思っていました。たかしくんはおとうさんが大好きだったのです。

 おとうさんはうちでもロボットを作っていましたが、たかしくんはずっとそのことを知りませんでした。おとうさんは毎日遅くまでお仕事に行っていて、たかしくんは寝てしまった後に帰ってくるからです。
 おとうさんはロボットのことを内緒にしておきたかったから、おかあさんにも口止めをしていました。たかしくんに気付かれないように毎日少しづつ部品を買い足して、ガレージの隅の工作台で夜中まで組み立てをしていたのです。

 たかしくんがロボットの事を知ったのは、たかしくんの八歳の誕生日の時でした。ロボットはたかしくんのお誕生日のプレゼントだったのです。
 ロボットは全身ブリキ色で、ちょっと太めの子供のマネキン人形のような格好でした。
「たかしが喜んでくれて嬉しいよ。」
 おとうさんは真っ赤な目を細くして、満足そうに笑いました。今日に間に合わせるために、おとうさんは徹夜をしたのです。
 自分でロボットを作ってしまうなんて、たかしくんには魔法のようです。たかしくんはおとうさんってすごいなと、いつもよりずっと尊敬してしまいました。

 おとうさんが背中のスイッチをいじると、ロボットはぱっちり目を開けて、立ち上がりました。ロボットはおとうさんと、おかあさんと、たかしくんを交互に眺めました。
「名前をつけてあげなくちゃいけないな。」おとうさんが言いました。
「僕が付けてもいい。」
「もちろんだよ。」
 たかしくんはどきどきしました。たかしくんの名前はおばあちゃんが付けてくれたものですが、たかしくんは誰かに名前を付けたことなんて産まれて初めてだったのです。

「ちびすけがいいよ。だって僕より小さいんだもん。」
「ちびすけ、たかしをよろしく頼んだぞ。」
 ちびすけはおとうさんに背中を押されてたかしくんの前に立ちました。ちびはなんだかどぎまぎしているように見えました。
「僕はたかし。よろしくね。」
 たかしくんはそういって右手を出しました。
『ぼくはちびすけ。よろしくね。』
 ちびすけもそういって右手を出し、たかしくんとちびすけは握手をしました。


 たかしくんとちびすけはすぐに仲良しになりました。ちびすけはたかしくんより少しだけ小さくて、かけっこも、木登りもたかしくんよりすこしだけへたで、たかしくんに弟ができたみたいでした。

 ある日たかしくんとちびすけは二人で近所の公園に行きました。ちびすけはたかしくんの行くところにはどこでもついていきます。
 公園には小学校の友達がたくさん遊びに来ていました。みんなはちびすけを見つけると集まってきました。ほんとうはたかしくんもちびすけを自慢したかったのです。

「この子はたかしくんのロボットなの。」
「そうだよ。おとうさんが作ってくれたんだぞ。」
「へぇ。たかしくんのおとうさんってすごいんだね。」
「パパもロボットつくれるかな。」
「頼んでみたらいいじゃないか。」
「この子の名前はなんて言うの。」
『ちびすけです。』
「わぁ、かわいい声。」
「こんなロボット見たことないね。」
「当たり前さ。おとうさんが作った、世界に一つしかないロボットなんだから。」

 その時、公園にけんたくんがやってきました。けんたくんは運動が得意で、学校の人気者です。
 けんたくんもロボットを持っています。けんたくんのロボットは、工場で働いているおとうさんのお下がりで、とても大きい、強そうなロボットです。

「なんだい、その小さいロボットは。てんで弱そうじゃないか。」
 けんたくんはちびすけを指差して笑いました。
「ロボットは大きくて強くなくっちゃ。僕のロボットはとうちゃんよりも大きいんだぞ。」
 けんたくんのロボットは両手でたかしくんとちびすけを軽々とつまんで、ひょいと肩に乗せました。かわいそうにちびすけはもともと小さいのにすっかり縮こまってしまいました。

「ロボットはかっこよくなけりゃだめだよ。」
 そういったのは学級委員のまなぶくんでした。まなぶくんのロボットは最新型の二段変形をするやつです。
「僕のロボットはメタル=コーティングだし、変形するとマッハ1で空を飛ぶんだよ。」
 まなぶくんのロボットはあっと言う間に飛行機に変形して、ごうんといって空に舞い上がりました。まなぶくんのロボットは太陽の光を跳ね返してきらきら輝きました。その姿があんまり奇麗でかっこよかったものだから、友達もたかしくんもちびすけも、ため息をついて見上げてしまいました。

「よーし、どっちが凄いロボットか競争しようぜ。」
「野蛮なけんかはだめだよ。傷が付くからね。」
 けんたくんとまなぶくんはそういってお互いのロボットを呼び寄せました。ちびすけを見に来た友達もみんな、二人のロボットの方に行ってしまい、たかしくんとちびすけはふたりぼっちで取り残されてしまいました。

『ごめんね、たかしくん。僕って小さいし、かっこよくもないし。』
 ちびすけが消え入りそうな小さな声で言いました。
「そんなことないよ。ちびすけは世界で一人しかいないロボットなんだから、自信をもっていいよ。」
 そして、たかしくんはロボット談議をする友達の中に飛び込んで行きました。

「ロボット比べをするならちびすけも入れておくれよ。」
「壊れたって知らないよ。」けんたくんが言いました。
「ブリキ色のロボットなんて問題外さ。」まなぶくんも言いました。


 その時、空の上の雲の間からういんういんという音とともに金色の光が伸びてきました。最初は飛行機かなにかだろうと誰も気にしていなかったのですが、光がまっすぐ公園の方に向かって来たので、びっくりして逃げ出しました。逃げ遅れたのはロボット比べに熱中していたたかしくん、けんたくん、まなぶくんの三人だけでした。

 気がついた時にはもう、三人は不思議な光に包まれて身動きがとれなくなっていました。
『たかしくん!』
 ちびすけはたかしくんを助けに光の中へ飛び込もうとしましたが、金色の光は壁のようで、思い切りぶつかったちびすけは頭をへこませてしまいました。不思議な金色の光は狙った以外のものを弾き返すように出来ていたのです。
「たすけて、ちびすけ!」たかしくんは大声で叫びましたが、声は光の外までは届きませんでした。でも、ちびすけにははっきりわかりました。
 たかしくんとけんたくん、まなぶくんはエレベーターに乗ったみたいに光の中を吸い上げられて、見えなくなってしまいました。金色の光の先には空飛ぶ円盤がありました。

「宇宙人だ。宇宙人の人さらいだ。」
 友達は口々にそういって逃げていきました。公園にはちびすけと二人のロボットだけが残されました。
『大変だ、助けに行かなくっちゃ。』
 ちびすけは空を見上げておろおろするばかりでした。
『そうだ、助けに行くんだ。』
『ご主人様を守るのはロボットの勤めだ。』
 まなぶくんのロボットはまたまたあっと言う間に飛行機に変形して、空高く舞い上がりました。
『一番早くご主人様を助けたのが一番いいロボットだ。』
 まなぶくんのロボットは言うが早いか、飛んでいってしまいました。
 けんたくんのロボットも背中のロケットに点火して、飛び上がりました。
『待ってよ、僕を置いて行かないでよ。』
 ちびすけはあらんかぎりの大声で叫びました。
『なんだ、おまえは空も飛べないのか。』
『うん。だから連れていってよ。』
『しょうがない奴だな。』
 けんたくんのロボットは、ちびすけをひょいとつまんで背中に乗せました。
『おっこちたって知らないぞ。』
『さぁ、みんなを助けに行こう!』


 たかしくんたちは気がつくと変な部屋の中にいました。壁も床もつるつるの丸い部屋です。部屋の一方には鉄格子がはまっていて、出口は見当たりません。三人はすぐに、どうやら閉じ込められたらしいと気がつきました。
 弱虫のまなぶくんはもうべそをかいています。けんたくんは怒っています。たかしくんはすこし心細かったけれど、ちびすけが助けに来てくれると信じていましたから泣きませんでした。

「ようこそ、地球の子供達。」
 甲高い、気取った声がしました。現れたのは緑の顔色の小さな人でした。三人の中で一番小さいまなぶくんよりもっと小さいくせに、大人の顔をしていて、髭まで生えている変な人でした。
「おまえは誰だ!」
 けんたくんが大声で怒鳴りました。
「私は地球を侵略に来た宇宙人だ。」
 宇宙人といわれて、たかしくんはなるほどと思いました。本当に宇宙人そのものだったからです。
「おまえみたいなよわっちい奴が地球を侵略するなんて出来るもんか!」
 けんたくんは誰にでも喧嘩を売るという悪い癖があります。でも、宇宙人はけたけたと気味の悪くなる笑い声を上げただけでした。
「弱くても侵略は出来るのだ。私は頭がいいからな。」
 そういって、宇宙人はまたけたけたと笑いました。
「私は地球を侵略する前に、成層圏からじっくり地球人の生態を観察したのだ。私は体が小さいから大人と喧嘩をするとまけてしまう。だからおまえ達子供をさらったのだよ。」
「そんなの卑怯じゃないか。」
 たかしくんも勇気を振り絞って言いました。宇宙人は今までの中で一番元気に笑いました。宇宙人は卑怯と言われて喜んでいるみたいでした。

「笑ってられるのも今のうちさ。僕のロボットが助けに来て、おまえなんかこてんぱんにやられちゃうんだからな。」
 けんたくんはそういいました。
「僕のロボットだってくるんだからな。」
 まなぶくんも鼻水を拭いて、しゃくり上げながら言いました。
「ちびすけだって来るんだからな。」
 たかしくんも負けずに言ってやりました。
「それでは用心しておこうかな。」
 宇宙人は気持ちの悪い笑い声を上げながらどこかへ行ってしまいました。

 まなぶくんはまためそめそ泣き始めました。けんたくんは顔中真っ赤にして我慢していましたが、とうとうこらえきれずにわんわん泣き始めました。たかしくんは鼻が熱くなったけれども我慢しました。ちびすけが助けに来てくれると信じていたからです。