途中の階に停まることなく46階まで上がった。
同じフロア内、複数の住戸はどうやら隣接はしていないらしい。それぞれの軒先は壁や柱で死角となっていて、他の住人の生活感、物音などは一切感じられなかった。決して新しくはないが、ガッシリと重厚な扉の佇まいはそれだけで、何とも言いがたい荘厳な雰囲気を醸し出していた。
「さ、どうぞ」
潤が鍵を開け、俺を中へといざなった。
「へ………っ!??」
東京のドまんなかにそびえる超高層ビル内、という認識が一瞬で吹き飛んだ。
一歩足を踏み入れるとそこは、老舗旅館を思わせる、横長の甃の玄関だった。
正面は戸襖を模して造られた木製の引き戸になっていた。部屋の全貌はまだベールに包まれたままだったが、この一空間だけ切り取ってみても、潤の相当のこだわりが随所に見受けられた。
暗がりの中、丸い大きな間接照明が両サイドに置かれ、温かみのあるオレンジの光が足元をぼんやりと照らしていた。
「和テイスト、好きでしょ?ほんとはね、部屋で浴衣着てお出迎え、ってプランも考えたんだけど。ここまでひとりで上がってきてもらうのも、なんか申し訳なくて…」
「う、うん…。ていうか、潤…?
ちょっと、いくらなんでも、はりきりすぎじゃねぇのか」
「もぅっ。そんな恐縮しないでよぉ。俺自身が愉しくてやってることなんだからっ。ほら上がって、上がって。中も とくと御覧あれっ」
背中を押されて、俺は靴を脱ぎ、恐る恐る引き戸に手を掛けた。
…っ!??
「ふぉーーーーーーーーっ、す、すんげぇ……」
ゴクッと生ツバを飲み込んだ。
いかにも外国人受けしそうなジャパニーズ・スイート、と言ったところか。
タイル状に編み込まれたモダン調の畳がリビング全体に敷き詰められていて、藺草の香りが部屋じゅうに漂っていた。畳上でも違和感のないラグと、シックな和柄のソファやローテーブルがなんとも絶妙にマッチしていた。
かしこまらずに裸足でウロウロしたり、床で雑魚寝できたりするのが、俺にとってめちゃめちゃ理想的だった。
もちろん部屋の奥には、キングサイズのベッドも備えられていた。
都心に居ながらリゾート気分を満喫できる、まさに夢のような空間だった。
「どう?気に入ってくれた?」
返事を聞くまでもない、自信に満ちた表情で潤が誇らしげに聞いてきた。
「ああ。目を疑ってるよ。こんな凄いところで37才の誕生日を祝ってもらえるなんて、想像もしなかった」
潤はなんの打算もなく、クスッと今日イチの笑顔をしてみせてくれた。
「あ、そうだっ。さっきのエレベーターでの質問!
大丈夫だよ、翔くん。心配しないで!!さすがの俺でも、いきなり購入なんてしないから。マンスリー賃貸。とりあえず3か月、ね。不動産扱ってる知り合いが、好きに使っていいって言うからさ。新築じゃないけど、我ながらイイ感じにカスタマイズできたよ」
あぁ、間に合ってよかった~♪と、今にも鼻唄が聞こえそうな表情で饒舌に語る潤をみて、ゴチャゴチャと細かいことを気にしていた自分がものすごくちっぽけな男に思えてきた。
本当にすげぇ、の一言に尽きるよ。
マジで、松本潤は。
もはや、感謝なんて領域はとっくに通り越した。どんな言葉でも形容し尽くせるものではなかった。
ただひたすらに、この「規格外の男」を射止めることに成功した自分自身を、全身全霊で褒めてやりたいと思った。
はじめから冷静さは欠いていたけれど。
あまりにも非現実的な空間をまのあたりにし、徐々に高揚感にほだされてコントロールが効かなくなっていく躰を、グッと力を込めて硬直させた。
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