音楽の速度指定でしかない言葉ながら、ある特定の曲のイメージが付きまとうアダージョとアダージェット。
数年前にアダージョカラヤンというムード音楽的に編集されたコレクションアルバムが評判となったこともあった。
一頃アダージョというとトマソ・アルビノーニのアダージョが有名だった。
カフカ原作の不条理劇「審判」の映画に使われ、暗く静謐な曲は広く知られるようになったのだが、実は編曲者レーモ・ジャツオットの創作だったというのが事実のようだ。
アダージェットはアダージョより早くという意味ではあるが、実際は指揮者の解釈で速度は決められてしまう。
ルキノ・ヴィスコンティの「ベニスに死す」で効果的に使われたグスタフ・マーラーの交響曲5番4楽章が有名で、その美しくも感情の悶えを表現したような曲はマーラー再発見のきっかけとなり、このアダージェットのみ演奏される機会も少なくない。
そしてあまりに哀切なサミエル・バーバーのアダージョは弦楽四重奏曲の2楽章なのだが、この部分だけが有名になり編曲されて演奏されることが多い。
映画としては愚作の「エレファントマン」でラストに死のテーマのようにあざとく使われた他、ベトナム戦争映画「プラトーン」でも鎮魂の曲のように流れ、どこか死のイメージがつきまとう。実際にJ・F・ケネディの葬儀で演奏され、以降は葬儀の曲のようになってしまいバーバー本人としてはいささか不満だったという。
意外にも思えるが、この3曲は全て20世紀に書かれた作品であり20世紀に躍進した映画という媒体を通じて有名になっていったという共通点もある。
