第1 設問1
1 本件取消訴訟において、本件事業認定の違法を主張できるかどうかは、いわゆる違法性の承継が認められるかによる。
2 行政処分(行訴法3条2項)の取消しは、取消訴訟のみによって認められる(取消訴訟の排他的管轄)。また、先行処分の違法を後行処分の取消訴訟で争えるとすると、行訴法が出訴期間(14条1項)を認めた趣旨が没却されてしまう。したがって、先行処分の違法を後行処分の取消訴訟で主張することはできないのが原則である。
もっとも、①先行処分と後行処分が同一の目的・効果を有し、②手続保障が十分でない場合は、例外的に違法性の承継が認められ、先行処分の違法を後行処分の取消訴訟で主張することができると解する。
3 これを本件についてみる。
(1)本件事業認定(先行処分)の目的は、公共の利益の増進と私有財産の調整を図り、もって国土の適正かつ合理的な利用に寄与することである(法1条)。一方、本件権利取得採決(後行処分)の目的は、事業認定と権利取得採決が一連の手続であることから、先行処分と同じであるといえる。
また、先行処分の効果は、起業地(法18条1項3号)に土地を所有する土地所有者が、1年以内に企業者の申請により土地を収用されうる地位に立たされることである(法39条1項)。一方、後行処分の効果は、土地の収用(法47条の2第1項、第2項)であるが、これは土地を収用される地位が現実化したに過ぎないから、同一の効果といえる。
したがって、先行処分と後行処分は同一の目的・効果を有する。
(2)手続保障について、B県側からは、平成28年8月1日の本件事業認定後、理由を付した告示(法26条1項)を行ったから、十分な手続保障があったとの反論が考えられる。しかし、当初、C市は、当面土地収用は行わず、任意買収を行う方針を表明していた。その後、方針を変更したのは平成29年7月頃である。この頃には本件事業認定から6か月を経過し、出訴期間(行訴法14条1項)を過ぎていたから、Aは取消訴訟を提起することができなかった。
したがって、手続保障は十分でなかったといえる。
(3)したがって、例外的に違法性の承継が認められる場合にあたる。
4 以上より、Aは、本件取消訴訟において、本件事業認定の違法を主張することができる。
第2 設問2
1 小問(1)
(1)無効確認訴訟は、確認の対象が無限定であるため、提起できる場合を限定する必要がある。そこで、「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないもの」(行訴法36条、以下「補充性」という。)とは、無効確認訴訟によることが紛争を解決するより直載的な手段である場合をいうと解する。
(2)これを本件についてみる。
ア まずC市に対しては、本件権利取得採決に基づく所有権移転登記義務が存在しないことの確認を求める実質的当事者訴訟(行訴法4条)を提起することが考えられる。所有権移転登記義務が存在しないことが確認できれば、AはC市に対し所有権移転登記の抹消登記を請求できるため、訴えの利益がある。したがって、C市に対し実質的当事者訴訟を提起することができる。
イ C市に対して訴訟を提起できる場合、たとえ上記訴訟に勝訴したとしてもC市が所有権移転登記の抹消登記に応じるとは限らないため、もとの所有権移転登記の根拠となる本件権利取得採決の無効を求めるほうが、より紛争の抜本的解決につながる。
ウ したがって、無効確認訴訟によるほうが紛争を解決するより直載的な手段といえる。
(3)以上より、補充性の要件をみたす。
2 小問(2)
(1)Aとしては、本件事業認定が法20条3号の要件を充足するとの判断をするにあたり裁量に濫用または逸脱があり違法であると主張することが考えられる。
(2)法20条柱書は、事業の認定をすることが「できる」という文言を用いている。また、法20条3号は「土地の適正且つ合理的な利用」という抽象的な文言を用いている。このような文言を用いているのは、道路や土地の利用は専門的技術的な判断が必要であるため、法20条3号該当性につき県知事等に裁量を与える趣旨であると解される。したがって、県知事の裁量に逸脱又は濫用(行訴法30条参照)がある場合には、違法となる。
(3)これを本件についてみる。
ア 本件理由の一つは、「道路ネットワークの形成」である。たしかに、本件地周辺では道路の整備が遅れており、自動車による幹線道路へのアクセスが不便であって、これを解消するため道路ネットワークの形成が必要であるとも思える。しかし、新たに本件道路が整備されると交通量が増えて、環境が悪化してしまう。B県からは、平成22年調査の結果から、本件道路の交通量は1日当たり3500台なので周辺環境への影響が軽微であるとの反論が考えられる。しかし、平成元年調査の時には周辺環境への影響が大きいとして本件道路の整備は見送られているのに、平成22年調査で予想される交通量が平成元年調査の約3分の1に減っているのは、その間のC市の人口減少が1割未満であること、交通量は人口に比例するものであることを考えると、調査手法に誤りがあり、調査の正確性に疑問がある。また、仮に交通量が3分の1にまで減るのであれば、道路の混雑も解消され、そもそも道路ネットワークを形成する必要がない。さらに、仮に道路ネットワークの形成が必要であるとしても、通過車両の増加により良好な住環境が破壊されてしまう。
イ 本件理由の二つ目は、通学生と児童をはじめとした「通行者の安全性の確保」である。たしかに、本件道路の近くにある小学校への騒音等の影響を緩和することを考慮し、同小学校から一定の距離をとるよう、本件ルートが決められている。しかし、本件土地には、様々な水生生物が生息する池が存在しており、この池は、毎年、近隣の小学校の学外授業に用いられていたから、小学校への騒音等の影響だけでなく、本件土地の自然環境にも影響を与えないようなルートをとることができるかについても検討すべきであったといえる。B県側からは、本件土地内に学術上貴重な生物や絶滅のおそれがある生物は生息していないから、自然環境を考慮する必要はないとの反論が考えられるが、本件土地に様々な水生生物が生息する池があるのはC市内では珍しいことであるから、学外授業の機会を確保する必要があるから、反論は当たらない。
ウ 本件理由の三つめは、「地域の防災性の向上」である。本件理由によると、本件土地での掘削の深さは2メートル程度なので地下水には影響がないと判断されている。しかし、以前、本件土地周辺の工事では、深さ2メートル程度の掘削工事で井戸が枯れたことがあり、きちんと調査をしない限り影響がないとは言えない。また、本件土地の周辺では災害時等の非常時の水源として使うことが予定されている防災目的の井戸もあるが、これらの井戸への影響が調査されないままでは、防災目的の井戸が使えなくなってしまう恐れがあり、地域の防災性の向上につながらない。
(4)以上のとおり、法20条3号該当性の判断にあたっては、道路ネットワーク形成の必要性に疑いがあるため考慮すべきでないのにかかわらず考慮されていること、本件土地の自然環境への自然環境を考慮していないこと、防災目的を含む井戸への影響を考慮していないことから裁量の逸脱・濫用があるといえる。
(5)したがって、本件事業認定について法20条3号該当性があるとの判断には違法がある。
以上