第1 設問1
1 甲社の臨時株主総会を自ら招集する場合
(1)この場合の根拠は297条1項である。まず、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有すること、取締役に対し、株主総会の目的である事項及び召集の理由を示して招集を請求することが必要である。
(2)請求後、遅滞なく召集の手続が行われない場合、または、請求から8週間以内の日を株主総会の日とする招集通知が発せられない場合は、株主は、裁判所の許可を得て、株主総会を招集することができる(297条4項)。
2 甲社の定時株主総会の開催にあたり株主提案権を行使する場合
(1)この場合の根拠は303条等である。甲社は公開会社だから取締役会設置会社である(327条1項1号)。したがって、総株主の議決権の100分の1以上又は300個以上の議決権を6か月前から引き続き有すること、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求すること、株主総会の日の8週間前までに請求することが必要である(303条1項)。
(2)続いて、株主総会の目的である事項について議案を提出し(304条本文)、取締役に対し、株主総会の日の8週間前までに、議案の要領を株主に通知することを請求することができる(305条本文)。
3 比較検討
(1)甲社においては単元株式数の定めが定款にないから、株主は1株につき1個の議決権を有する(308条1項)。
(2)臨時株主総会を招集する方法について、たしかに、不動産価格は常に変動することから、一刻も早く株主総会を開催し、遊休資産の売却を迫るのが有効である。しかし、この方法による場合、基準日において100分の3以上の株式を有していることが必要となるが、直近の基準日である平成29年3月31日の時点で、乙社は株主を所有していなかったから、この要件をみたさない。
(3)一方、定時株主総会で株主提案権を行使する方法については、基準日である平成30年3月31日の時点で15%を保有することになるから、持株要件をみたしている。
(4)したがって、定時株主総会で株主提案権を行使する方法によるべきである。
第2 設問2
1 本件新株予約権割り当ての概要(以下「概要」という。)(4)によると、基準日は平成30年7月24日であるから、平成30年6月26日の時点ではまだ割当先の株主が確定していない。そこで、乙社としては、247条に基づき、本件新株予約権無償割当ての差止めを請求することが考えられる。以下要件を検討する。
2 法令または定款違反(247条1号)
(1)概要(8)において、乙社を「非適格者」とし、新株予約権を行使できないものとしていることが株主平等原則(109条1項)に違反しないか。
(2)株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない(109条1項)。甲社は種類株式発行会社ではないから、株式の内容はすべて同じである。また、公開会社であるから、109条2項の適用もない。したがって、株主の取り扱いに差異がある場合、当該差異に合理的な理由がない限り、109条1項違反となるのが原則である。
もっとも、会社の企業価値をき損したり、株主の共同利益を害するような場合には、例外的に109条1項の違反とはならないと解する。
(3)これを本件についてみる。
ア そもそも、概要には、乙社を非適格者とする理由が示されていない。たしかに、乙社が対話に応じた場合の対応を反映させているが、その対応というのも、株主に割り当てた新株予約権の全部を無償で取得することができるとするのみで、乙社の受ける取り扱いの差異を正当化するものではない。したがって、当該差異に合理的な理由はない。
イ では、例外的な場合にあたるか。
乙社は、比較的短期間で株式を売買し、その売買益を得る投資手法を採っている。また、敵対的な買収により対象会社の支配権を取得し、経営陣を入れ替え、対象会社の財産を切り売りする投資手法を採ったことがある。さらに、乙社の代表社員Bが、甲社の事業に対して理解がないことが指摘されている。
甲社に対して、P倉庫を売却することにより剰余金の配当の増額を迫っているが、これはまさに対象会社の財産を切り売りする投資手法である。また、乙社が甲社の株式を買い増し、甲社の事業に理解のない経営陣に入れ替えられてしまう恐れがある。このような事態は、まさに甲社の企業価値をき損し、株主の共同利益を害するものといえる。
したがって、例外的な場合にあたり、109条1項に違反しない。
3 著しく不公正な方法(247条2号)
(1)著しく不公正な方法とは、会社の経営権に争いがある場合に、特定の株主の持株比率を下げることを主要な目的として発行が行われる場合をいう(主要目的ルール)。
(2)これを本件についてみる。
甲社の取締役からは、乙社は、経営陣を入れ替える可能性が高いという懸念が示されており、経営権に争いがある場合といえる。
そして、甲社の取締役会において、乙社によるこれ以上の買い増しを防止し、乙社による甲社の支配権の取得を阻止するべきであるという意見が大勢を占めたことから、乙社の持ち株比率を低下させる新株予約権無償割当てを行うことで意見が一致している。乙社以外の株主には1株あたり2個の本件新株予約権が割り当てられるから、これを行使すれば、甲社の普通株式2株を取得できるのに対し、乙社に対しては金銭が交付されるのみであるから、乙社の持株比率が低下してしまう。
したがって、特定の株主の持株比率を下げることが主要な目的とされている。
(3)以上より、著しく不公正な方法といえる。
4 株主が不利益を被るおそれ(247条柱書)
たしかに、概要には、乙社が協議に応じた場合の対応が定められている。しかし、行使期間開始日までに協議に応じなかった場合は救済がないから、乙社が不利益を被るおそれがあるといえる。
5 以上より、乙社が本件新株予約権無償割当ての差止めをすることができるとの主張は、正当である。
第3 設問3
1 本件決議1の効力について
(1)取締役会設置会社において、株主総会は、会社法または定款に定めた事項に限り決議をすることができる(295条2項)。定款において財産の処分を株主総会の決議によってすることができる旨を定めれば、問題なく決議することができるとも思える。
もっとも、重要な財産の処分は取締役会において決定することとされている(362条4項1号)。法律に定めのある決議事項を定款により株主総会に移すことはできるか。
(2)思うに、362条4項の趣旨は、一定の重要事項につき判断を慎重ならしめることにあるから、判断をさらに慎重にし、株主総会の判断にゆだねることとしても法の趣旨に矛盾しない。
(3)したがって、決議1は有効である。
2 Aの423条1項の責任について
(1)「任務を怠ったとき」(423条1項、以下「任務懈怠」という)とは、善管注意義務(330条、民法644条)及び忠実義務(355条)違反をいう。会社資産の売却のような経営上の判断については、①情報収集は充分であったか、②当該情報に基づいた判断過程に不合理はなかったか、で任務懈怠の有無を判断すべきである。
(2)本件では、Q県で発生した大地震によりP倉庫を売却すると顧客を奪われ50億円を下らない損害は甲社に生ずることが見込まれている。また、P倉庫の近隣の不動産価格が下落するという兆候はうかがわれないという情報が得られており、十分な情報収集があったといえる(①をみたす)。
当該情報に基づいた判断過程に不合理はなかったか。たしかに、社外取締役という第三者的立場にある者から決議を遵守すべきであるとの意見が述べられたことから、決議どおりにP倉庫を売却したという判断に不合理はなかったとも思える。しかし、取締役らから、「決議に従う必要はないのではないか」との意見、「P倉庫の売却を中止してもP倉庫の資産価値は維持されるし、違約金の負担も生じない」との意見、さらには、P倉庫を売却すれば50億円の損害が見込まれるのであるから、経営の専門家である代表取締役としては、P倉庫は売却すべきでなかったといえる。したがって、判断過程に不合理があったといえる(②をみたさない)。
(3)以上から、任務懈怠が認められ、これにより多大な損害が発生している。したがって、Aに423条1項の責任が認められる。
以上