ワイルダー作品ながら、ほとんど話題になることのない「恋人よ帰れ!わが胸に」は、原題を直訳すると「おみくじクッキー」なのだが、なんでこんな邦題にしたのかなぁという内容、確かに別れた妻が帰ってくるエピソードもあるものの、本題はそこではなく事故の示談金詐欺の顛末なのだ。
もしかするとコール・ポーターの曲「帰りを待っててくれたら嬉しい」が映画全体にアレンジされて流れているから、それからインスパイアされた題名なのだろうか。
原題のおみくじクッキーも一か所出てきて、主人公たちの考えを言い当てるが、小道具の使い方が上手なワイルダーにしては、さほど重要とも思えない小道具だ。
結局原題邦題ともにシックリこない作品だった。
映画自体も悪徳弁護士に翻弄される話なので、気分のいいテーマではないし、行きがかり上、詐欺に加わるジャック・レモンが寝たきり状態で魅力なく、だから弁護士役ウォルター・マッソーのアカデミー賞受賞につながったのかも。
逃げた奥さん役の、若いのか年寄なのか不明なジュディ・ウエストも面白くない。その後この女優を映画で見たことは無い。
ワイルダーの場合、魅力的な俳優が出てくると映画が光りだす傾向がある。俳優次第で映画の善し悪しが決まる作家なのだろう。
この不愉快なテーマの作品でも、そこそこ観ていられる作品になっているのは、さすがワイルダーというべきか。
ワイルダーの全盛期は1960年代の初頭までで「ねぇ!キスしてよ」がイマイチな出来で、続いて作られたのがこの作品だった。この時代はニューシネマが流行りだした頃でもあり、オールドシネマ的なワイルダーとしても迷走期だったようだ。
とはいえこの映画がきっかけでジャック・レモンとウォルター・マッソーという名コンビが誕生し、数々の作品を残したのは無視できない。
その一本として前回軽く触れた「フロント・ページ」があり、息の合ったコンビ作品が魅力的だった。
結婚を機に新聞社を辞めるつもりのジャック・レモンと、それをなんとか引き留めようとするウォルター・マッソーの画策と、ある特ダネ事件が偶然飛び込んできて、図らずも二人の名コンビぶりが発揮される展開で映画は進んでいく。
映画自体は前年の「スティング」とほぼ同時代が舞台の作品なので、ノスタルジーブームも制作の後押しとなったのだろう。
そしてワイルダー最後の作品「バディバディ」でもレモン/マッソーのコンビ作品だった。
「フロント・ページ」はベン・ヘクトとチャールズ・マッカーサー共作戯曲の3回目の映画化で、2回目のハワード・ホークス監督作「ヒズ・ガール・フライデー」が世界一台詞数の多い映画として有名。
主役二人をケイリー・グラントとロザリンド・ラッセルによる元夫婦という設定にして、ふたりのマシンガントークで映画全編が進んでいく。
それほど長い映画ではないのだが、まさにスクリューボールコメディの名がふさわしい作品だった。
事程左様に映画の上映時間と内容は正比例するものではない。近年の映画がやたら長いのは、必ずしも情報量の多さ故とは言えない。とはいうものの早回しで映画を観るなどというのは言語道断太田道灌。

