そんな塩村騎手を救ったのは、そんなネーハイシーザーの外から、もう1頭がかかり気味に行ってしまったことだった。4歳馬のメルシー
ステージが強引に先頭に立った時、塩村騎手は思わず安堵した。ネーハイシーザーもメルシーステージの「割り込み」によってかかることなく、うまく折り合い
をつけて2番手に落ち着いた。これは、いつでも動ける好位から競馬を進めることを望んでいた塩村騎手の理想どおりの展開だった。
ネーハイシーザーは、メルシーステージが引っ張って淡々と流れるレースの中で、2番手からやはり淡々と追走した。だが、この日の1000m地点通過ラッ
プは60秒6で、スプリンターのサクラバクシンオーが、短距離に近いペースで先手を取った毎日王冠に比べると、かなり緩やかな流れとなっていた。緩やかな
流れのレースでは、先行馬はばてる危険が少なくなる一方で、後続の馬の瞬発力が爆発する危険性も高い。本来高速馬場での押し切りを得意とするネーハイシー
ザーにとって、この日は決して有利な流れとはいえなかった。
ネーハイシーザーのすぐ後ろには、ライバル・ビワハヤヒデの姿もあった。好位に取りついて直線で前の何頭かを差す・・・という勝ちパターンは、ネーハイ
シーザーだけでなく、ビワハヤヒデの得意とする競馬でもあった。そして、この日のような展開となった宝塚記念では、ビワハヤヒデが動くとネーハイシーザー
はついていけないどころか他の馬にまで差されてしまい、敗退している。同じような競馬なら、ビワハヤヒデのほうが強い・・・。それが、大多数のファンの見
方だった。ビワハヤヒデがいったん動けば、ネーハイシーザーはそのまま沈んでしまうだろう・・・。
第4コーナーを回っての長い直線の入り口で、一杯になろうとしている逃げ馬をネーハイシーザーが様子をうかがい、その後ろからはあまり差のない3番手でビワハヤヒデが追走している。そんな光景を目の当たりにしたファンは、
「ビワハヤヒデはこれからどんな抜け出し方をするのだろう」
ぐらいにしか思わなかったかもしれない。このレースは、先行して直線で抜け出す、というビワハヤヒデの勝ちパターンをそのままレースにしたようなものでもあった。
「宝塚記念のようにビワハヤヒデにつぶされたらダメだ・・・。」
塩村騎手や布施師にとっての不安は、単勝で50%を超える支持をビワハヤヒデに与えたファンの多数派にとっては、むしろビワハヤヒデにかける期待だった。彼らの目には、ネーハイシーザーの中距離における実力は、いまだその視界に入ってきてはいなかった。