とある会社に出向しているチームからSOSが入りました

新規顧客、けっこう一流どころ、これからビジネスを拡大するためにどうしても失敗させられないところです


2人チームのうちの一人、シニアのほうが「まったく使い物にならなくなっている」ということ

事務所でしばらく一緒に仕事をしていたことがあるのですが、会社の中でも1,2番目の実践的なエンジニアで、彼が「まったく使い物にならなくなる」シチュエーションがどうしても想像できません

たまたま前の仕事のめどがついて時間があったので、そして現場が自宅の近くだったので、様子を見に行くことにしました


彼はうつろな目をしていました

この現場に来てから仕事がまったく手につかない。この3週間に至ってはただの1行も書いていないということ

かなり硬い会社で、日本語のドキュメントが相当あり、参ってしまったというのが本人の弁

しかし、それをしゃべっている本人の様子が尋常ではありませんでした

ずっと顔を伏せてぼそぼそとしゃべる彼は、自分の知っている姿と違っていました

日本語のドキュメントが問題ならそんなのよまなきゃいい、やれることを順番にやればいいんだよと慰めてみましたが聞く耳をもたないかんじ

自分はもうだめなんです、プログラムなんでできないんです、そして最後にはプログラムの仕方を忘れてしまったとまで言いだす始末


ついでにもう一人、若い方とも話をしました

若いほうが日本語能力が高く、最初から彼が日本語担当、参っているシニアが実働担当という計画だったのですが、シニアがまったく働けていないので若いほうが全部やってしまっていました

若い方に確認しましたが、私の想定どおり、日本語の問題は全部若いほうが背負って、プログラミングに専念してもらえば何の問題もない現場ということ

そのくらいシニアのスキルは信用されているのでした


帰りの電車で考えていて、やっと思いつきました

これは鬱だ


いろいろ聞いて回ったところ思った通り、過去にも一度鬱で病院にかかっていたことがわかりました

天才肌で自由人的なところがある男なのですが、たった2人の現場、なれない大量の日本語ドキュメントにやられてしまったのでしょう

現場まで2時間以上かかるというのも、彼には負担だったに違いありません


次の日の昼休みに彼を再び呼び出しました

とにかく気持ちを軽くしてやること、そこから始めようと決めていました


出向先の上司には、最悪夕方まで戻らないかもしれませんと言い残して彼を連れ出すと、有無を言わさず2駅となりまで電車に乗りました

そこは最近できた大きなショッピングモールです

時間は調べてきたのですが、そこらへんは悟られないようにして、映画館に行き、2人分の席とポップコーンを買って「三銃士」を見てきました。ミラ・ジョボビッチの出てるやつ

まぁ、自分が見たかったってのもあるんですが


ちょうど良い具合に内容の軽い冒険活劇でした

見終わって、オフィスまで送っていく道すがら、言い含めました

まず、日本語のドキュメントを読むことを一切禁止します

若手をドキュメントだと思って、全部彼に聞きなさい


そして今日オフィスに帰ったら必ずやってほしいことがある

まず、若手に聞いて仕事をひとつ貰いなさい

そしたら、そのコードを書きなさい

コードは簡単なものでいい、1行以上5行以内

なんならコードを全部若手から教えてもらってもいい

できたら保存しなさい

今日はそこまで、それ以上のことをしてはいけません


会社に送り届けたら4時を過ぎていました

ついでに派遣先の上司の人と話をしてきました


実際のところ、2人はいい意味でも悪い意味でも大した仕事をしていたわけではないことがわかりました

初めての、オフショアの外注ですから、まぁ当然といえば当然です

会社の人がやっても終わるようなシンプルな仕事を外人2人にやらせて、どんなかんじか様子を見ようというプロジェクト

うちの会社としては、日本語ができる若手と技術がしっかりしているシニアを組ませたらまぁいいべ、くらいの見積もりで出したのですが、シニアのほうがやられてしまったわけです

若手は実直な青年なのですが、融通が利かないタイプです

与えられた仕事がくそまじめに終わらないのでパニックを起こしてしまった、というのが真相

会社の上司としてはシニアがうまく機能していないのはとうにわかっていた模様

予定どおりいかないなら修正案を出してくれればいいのに、いつまでたっても言い出さないからうかつに手も出せなくて困惑していたようです


さらに1日本社に呼び戻して事情聴取して、とりあえず会社側から出された数値目標はいったん忘れて、今残っている仕事を全部棚卸しなさい。できたら優先順位をつけて、高い方から順番に片づけていきなさいと指示を出しました


幸いなことに、シニアの鬱はあの日以来V字回復をして、一週間後には普通にコードをかけるようになっています

現状より悪くならなければいい、その間に病院を探そうとおもっていたのですが、素人療法がたまたまうまくいって、ラッキーでした