「…弊社のブースにお集まりいただきありがとうございます。本日は、皆さんと年齢も近い、入社1年目の社員を連れてきました。ほら、大野っ。皆さんに簡単にご挨拶をっ」
15個ほど歳の離れた人事担当者に促され、サトシくんは意気揚々と喋り始めた。
「えぇっ、初めまして。私は『精密機器製造部、南アジア地域振興・研究開発第2課』所属の半導体技士、大野サトシです。あ、『技士』ってのは今んとこ、自称です。まだ資格試験、受かってないのでね。
あははっ…もう、所属や肩書き聞いただけでも頭痛いでしょ?そんな冷めた顔しないでくださいよ?入社してもうすぐ丸1年になります。もしご縁があって、うちの会社に入社頂けることになれば、年次だけで言うとみなさんの2年先輩になると思います」
セミナーでブースを出展するのは確か5校目、って言ってたっけ…?
頼りなさげな風貌から一転。同い年にはとても見えない こなれた感じで、自社のことや仕事の面白みを語っていった。
「え~っと。エンジニアや設計士、技術者…なぁんていうと聞こえは良いかもしれないですけど。言うなれば『機械オタク』っすよ。ミリ単位の細かいネジやら、爪の先っちょぐらいのICチップやらと、毎日毎晩にらめっこして、ちょっとずらしてみたり剥がしてみたり。ほんと、何してんだか…って」
「コラコラ…ちょっ、大野っっっ!??
ゴホンッ…大変失礼しました。
今のは、仕事には地道な努力や根気が不可欠、という極端な事例話です。今回、みなさん四大生向けに募集する職種は、我が社が誇るオートメーションシステムの"コンサルティング営業"職です。…」
人事担当者とサトシくんのテンポよい掛け合いは、内容もわかりやすく、学生には好評だった。一般消費者としては直接は馴染みのない会社だったが、規模の大小に関わらず、多種多様な製造業者に対して最適なインフラ環境を提案し、機器導入までのサポートをしていく仕事というのは、なかなか興味深いな…と、こんな俺でも率直に感じられた。
サトシくんの目は、8年前、熱心に数学の問題と向き合ってた頃と全く同じ輝きを放っていた。
ココロは少年のまま、それでもしっかりと先を見据え、自分がやりたいと思う仕事を自ら選んで、既に社会の一員として歩み始めていた。
それに比べ、俺は…
今まで一体何をしてたんだろう?
なんとも言えない歯痒さを感じた。
ブースの前に並ぶパイプ椅子の最後列の端っこからサトシくんの生き生きとした表情を見つめ、はぁっ、とひとつ大きな溜息をもらした。
簡易的なエントリーシートをサッと記入して長机の端に置かれた箱に提出すると、その会社のブースからそそくさと離れた。
そんな俺の背中を、サトシくんの視線がジーッと追いかけていたことも、薄々は感づいていたけれど、決して振り返ることはしなかった。
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