【S-side】

"あぁ、店の中でよかった…"

真剣にニノの心を引き出そうと もがく一方で、俺の脳の半分は別のことを考えていた。

俺はどこまで傲慢なのか。

心だけ?体だけ?
どちらもまだ全く手の届かない所にあるというのに。その両方をどうすれば同時に手中に納められるのか…という不毛な思案を繰り返していた。

もし自分の家に招いてたりしたら…
俺の理性なんてものはとっくに崩壊して、不安や苛立ちの波に飲まれ、たまらずニノに襲いかかっていただろう。


そういえば。
マスターにまで気を遣われているのだろうか。
控えめなBGMが流れる暗い店内では、俺たち2人以外の気配がまるで感じとれなかった。



「意味が…よくわかんない。重い、とか。受け止められない、とか。そんなこと…まるで考えたことなかった」

ニノが困惑した声でぼそっと呟いた。

「うん…そうだと思う。ちゃんと意思表示してこなかった、俺のせいだよ。すまない…」

俺は両ひじをテーブルに乗せ、祈りを捧げるように両手5本の指をギュッと結んだ。
視線、まばたき、声のトーン、息づかいまでも。ニノから発せられる僅かな機微を逃さぬよう、五感を最大限に集中させて様子を窺った。

「そんなにさ、ジロジロ見ないでよ。人間観察は俺のお株。しれーっと奪わないでほしいんだけど?」

「ふぅん、そうだっけ?今日はあきらめな俺がおまえをとことん取調べする回だからさ、今夜は」

「回(カイ)ってなによ。次の連ドラは刑事役?」

睫毛は伏せられたままだったが、
薄紅色の唇がフッと緩んだ。
鼻筋の通った 綺麗で儚げな横顔に、時を忘れてつい見入ってしまいそうになった。

ダメだ、ダメだ。上っ面の妖艶さだけに惹かれた訳じゃないだろ、俺は!

「ほら、吐いちまったらラクになれるぞ?もうネタは割れてんだ。いつまでもひとりで腹の中に抱え込んでんじゃねぇよ」

「ははっ。刑事さん、そんなんじゃあ、自白は取れないよ」


そんなふざけたやり取りが何ターンか続いた。

「チッ…。埒があかないな。ニノ。いっそのこと、続きは家でするか?」

「あれ?『続きは明日』じゃないの?もう、しつこいなぁ刑事さん。いい加減、釈放してよ」

「釈放?できるわけないだろ。おまえがいつ、どこに逃げちまうかもわからない状況で。さっ、勾留延長決定っ」


ヤレヤレ…と大きなため息をひとつ吐くと、ニノはまた薄く笑みを浮かべた。

「俺は…どこにもいかないよ。

"私、二宮和也は、櫻井翔の傍を一生離れません!"

…はいっ、これでいいっ?」

「おいおい。ずいぶんと雑な告白だな。俺が知りたいことはまだ全然聴けてねぇし」

「え~!?あと何が足りないのよ」

口を尖らして膨れると、一気に幼さが増すからコイツは不思議だ。ニノのパーツをひとつ残らず自分のモノにしてしまいたい慾望にかられた。

「よし。本当にいいんだな?遠慮なくおまえの心を奪いにいっても」

ニノの表情が突如、不敵な笑みに変わった。

「翔ちゃん。ほんっと、わかってないね」

「は?」

ニノの首がこちら側に回り、初めてまともに正面で対峙した。

「翔ちゃんの覚悟がどれほどのものか知らないけど。『重さ』で言うと俺のほうが断然、上。てか圧勝だと思うよ。マジ、エグいから。ほんとに耐えられる自信あんの?」

急に向けられた一筋の鋭い眼光に、俺はたじろいだ。
ここへきて初めて、ニノの心の内を垣間見た気がした。



おまえも…おなじ…だったのか…

ただただ、『今』が失われることを恐れて、多くを望まず現状維持に甘んじていた…と。


「なぁニノ…確認だけど。
俺たち、もしかして。とっくの昔から『はじまって』たの…か…?」

「い~や。何も、はじまってないよ」

そこは、いとも簡単に否定された。

「そう…か。
んじゃ、いい加減。ぼちぼち、はじめて…みても…よくないか…?」

「…………。はじめるって、何を?」

明言を避けて相手の反応を見ようとしたが、それにも応じてもらえなかった。
こういう煮え切らない態度が、俺のだめなところなんだろう。

「たとえば…一緒に住んじまう…とか」

「それは、唐突だね」

「イヤ、か」

「イヤ…じゃないけど」

「だったら、なんだ?まずちゃんとした、お付き合い宣言でもしろ、と?」

「それもなんだか、他人行儀だね」

「あーーーーーっ、もう!めんどくせぇな!!」

「あはは!言っちゃった。でしょ?ほぅら、今までどおりでいいじゃん、ってことになるでしょ」

はい、翔ちゃんの負けーっ!とでも言わんばかりに、ニノが勝ち誇った顔をした。

「いーやっ、そこは違う!」

「なにが違うの」

「俺の腹が決まったことだよ。もう遠慮はしない。おまえの牙城をブッ壊してやる」

「それはどうぞどうぞ、ご自由に」

「くっ…、なんか腹立つなぁ。これ、おまえに良いように弄ばれてるだけじゃねぇのか?」

「あははははっ!」

マイペースで茶化そうとするニノに、これだけはマジで伝えなきゃ…と思った。

「言っとくけどな。『思い出』イコール『過去のこと』なんて勘違いすんじゃねぇぞ?過去は『今』の積み重ねなんだよ。今が、終わることなんて絶対ない。つまんない心配してんじゃねぇよ…おまえらしくもない」

忽然と見開かれた茶色の瞳が、ゆらり揺れて微かな光を放った。

一見、実りのない、子供じみた掛け合いは、コクリと頭を垂れた小さな頷きで 静かに幕をとじた。



=====

おしまい。



最後はダラダラと長くなってしまい、
すみません(-人-;)

ニノちゃん、改めまして
36才のお誕生日おめでとうイエローハーツバースデーケーキ

メンバーでありながら、
どんなファンにも負けない深い愛情を
いつも嵐に注いでくれてありがとう。
これからも変わらず、嵐のこと、よろしくねおねがい