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「ヴェクサシオン」というピアノ曲がある。世界一長い曲と言われている。ところがこの曲は1分ほどのフレーズを840回繰り返すだけなのだ。指定通り演奏すると20時間前後かかるらしい。

題名の意味は嫌がらせとかイライラするとか。

作曲したのはエリック・サティ。ドビュッシーやラヴェルに影響を与えたという作曲家だ。現在では「ジムノペディ」とかの耳障りのいい曲を聴くことがあるが、20世紀後半までは忘れられたような存在だった。

50年以上前にTV「題名のない音楽会」で30分番組一本まるまる使ってその曲を部分演奏(?)したことがある。サブタイトルは視聴率0の番組。

前衛的な部分はジョン・ケージ等にも影響があったようだ。

 

そのケージの作品で有名なのが「4分33秒」ピアニストがピアノの前に4分33秒間ただ座りつづけるというだけの曲(?)。

音楽の休符部分も音楽ならその部分だけを集めたという意味なのだろう。まさにサウンドオブサイレンスである。

こんな前衛音楽を作曲家が作って自己満足している間に、音楽愛好家は近代音楽の世界から遠のいてしまった。

 

現在ではコンサートの定番プログラムとなっているグスタフ・マーラーもサティほどではないが20世紀後半まで忘れられたような存在だった。ユダヤ人という立場もその要因のひとつだったようだ。

長大でいささか難解と思える交響曲の作曲家として知られているマーラーだが、生前は指揮者として輝かしい名声を得ていた。しかし1911年に没したが故に、その演奏を知る術は残されてはいない。

 

マーラーの初期交響曲は既存の曲や自作のメロディーを並べたような音楽コラージュともいうべき構造であり、それを楽しいと思うか複雑と思うかで相性が決まるのかもしれない。とはいえ展開されるメロディー自体は親しみやすい音形が多い。

更に極限まで肥大化したかのようなオーケストラや1時間を超える長大な演奏時間が1950年代のLPレコードの登場を待つまで一般化の道を妨げていた。

音楽とりわけクラシック音楽の普及は録音技術の進歩とともに進んでいったのは否めない事実だろう。

それまでコンサートのみでしか遭遇できなかった曲の数々が、録音という手段により家庭で手軽に聴くことが可能となったのは愛好家にとって大いなる恩恵と言える。

明瞭な原音再生と長時間録音を可能にしたテクノロジーの進歩とともに、ワルターやバーンスタインといった非凡な指揮者たちの登場で、単なる負け惜しみだったかもしれない彼の言葉「やがて私の時代が来る」が没後70年ほどで現実となったのだ。

もっともヴィスコンティの「ベニスに死す」に使用されたり、日本では意外な形だが、1980年代中ごろに洋酒メーカーのCMで水墨画風アニメーションと共に彼の「大地の歌」の一部が使用されたのも、一般的に認知されるきっかけとなったようだ。