「う~~~ん……!こんなところ、かな…」

大きくひとつ、伸びをする。
時間が経つのをすっかり忘れていた。

新曲の振りを最初から、細かいところまでイチイチ真剣に見返していったから、さすがに目や首が くたびれた。

誰が悪いわけでもないけれど…。
やっぱり懸念してたとおりだった。
各々のカウントの取り方に、まだまだ統一感が足りない。
ほんの一瞬の静止ポイント、腕や足を上げる位置、ポジション替えのタイミングも。
少なからずズレやバラつきがあるのが、どうしても否めなかった。

全員揃ってのリハ、時間少なかったもんね。
でも、言い訳は…したくないな…。

別に俺たち、アイスダンスやシンクロの選手じゃないんだからさ…、とも思うんだけど…。
なんか、ね。
どうせだったら、表現者として もっとバシッとカッコよく決めたいじゃん?
自由な部分と、5人で揃える部分のメリハリを、もう少し濃淡はっきりつけてやらないと、なんとなくダラッと間延びしたような印象を受けてしまう。

という結論で、「1人反省会」を締め括った。


あれ…今、何時…??
翔さん、もうさすがに帰ってるんでしょ?
まったく気配も物音も、しなかったけど。

俺。また翔さんに、気を遣わせてしまったみたいだね。ごめん…。

コンコンコン…

「翔さん?入るよ」

翔さんは、小さな書斎代わりのスペースで、ノートPCに向かいながら 何かしらのデータ入力をしている最中だった。

「おぅ、おつかれ~っ潤。課題、色々見つかった?」

「んん…まぁねっ。今度また、みんなが揃ったときに まとめて話すよ」

「ほぉ~い。なんかちょっと…恐い気もするけどな。"Mr.ストイック"の潤センセーから、有り難くも、きつぅいダメ出しがまた入るわけだ」

「あはっ、そんなんじゃないけど…ね」

「いいよ。"完璧"とは程遠いデキだった、ってことぐらい、みんなもわかってる」

「ん…。そうだよね。俺自身も含めて、ね。
てか、あれ?翔さんも仕事中だったんじゃないの?」

話しながら、PCをパタンと伏せる手元が気になった。

「あぁ、いいんだよ、俺のは。特に急がない」

そう言って椅子から立ち上がると、部屋の入口に立っていた俺を、優しくハグして迎え入れてくれた。

そして、低音でセクシーな声と吐息で
俺を、魅惑の夜へと誘(いざな)う。

「潤…。もう…今日は、仕事の話はいいだろ…」

熱の籠った瞳が、俺を捕らえる。

「…うん。いっぱい待たせて、ごめん…なさい」

本当に。俺の気のすむまで、遠慮せずに徹底的にやれよ?っていうスタンス。
翔さんの包容力。凄く…ありがたい…。

俺の性格。この人じゃなきゃ、絶対に理解不能なんだろうな。

「ふふ…素直な、いい子だ」

頭をポンポンと軽く叩いて、目を細める。

俺が大好きな、柔らかな唇がスッと近づく。

ようやく、長い1日が終わるね。
今日も、お疲れ様… 翔さん…。
そして、俺も。

瞼をとじて、翔さんの逞しい首に手を回すと。
その甘い感触を受け入れて、しばらくのあいだ、2人だけの幸せな時間に酔いしれた。

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