設問1は、準現行犯逮捕の準備はしていたものの、現行犯逮捕が問われるとは思っていませんでした。逮捕者が犯罪を現認してないのに、現行犯逮捕なんかできる余地あるの?という感じでした。212条2項柱書では、各号の一に該当する者は現行犯人と見なすと書いてあるので、準現行犯逮捕も現行犯逮捕だと思っていいということにし、準現行犯逮捕メインで書きました。ただ、212条2項各号の要件もどれ一つとして当てはまりそうなものがありません。結局、残念な答案になってしまいました。

 

設問2は平成25年の過去問の焼き直しで、今度はご丁寧に「釈明内容が訴因の内容となるか」という誘導がついていました。釈明内容が訴因の内容とならない場合、訴因変更の要否の問題とならないという知識だけはあったのですが、いざ本試験で問われてみると、全く理解していなかったことに気づかされました。考えたあげく、知らない知識を大展開するよりは、知らんぷりを決め込んで訴因変更の要否を書いてしまうことにしました。平成25年の時は、それでBをもらえたという成功体験?もあります。今回もそれが通用すると思うのは甘いかもしれませんが。

 

 


刑訴
第1 設問1
1 現行犯逮捕について
(1)現行犯逮捕(憲法33条、212条1項、213条)が令状なしで逮捕を認めているのは、犯罪と犯人の結びつきが明白で誤認逮捕の恐れが少ないからである。その要件は、①現行性、②必要性(明文はないが、通常逮捕と同様に必要)である。
(2)本件では、警察官は通報を受けたのみで、逮捕者自身にとって犯罪と犯人の結びつきが明白ではない。
(3)したがって、現行犯逮捕としては適法でない。
2 準現行犯について
(1)では、準現行犯逮捕として認められないか。要件は、①時間的・場所的接着性、②212条2項各号該当性、③必要性である。
(2)本件では、犯行から約30分後、犯行現場から約2キロメートル離れた路上で逮捕しており、時間的・場所的接着性はある。
(3)Wは犯人を犯行の約1分後、犯行現場から約200メートルの地点で見失っており、「犯人として追呼されているとき」にあたらない。
 また、サバイバルナイフはVの胸部に刺さった状態で発見されており、甲は所持していないから「犯罪のように供したと思われる凶器」を所持していない。Wから聴取していた犯人の特徴と合致しているものの、返り血を浴びているといった状況はないため「身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき」にもあたらない。
 では、「誰何されて逃走しようとするとき」にあたるか。たしかに、甲は犯行を認めている。しかし、準現行犯逮捕が認められるのは、212条2項各号に該当するという客観的状況から犯罪と犯人の明白性が認められるからであると考えられる。すると、被逮捕者の主観的供述では足りないと解する。したがって、「誰何されて逃走しようとするとき」にあたらない。
(4)以上より、準現行犯逮捕としても適法ではない。警察官は、緊急逮捕(210条)により甲を逮捕すべきであった。
第2 設問2
1 訴因は特定しているか
 「訴因が特定」(256条3項)しているか。訴因の機能は、①裁判所に対して審判対象を特定する機能、②被告人に対して防御の範囲を明示する機能である。このことからすると、「訴因を特定」とは、犯罪事実をほかの犯罪から識別できる程度で足りると解する。
 本件公訴事実では、「甲と共謀の上」という事実から共謀共同正犯が、「Vに対し、殺意をもって、甲がサバイバルナイフでVの胸部を突き刺し、・・・殺害した」という事実から殺人罪が識別できる。したがって、訴因は特定されている。
2 釈明内容が訴因の内容となっているか
 釈明内容が訴因の内容となるかどうかは、訴因が特定しているかどうかで判断する。本件では、釈明前の公訴事実で訴因が特定している。したがって、検察官の釈明事項は訴因の内容とならない。
3 裁判所は事実認定できるか
(1)設問のような事実を認定することで「罪となるべき事実」(335条1項)が示されたといえるか。訴因に示されていない事項を認定するものとして不告不理の原則に反しないか。
(2)本件では、訴因に示された事実と、裁判所が認定しようとしている事実が異なっているが、事実に重要な変化が生じた場合に訴因変更が必要となる。訴因の機能からすると、①裁判所の審判対象が変更になる場合は訴因変更が必要であり、②被告人の防御に重要な変化がある場合にも訴因変更が必要と解する。もっとも、③具体的審理経過に照らし、被告人に不意打ちとならず、かつ被告人の不利益とならない場合、例外的に訴因変更が不要と解する。
(3)これを本件についてみる。本件では、検察官の釈明により共謀の日時、場所が示されれたが、乙の弁護人は甲との共謀の事実を否認し、共謀があったか否かが主要な争点となっている。
 たしかに、裁判所の認定しようとしている事実は、検察官の釈明事項の日時より1週間前であり、乙の弁護人は、5月18日の乙のアリバイについては主張しているが、5月11日については何も主張していない。
 しかし、わずか1週間前の日時を認定することは被告人に不意打ちとならず、かつ被告人の不利益ともならないため、③の場合に該当する。
(4)したがって、裁判所は、設問記載の事実を認定することができる。

以上