第1 立法措置①について
1 法律案6条の「虚偽表現を流布してはならない」とする部分が、SNS利用者のSNSで情報発信する自由を侵害し21条1項に違反するのではないか。
2 21条1項は、集会・結社及び言論・出版その他一切の表現の自由を保障する。憲法制定当時はインターネットは存在しなかったが、インターネットは今や紙媒体に匹敵する重要な媒体であるから、インターネットで情報発信する自由は表現の自由の一部に含まれる。また、SNSは世界中で普及し、マスメディアを利用することができない一般市民にとって自らの思想等を発信する重要な媒体である。したがって、SNSで情報発信する自由は「その他一切の表現の自由」として21条1項で保障される。
ここで、虚偽表現は表現の自由の保障範囲に含まれないとの反論が考えられる。しかし、虚偽表現であるかどうかは情報発信の初期段階ではわからないことが多い。また、最初は虚偽だと思われていた情報がネット上での検証を経て真実であることが明らかになる場合もある。虚偽表現をも保護することが表現の自由の保障に資する。したがって、反論は当たらない。
法律案6条により虚偽表現を発信することができなくなるから、SNSで情報発信する自由が制約されている。
3 SNSで情報発信する自由を制約する立法の憲法適合性をどのような基準で判断すべきか。法律案6条は虚偽表現という内容に着目するものであるから、内容規制にあたり厳格な基準が妥当すべきとも思える。一方で、SNSでの発信という手段に着目している点は内容中立規制にあたるとも思える。ここで、立看板の規制が問題となった事案で、判例は厳格な基準を用いなかった。立看板は看板が立っている一部の地域の人しか目にしないのに対し、SNSは瞬時に世界中の人に情報が広まってしまうことから、規制の必要性が強い。
また、虚偽表現が21条1項で保障されるといっても、虚偽である点で、真実の言論より保障の程度は低いと考えざるを得ない。
したがって、最も厳格な基準は適用されず、厳格な合理性の基準、すなわち、立法目的が重要で、手段が目的と実質的関連性がある場合にのみ合憲となると解する。
4 これを本件についてみる。
(1)立法措置①の目的は、虚偽の表現が流布されることによる社会的混乱を防止することである。社会的混乱なるものは不明確であり保護に値しないとも思えるが、実際にフェイクニュースにより飲料水を求めてスーパーマーケット等に住民が殺到するという事案が発生しており、国民の生活に影響が出ていることから、社会的混乱を防止することは重要といえる。
(2)手段は、虚偽表現の流布を禁止することである。たしかに、虚偽表現といえども流布が禁止され、違反した場合には罰則の制裁(法律案25条)があるとすれば発信者に対し委縮効果がある。しかし、北方ジャーナル事件における裁判所の出版差止めのような事前抑制ではなく、事後的に罰金刑が課されるにすぎないから、委縮効果は小さい。また、虚偽表現を禁止すればフェイクニュースを発信することが抑制されるから社会的混乱の発生も抑制され、混乱の防止に実質的関連性があるといえる。
5 以上から、立法措置①は合憲である。
第2 立法措置②について
1(1)法律案9条1号及び2号が「明白」な場合に当該表現を削除対象としている部分が、漠然不明確であり21条1項に違反しないか。
(2)ある法律の構成要件が不明確であるかどうかは、一般人がどのような場合に当該規定の適用があるか読み取れるかどうかで判断する(徳島市公安条例事件)。
(3)本件では、虚偽表現であるかどうか、選挙の公正が著しく害される恐れがあることが「明白」かどうかは、情報の発信当初は明白でないとも思える。しかし、時間がたてば虚偽かどうか等は明白になるため、一般人でも規定の適用があるかどうか読み取ることができる。
(4)以上から、21条1項に違反しない。
2(1)法律案9条1項が「当該表現を削除しなければならない」としている部分が、SNS事業者(以下「事業者」という。)のSNSで情報提供する自由を侵害し21条1項に違反しないか。
(2)表現の自由の価値は、自己実現の価値及び自己統治の価値にある。自己実現や自己統治には十分な情報が必要であるから、情報を知る自由は21条1項により保障される。そして、SNSが爆発的に普及している現在、SNSは、自分から情報を発信する媒体であるだけでなく、他人に情報を提供する媒体としても重要である。したがって、SNSで情報提供する自由は、国民の知る自由に奉仕するものとして21条1項により保障される。
法律案9条1項により、事業者は虚偽情報を提供することができなくなるから、SNSで情報提供する自由が制約されている。
(3)SNSで情報提供する自由を制約する立法の憲法適合性をどのような基準で判断するべきか。権利の性質について、SNSにおけるオリジナルの情報発信者は利用者であり、事業者は情報を掲載する場所を提供しているにすぎないから、SNSで情報提供する自由は、21条1項で保障されるといってもオリジナルの発信者より保障の度合いが低いと解せざるを得ない。制約の態様については、事業者による自主的な削除であり、また罰則もないことから弱い制約といえる。したがって、目的が正当、手段が目的と合理的関連性を有していれば合憲と解する。
(4)これを本件についてみる。
ア 法律案9条1項が削除を定める目的は、インターネット上での虚偽の表現の中でもSNS上の選挙に際しての虚偽の表現により選挙の公正が害されることを防止することである。現に、乙県知事選挙の際に虚偽のニュースがSNS上で流布され、現職知事が落選したことから、選挙の公正が害されたのではないかと議論が生じている。選挙の公正は、国民の公務員選定罷免権(15条1項)の前提となる重要な公益である。また、公職選挙法235条の2の規定は新聞紙、雑誌といった紙媒体のメディアのみを対象としている。インターネットやSNSが普及した現在、選挙の公正をSNSから守る必要性がある。したがって、目的は正当といえる。
イ 手段は、事業者が特定虚偽表現があることを知った時に当該表現を削除させることである。たしかに、SNSで情報が発信されると瞬時に情報が世界中に伝わることから、事後的に情報を削除させても情報の影響力は除去できないとも思える。しかし、情報が削除されたこと自体が情報の信用性を減殺する事情といえるから、SNSから削除されたという情報が拡散すれば、影響力は除去でき、選挙の公正が守られるといえる。したがって、目的と合理的関連性があるといえる。
(5)以上より、法律案9条1項は21条1項に違反しない。
3(1)法律案9条2項が「当該SNS事業者に対し、速やかに当該表現を削除するように命令することができる」としている部分が、事業者のSNSで情報提供する自由を侵害し21条1項に違反しないか。
(2)上述のとおりSNSで情報提供する自由は、21条1項により保障される。
法律案9条2項により、SNS事業者は虚偽情報を提供することができなくなるから、SNSで情報提供する自由が制約されている。
(3)憲法適合性の判断基準について、制約の態様が、外部の機関から削除を命じられる点、及び違反した場合には懲役を含む罰則が科せられる(法律案26条)点で、自主的な削除よりも強い態様である。そこで、LRAの基準、すなわち目的が重要で、他のより制限的でない手段が存在するかどうかどうかにより決すべきである。
(4)これを本件についてみる。
ア 目的は、選挙の公正が害されることを防止することであるが、上述のとおり、この目的は正当であり、また重要な公益である公務員の選定罷免権を保護することから重要でもある。
イ 手段は、委員会がSNS事業者に対し削除命令を出すことである。
税関事件において、検閲(21条2項)とは、行政権が主体となって行うものとされている。委員会は、国家行政組織法に基づいて置かれるもの(法律案15条1項)であるから行政権といえる。しかし、内容を網羅的一般的に審査するものではないから、検閲には当たらない。もっとも、行政権が表現の内容を審査して削除命令を出すのは、手段として行きすぎである。
また、北方ジャーナル事件において、裁判所の差止めに際し原則として審尋が必要とされているのに対し、法律案においては行政手続法の定める事前手続は不要であるとされている(法律案20条)ことから、事業者の手続保障にも欠ける。
さらに、より制限的でない手段として、事業者に自主的に削除させるという手段がある。
以上から、より制限的でない手段があるとは言えない。
(5)したがって、法律案9条2項は、21条1項に違反する。
以上
感想等:
分量は6枚(字は大きめ)です。
立法措置①について。去年の予備試験に引き続き、問題文を読み違えるというミスをしてしまいました。SNS利用者だけが対象だと思い込んでしまいました。せめて、「SNS利用者」と「それ以外の表現者」に分けて書くべきだったと思います。
問題文では「参考とすべき判例」を踏まえて論ぜよという指定がありました。しかしSNSに関連する判例なんて全然思い浮かびません。最初に出てきたのがなぜか立看板の判例(百選61事件)でした。これを引用したのは私くらいじゃないでしょうか。
立法措置②について。明確性は少しでも書いた方がいいんじゃないかと思いました。徳島市の判例も引用できるし。立法措置①(法律案6条は名誉毀損罪が同じような文言を使っているため問題はないんだろうと思い、立法措置②のほうで書くことにしました。内容はショボいですが触れることに意味がある(少しは点が入る)と思っています。
問題文の3ページ目が、1段落目が9条1項に関する説明、2段落目が9条2項に関する説明でした。段落を分けて書いているからには1項と2項の措置を分けて論ぜよというという意味に解釈しました。前年(平成30年)の問題が、規制図書の販売店を項ごとに3つの類型に分けていたように。
9条1項と2項で結論は分けた方がいいだろうと思い、1項は合憲、2項は違憲にしました。
判例の知識はうろ覚えなので、問題文の指定にあるように「判例の立場に問題があると考える場合には、そのことについても論じる」ことなんてとてもできませんでした。
最後のほうは無理やり判例を引用しました。時間がなかったので殴り書きです。