第1 設問1
1 小問1
(1)①の逮捕及び勾留は、別件逮捕・勾留にあたり違法ではないか。
(2)別件逮捕とは、未だ逮捕・勾留の要件がそろっていない事件(本件)について捜査する目的で、要件がそろっている事件(別件)について逮捕・勾留するような場合をいう。このような場合、別件について要件がそろっていれば適法となり、本件についての捜査は余罪取調べの違法性を検討すれば足りると解する(別件基準説)。
本問の事件では、強盗致死事件が本件となり、業務上横領が別件となる。
(3)別件についての逮捕・勾留の要件を検討する。
ア X社社長から「売掛金の集金を担当していた甲が顧客Aから集金した3万円を着服したことが発覚した」旨の供述が得られたこと、被害届の提出を受けたこと、Aの「自宅に集金に来た甲に3万円を渡したこと、Aから集金した3万円がX社に入金されたことを裏付ける帳簿類は見当たらなかったことから、甲が業務上横領罪(刑法253条)という「罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由がある」(199条1項)といえる。
業務上横領罪の法定刑は懲役刑のみであるから「三十万以下の・・・罰金、拘留又は科料にあたる罪」に該当しない。
甲はアパートで単身生活しているが、無職であり、逃亡のおそれがあるため「逮捕の必要」(199条2項)がある。
以上から、別件についての通常逮捕は適法である。
イ 平成31年2月28日の身柄拘束時から、同年3月1日に勾留請求がされているから、期間制限(205条2項)を満たしている。また、3月10日に勾留延長の請求がされていること、延長期間も同20日までの10日間であることから、208条1項及び2項の要件も満たしている。
以上から、別件についての勾留は適法である。
(4)別件についての余罪取調べが適法であるかどうかは、①取調べ時間の割合、②取調べ状況を総合して判断する。
ア 別件についての取調べが10時間であるのに対し、本件についての取調べが20時間であり、本件のほうが別件の2倍の取調べ時間を割いている。
イ しかし、本件の取調べ時間が多くなったのは、別件についてYの取調べが必要になったがYの都合により3月16日まで取調べができなかったからであり、その他の捜査として並行してH店及びI店への裏付け捜査、パソコンデータ精査を行っている。
ウ このように、本件強盗致死事件についての取調べは、別件の捜査の合間に行われたに過ぎないから、余罪取調べとして適法である。
(5)以上から、①の逮捕、拘留及びこれに引き続く平成31年3月20日までの身柄拘束は適法である。
2 小問2
(1)1とは異なる結論を導く理論構成としては、いわゆる本件基準説がある。すなわち、別件についての身柄拘束が、本件の取調べを目的としたものであるかどうかによって適法性を判断する。
(2)本問の事件では、X社社長が当初被害届の提出を渋ったため、Pは繰り返し説得を続け、同社長から被害届の提出を受けている。また、Pは、甲の送致に先立ち、本件での逮捕も視野に入れて両事件の捜査を並行して行うこととしている。以上のことから、別件についての身柄拘束は、当初から本件の取調べを目的としたものといえる。
したがって、①の逮捕、拘留及びこれに引き続く身柄拘束は違法である。
(3)このような理論構成を採らなかった理由は、捜査官の意図を当初から明らかにすることは難しいからである。
第2 設問2
1 ②の訴因変更の請求は、「公訴事実の同一性」(312条1項)を満たし、裁判所はこれを許可すべきではないか。
2 公訴事実の同一性は、公訴事実の単一性及び狭義の公訴事実の同一性からなる。前者については、一事不再理効(憲法39条後段)より、刑罰権が同一であるかどうかにより判断する。また、後者については、(ア)変更前の訴因と変更後の訴因の基本的事実に同一性があるか、(イ)両者が非両立か、という基準により判断する。(イ)は、(ア)の基準を補完する役割を果たす。
3 これを本件についてみる。
(1)狭義の公訴事実の同一性について、変更前の訴因と変更後の訴因とでは、甲が、平成30年11月20日に、X社の顧客であるA方において、Aから3万円を受け取ったという点において、日にち、場所、金銭の受領行為という基本的事実に同一性が見られる。
一方、集金権限や、金銭の受領目的、欺罔行為の有無に違いが見られるが、同じ日に、「集金権限を有する甲が横領行為を行うこと」と「集金権限のない甲が詐欺行為を行うこと」は両立しない。
したがって、狭義の公訴事実の同一性を満たす。
(2)公訴事実の単一性については、たしかに、変更前の訴因は業務上横領(刑法253条)、変更後の訴因は詐欺罪(刑法246条1項)であるから、適用条文が異なる。しかし、二つの犯罪が成立しうるとしても、一つの行為で行われているから、観念的競合(刑法54条1項)となるから刑罰権は一つである。したがって、公訴事実の単一性を満たす。
4 以上より、「公訴事実の同一性」を満たすから、裁判所は訴因変更を許可すべきとも思える。もっとも、本件は公判前整理手続を経ていることから、別途考慮が必要となる。
公判前整理手続を経ている事件については、計画的な審理に反したり、被告人の不利益となるような場合には訴因変更を許可すべきではないと解する。
本件では、公判前整理手続の結果、X社社長及びAの証人尋問を実施することが決定されている。その後、公判期日においてX社社長が「甲には集金権限がなかった」旨を証言したことから、集金権限の有無が新たな争点となっている。もっとも、この場合、「やむを得ない事由」(316条の32第1項)があるといえるから、被告人は、証拠調べを請求できるから被告人に不利益はない。
したがって、裁判所は訴因変更を許可すべきである。
以上
感想等
分量は5枚半です。ただし、設問1の小問1で半ページほど削除しています。
設問1 反対説も書くことになるとは全く想定していませんでした。実は小問1は、当初、もっとごちゃごちゃ事実を拾って違法の結論をとりました。小問2に移ったところ問題文に「1とは異なる結論」と書いてあることに気づき、あわてて小問1を半ページほど削り結論を適法に直しました。問題文の読み間違いもさることながら、別件基準説、本件基準説の基本的理解がないことを露呈した答案になってしまいました。
設問2 設問1で時間を取ったため最小限のことしか書けませんでした。設問2から解くのが得策だったように思います。