宮崎駿は「風立ちぬ」で何度目かの引退宣言をしたものの、新作「君たちはどう生きるか」が出てきたのでまたも引退撤回かと思ったら、引退中に作った新作ということになるらしい、何やら老人の道楽に振り回されている感も強い。
その「君たちはどう生きるか」は、特に吉野源三郎の原作を映画化した訳ではなく、宮崎駿の少年時代をモデルにした部分もあるようであり、宮崎ワールド爆発のアニメーションとなっている。
ストーリーの整合性を考えると不可解で結末も釈然としないのだが、「もののけ姫」以降はそういった縛りを宮崎駿自身が放棄しているように思え、その流れの延長で「君たちはどう生きるか」は「千と千尋の神隠し」以上のイマジネーションの凄まじい奔流を感じる。
そのイマジネーションの展開は「不思議の国のアリス」的であり、アリスがウサギを追って穴に落ちたのと同様、主人公眞人は青サギに導かれ不気味な塔に入り、アリス同様下方の不思議な迷宮世界巡りを体験する。
ウサギと青サギってダジャレかいな…などと考えている暇もない程次々と迷宮は続き、亡き母との奇妙な再会もあるものの、ありがちなウェット感は感じられない。眞人は捕らえられたり危機に陥いるなど、どのような局面であろうとも常にストイックに思われるのだ。
続く迷宮での逃亡追跡は宮崎初期の「長靴をはいた猫」の頃からの定番で、初監督作品「ルパン三世 カリオストロの城」で一つの頂点を築いている。
それをインスパイアしているのは若い時に観た「やぶにらみの暴君」だという事だ。
今回は対立モチーフとして鳥が多数登場し、その飛翔シーンは描かれてはいても、宮崎アニメ独特の主人公の飛翔シーンは描かれていない。
とはいえ押し寄せるイメージにそんなことを考える余裕はなく、そのイメージは不条理的なものも多くディズニー版「不思議の国のアリス」すら単なるかわいいオトギバナシアニメに思えてくる。
時代背景は戦中の話なのだが、内容がファンタジー故に、戦争に対するイデオロギー的な側面は感じられない。
とはいえ作品全体にはどこか死のイメージが漂っている。現実世界で主人公一家を取り巻くのが全て老人なのもその一因だろうが、それ以上に宮埼駿自身が老境に入ってしまったからなのか、その老人宮崎駿の総括的アンソロジー作品と思えなくもない。
とにかくイメージの奔流に浸る快感を知る者には、願ってもない作品なのだが、ストーリー中心に鑑賞する人にはいささか不評のようだ。
更に、題名が必ずしも内容に即しているとは思えないところで損をしている感がある。
