2050年を予測するっていうレポート
(図や表は著作権的な関係上、載せてません)
かなり変な事を言ってますが。
1.目的
建築という領域が環境を破壊している事態は各メディアにより如実に示されており、故に建築分野の専門書において自らの首を絞める事実を示すような環境に関する記述は少ない。まず建築界に身を置く我々は、その様相を是非に認識せねばならない。すなわち目的は、それらの認識から2050年を推量する事により、建築と環境が可能な限り共生する、然る可き関係になるための手法を模索することにある。
2.現状
2-1.ヒートアイランド現象
都市部に見られる建築の高密度化・高層化が与える影響として、ヒートアイランド現象がある。都市部の温暖化は顕著であり、「その対策が必要」というのが通念である。しかし、単純にそうでもない事が分かった。農業収量の向上・凍害スリップや雪害などのリスク軽減・除雪費用の減少などは、定量的な評価はなされていないにしても、ヒートアイランド現象のメリットとして挙げられている。取り分け、人間の生命に関わる問題として、熱中症による「搬送者数」の増加は周知の通りであるが、脳梗塞などによる「死亡者数」の減少も公表されている(表1)。
(表1)ヒートアイランド現象が人間健康に与える影響 [注1]
2-2.廃棄物
(図1)は建設廃棄物の種類別排出量を示している。排出量は減少しているが、着工新設住宅数も減少している事実を踏まえれば、1つのプロジェクト当たりの排出量が減少しているとは言い切れない。そして、排出量の約8割を占める「アスファルト・コンクリート塊」、「コンクリート塊」は、現在100%近くの再資源化を実現している。即ち、建設廃棄物の最終処分量の多くは「建設汚泥」と「建設混合廃棄物」で占められている。
(図1)建設廃棄物の種類別排出量 [注2]
2-3.住宅寿命
建物が長寿命化すれば、廃棄物の排出量を減らす事が可能である。しかしながら、日本における住宅寿命は諸外国と比すれば、その短さが顕著である(図2)。これは新設住宅に対する中古住宅の流通量の割合が圧倒的に少ない[注2]という事実にも起因する結果であると考えられる。
(図2)ストック戸数をフロー戸数で除した値(年)の国際比較 [注2]
2-4.森林
森林面積の減少が地球環境破壊であるという考えに異論はないだろう。1990年から2000年にかけてのその変化を示したのが(図3)である。ヨーロッパにおいて増加の傾向が見られるものの、その他の地域での減少傾向はそれを大きく上回る現状にある。
(図3)森林面積の年変化(1990~2000年) [注3]
ここで、日本における森林蓄積の推移を(図4)に示す。これは木の体積を表したもので、増加傾向にある。森林面積は一定の日本では、過剰な森林量であると言える。
(図4)日本における森林蓄積の推移 [注4]
3.2050年の世界の環境
以上の現状を踏まえて2050年を予測する。まず、ヒートアイランド現象だが、都市化による地表面近傍の温度上昇は事実であると言わざるを得ない。しかしながら、マクロな視点で観察すると、全球の対流圏中層の大気温変化は30年程ほぼ一定であり、都市部の温暖化は無視できる結果を示している[注5]。即ち、地球規模で考えた時、ヒートアイランド現象は大きな影響を与えていないと考えられる。
廃棄物問題については、現在も改善傾向にあることから、徐々に再資源化率も上がるものと考えられる。オランダのそれは90%にも及ぶ[注2]。即ち、技術的には可能であり、日本などの地震国は地震に対応した技術の開発が必須である。それも時間の問題だ。すると、それでも再資源化できない廃棄物が課題となってくるだろう。
建物の寿命については、現在、日本でも長寿命化が図られている。そして、現在のペースで行くとその結果が出るのが2050年頃である。また、住宅以外の既存の建築物については、現代社会のニーズに対応不可能なものは、建て替えを余儀なくされている。つまり、この数十年の間にそれは進むと考えられる。
最後に森林について述べる。日本においては自国の山の木を切れば切るほど損をするという話さえ囁かれている。その傾向は今後も変わらない。そういった結果、世界の森林面積の変化のバランスは、今にも増して偏ると考えられる。
4.建築と環境の共生
上述の予測から、建築と環境がより良い関係を築くための私見を述べる。ヒートアイランド現象による地表面近傍の温度の上昇は生態系への悪影響を及ぼしかねない。しかしながら、「都市」という性質上、そこに生息する主となる生物は人間と言わざるを得ない。そして、その我々は、暑熱ストレスより寒冷ストレスを軽減すべき事から、人間にとってヒートアイランド現象は好都合であると言える。即ち我々がすべき事は、都市の拡大を防ぐ事にある。
そして、廃棄物のさらなる減少を図るならば、再資源化率の低い国のそれを上げるとともに、建築物の長寿命化が課題である。それは強度などの力学的なものではなく、人が使うものとして機能させ続ける必要性がある。それには、中古建築のブランド性の確立や、用途変換可能な構法の普及をする必要がある。
また、森林については、まず減少のバランスを整える必要がある。貿易摩擦を防ぐなどの政治的な理由から自国の木材を使用しないという事実もある事から、森林蓄積増加国では、国レベルでの政策が必要とされる。
引用・参考文献
[注1]鳴海大典:ヒートアイランドの功罪、建築雑誌(vol.123 no.1583)p10-12、日本建築学会(2008.12)
[注2]清家剛ほか:サステイナブルハウジング―地球にやさしい資源循環型住宅
、東洋経済新報社(2003.6)
[注3]環境省総合環境政策局環境計画課:平成14年版環境白書、ぎょうせい(2002.5)
[注4]林野庁:森林資源の現況、http://www.rinya.maff.go.jp/toukei/genkyou/gaiyou2.htm
(2007.3)
[注5]渡辺正:地球温暖化は二酸化炭素のせいなのか?、建築雑誌(vol.123 no.1583)p6-7、日本建築学会(2008.12)