...昨日の続き...
完結編

『そんなに遠くないから大丈夫よ』
と言う『Aさん』と僕は
『立派な先生』
を目指して公園を後にしました...

雑談を交わしながら
住宅街を移動すること約10分
押してきた自転車を
建物の駐輪場に納めながら
『ここよ』と『Aさん』は言いました

少し古い印象はあるものの
建物に目立った特徴はなく
なんの変哲もない
4〜5階建のビル

『さあ、どうぞ』と
『Aさん』に促されて
僕はそのビルの扉を開けた

『なんじゃコリャ!!』と
飛び出しそうになる声を
なんとか堪え
辺りを観察する...

両サイドに小川が流れる
豪華な廊下が
玄関から階段まで
一直線に繋がっている

大きくて幅の広い
階段の両端には
蝋燭が立てられ
ゆらゆらと
炎が揺いでいる

階段のところどころには
目を閉じて
何かをブツブツと唱える
男女が正座している

『スッゲェ〜!!』と言う
自分の声が僕の脳内だけで
繰り返し再生されている...

そんな僕には目もくれず
無言で歩く『Aさん』に
僕も無言でついて行く
『小川廊下』を抜け
『蝋燭正座階段』を登ると

『この部屋で
先生のお話しが聞けるのよ』と
小さめの体育館くらいある
畳敷きの部屋を
『Aさん』は指差した

何より目を奪われたのは
その部屋の
一番奥の壁に飾られた
超巨大モノクロ写真でした

30代半ばの男性が
大正時代の文豪のような
着物姿で胸元に
手を添えている全身写真を
イメージしてください
そう!それが
『立派な先生』です!

呆気に取られている僕に
『Aさん』は
『こちらへどうぞ』と
机と椅子が置かれた
受付のような場所を
案内しました

その椅子に腰掛けて
ふと隣を見ると
40〜50代と見られる女性が
何やら細かい文字で書かれた
契約書のような物に
ハンコを押そうとしています

『それ実印だよねぇ!』
(僕の心の声)
『いやいや
それ押したらヤバいって!』
(僕の心の声)
『どうする、どうする』
(僕の心の声)
と葛藤していると

『それでね
先生のお話しを聞くには
5,000円かかるの』
と『Aさん』

『え?』
『ゴセン?...』
『なに?...』
『今、なんとおっしゃいました?』
(僕の心の声)

呆然としている僕に
『先生のお話しを聞くには
5,000円かかるの』
『持ってるわよね5,000円』
と再び『Aさん』

-- 僕 --
『えっ、お金持ってないですよ』

--『Aさん』--
『困ったわねぇ...』
『本当に持ってないの
5,000円』

-- 僕 --
『ないですよ』

何度か不毛な問答を繰り返し
コリャだめだなと思った僕は

『じゃあ貸してもらえないですか』
と『Aさん』にお願いすると
『それはできないのよ』と
ピシャリと返された

さらに『Aさん』は
『お友達とかに電話して
持ってきてもらえないかしら』
と言ってきた

そろそろ飽きてきた僕は
『お金かかるならいいっす』と
告げて帰ろうとしました

すると
『ダメよ帰っちゃ』
『お友達に電話しましょ』
『お友達に電話しましょ』
と繰り返す...

当時、携帯電話は
それほど普及しておらず
電話をするには
この建物の別室に
移動することになる
たぶんそこには
別の人物が待ち構えているはず...

そう思った僕は
関西弁で
『なんで話し聞くだけでカネ取んの?』
『おばちゃん僕を救ってくれるんちゃうん?』
『5,000円貸してくれたらええやん』

『それはできないのよ』
と言いかけた『Aさん』に
『そやから、も〜ええちゅ〜とんねん!』
『帰るわ!』と畳み掛けた

困り果てた『Aさん』は
『それじゃあ
帰る前にあなたのお名前と
電話番号をここに書いてくれないかしら』
と怪しげな名簿を差し出してきた

僕は『ええよ』と言って
出鱈目な名前と電話番号を
ささっと書いて
一気に
『蝋燭正座階段』と
『小川廊下』を駆け抜け
外に走り出た

名前や電話番号の記入を
拒否しなかったことで
『Aさん』は拍子抜けした表情と
『やった!釣れた』と言う表情をした

僕はその『Aさん』の心の隙をついて
脱出できたのだと今でも思っている

若気の至りとは言え
とても危険な行為だったと
今はとても反省している
ワタシでございます

みなさま
謎の勧誘には
お気をつけくださいませ

そして
僕のマネは
絶対になさいませんように!

--あとがき--

DVD編集の合間に
30年以上前の記憶を
たどりながら
書いていたので
続きモノになってしまいました

最後まで読んでいただきまして
ありがとうございました