勉強熱心のカズのことだ。
規模のでかい本屋で延々と立ち読みとか…。もしかしたら図書館にでも出向いたのかもしれない。慣れない土地を歩いて くたびれて、コーヒーの1杯でも飲んでるのかもしれない。

出来る限り、前向きな思考を維持しようと努めた。

そういえば、俺、今日。
なんにもメシ食ってねぇじゃん!
空腹に気づいたら、急に腹がグーグー…と誇張しはじめた。
カズ、おまえはさすがに、なんか食べたよな?
あれ…いやっ、どうだろ?
あんなガリガリの体型、見るからに、"食"には無頓着そうだ。そんなこと言ったら、
"ヒトを見た目で判断すんな!"って、怒られちまうかな…

買い置きしてあったカップラーメンに手を伸ばしかけて、首を横に振った。
再会初日ぐらい、外食したってバチは当たんねぇだろ。そのかわり明日からは、ガチガチの節約生活だかんな、カズ…。

アイツを"嫁さん"扱いする気はないけど。
カズがメシの用意をしてくれる、と
サトシくんは言ってた。
コンビニ弁当以外のあったかい夕飯と、可愛いカズが家で待ってる♪…と思えば、どんな厄介な激務でも乗り越えられそうな気がした。

ふふっ…良くできた妄想話だな。
"病は気から!"なぁんて、先人はよく言ったもんだよ。
そうそう。ふさぎこんでたって仕方がない。
部屋の片付けや掃除なんて、俺には無理だ。
そんなことがテキパキ出来る奴だったら、あの部屋はもうとっくに綺麗になってるよ。
家事全般、推進能力が致命的に低い俺の出る幕ではない、と勝手に結論づけた。

アイツを見つけ出す。絶対に連れ戻す。
今日の俺のミッションは、それだけだ。

小さめの鞄に、財布と鍵とスマホ、モバイルバッテリー。それから運転免許証とIC通勤定期の入ったパスケースも忘れずにポケットに突っ込んだ。
そこまで遠くに行ってるとは思えないけど…
最悪、車を借りてでもアイツをつかまえる覚悟があった。

さぁ、いこう。
アイツが延々と、このアパートの界隈を歩き回ってるとは考えにくい。

[カズ。今アパートを出た。駅に向かうよ。10分後にまたメールする。]

返信がなくても、メールはチェックしてくれているものと信じて。行き違いにだけはならないよう、こちらの動きを逐一知らせることにした。

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