読者の皆さまには、いつも私のお話しを楽しみにしてくださいまして、ありがとうございます。

 

またしばらく時間があいてしまいましたね…アセアセ

ふと思い立って本館の方で書いていたお話しも完了できたので、やっとこちらに戻って来られました。

では、第8話です。

 

どうか、お楽しみいただけますようにキラキラ

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 ~星降る島のサンクチュアリ~ ≪8≫


モヨンは、わき目も振らずに特診科の医局に向かっていた。

 

『ミン先生がミョンイ大に戻られる時に、カン先生も大学病院に移っていただくことが決まりました。』

理事長が、不貞腐れたように少し斜め下に視線を落としたまま言った言葉が、頭にこだましていた。

突然の宣告に、モヨンは理由を尋ねた。
すると理事長は『ミン先生に聞いてください。』とだけ言って、背中を向けてしまった。

―いったいどういうこと?・・・断ったはずじゃない!

モヨンは息を切らせながら特診科の医局のドアを叩いた。
中からの返事も待たずに勢いよくドアを開けると、医局にいた数人の医師や看護師達の視線が一斉にモヨンに注がれた。
しかし、モヨンはお構いなしに部屋の中をぐるりと見回すと「ミン先生はどこ?」と声をかけた。
 

モヨンの剣幕に驚き顔のスタッフ達が何事かと顔を見合わせていると、部屋の奥のパーテーションで仕切られた一角から、ミン・ユンギが顔を出した。
ユンギは、「ミン先生!」と怒った顔で近づいてくるモヨンを見ながら、ほんの一瞬ふっと笑うと、医局にいたスタッフ達に席を外すよう促した。

「カン先生、そろそろ来る頃だと思ってたよ。さあ、ここへどうぞ。」
ユンギは、最初に会った時とは打って変わって、いかにも医師然とした調子でモヨンに椅子を勧めた。

モヨンは、立ったままユンギに尋ねた。
「いったいどういうことですか?・・・大学病院の件はお断りしたはずですが。」

ユンギは、モヨンの近くの椅子に腰かけると、肩をすくめながら言った。
「それなら逆に聞くけど、カン先生は大学病院に行くことを、なぜそこまで頑なに拒むんだ?」
「えっ?・・・」

「昔の俺とわけありだったことが理由か?・・・それとも、この病院に残りたい理由でもあるのか?」
「そ、それは・・・」

モヨンは、言葉に詰まって黙り込んだ。
すると、ユンギは我が意を得たりと言わんばかりに話し始めた。

まずユンギは、再会してすぐに話しをした時に、自分の話し方が誤解を生んだのなら申し訳なかったと謝罪した。
 

そして、アメリカにいた時に、モヨンがテレビに出ている映像を偶然見て、懐かしさもあって、当時のモヨンのことを調べたと明かした。
それは、モヨンがウルクに行っていた頃のことで、ヘソン病院の特診科の教授であるモヨンが、なぜ医療奉仕団の一員として派遣されたのか、その時に本当の理由も知って、理事長に対して憤りを感じたとも言った。
 

そして、帰国が決まった時、必ずモヨンも大学病院に連れて行こうと思ったことなどを、切々と語った。

「カン先生・・・君は、この病院での不遇を悔しいとは思わないのか?・・・こんな、実力よりもコネが優先されるような病院にずっといるつもりなのか?」

それは、モヨンがずっと心の中で感じていたことだった。

「優秀な人材に、もっと活躍できる場所を提供しようとしてるんだ。昔のことや、こんな病院への義理で断るなんて馬鹿げてると思わないか?もっと自分自身の未来を考えろ。」

―それなら、なぜ尾行なんか・・・

口に出しては言えないが、どうしても引っかかることは、まだ残っている・・・
しかし、思っていたよりもずっと自分のことを考えてくれてのことだったのだと納得したモヨンは、抵抗する理由なくしてしまっていた。


まだ完全に信じられるわけではない・・・しかし、医師としてはこの病院にいることに固執するよりは、ユンギに従った方が今よりもずっとましな気がして来ていた。

「お話しはわかりました。でも、少し時間をください。行くか行かないかは、自分の意志で決めます。」
「そうか!わかった。なんせ君はうちの大学を首席で卒業してるんだ。大学病院に来ればずっと実力に合った仕事ができるはずだよ。」
モヨンの言葉に、ユンギは素直にうなずいた。

「最初からこんな風に話してくれれば、変な誤解をしないで済んだのに・・・」
モヨンは、軽く睨みながら言った。

「確かにそうだな。ただ、久しぶりに会って、なんだかあの頃に戻ったような錯覚をしていたんだな。昔の俺ってあんな感じだっただろ?・・・」
ユンギは、最後に照れたように笑って頭を掻いた。

それからモヨンは、入院患者の様子を見に行くというユンギと一緒に特診科の医局を出ると、しばらく並んで廊下を歩いた。

「そういえば、軍人彼氏とはうまく行ってるのか?・・・」
「えっ?・・・それは、ミン先生にも今回の話しにも関係ないことでしょう。」
ユンギの不意の問いかけに、モヨンはどぎまぎしながら答えた。

「まあ、それはそうだけど、ちょっと気になってね・・・」
「何がですか?・・・医者と軍人が付き合うのは変ですか?」
ユンギの何か含みを込めたような言い方が気になって、モヨンは不満げに聞き返した。

「いや、そういうわけじゃないけど・・・特戦司なら、どんな任務に就いているか君にだって絶対に話さないだろう?それに、任務中に死んでも家族にさえ本当の理由は教えてもらえないっていうじゃないか・・・そんな奴と一緒にいて大丈夫なのかと思ってさ・・・」

―えっ?・・・

モヨンは、思わず立ち止まって、歩いて行ってしまうユンギを呆然と見つめていた。
不意に、ウルクでの出来事が頭の中を駆け巡り、動けなくなってしまった。

すると、数歩行ってからモヨンの様子に気が付いたユンギは、モヨンが怒っていると勘違いしたのか慌てて戻って来た。
「おっと、別に軍人彼氏とのことに水を差そうって思ってるわけじゃないよ・・・俺は昔から思ったままを口にする悪い癖があったろ?気を悪くしたなら謝るよ・・・ごめんごめん。じゃあまたな。」

 

ユンギは、モヨンに向かって申し訳なさげに手を上げながら立ち去って行った。

そしてモヨンは、背中を向けたユンギがほんの一瞬何かを企むような不敵な笑みを浮かべたことには気づかなかった。

その時モヨンは、ユンギの背中にある男の幻を見ていた。

アーガス・・・ウルクでモヨンを拉致し、シジンに射殺された男。

椅子にロープで縛り付けられ、殴られ、頭に銃を突きつけられながら、あの男が耳元で囁いた言葉が不意に蘇った・・・
『ビックボスは、賢くてユーモアもある、魅力的だ。だが彼には秘密が多い。しょっちゅう消えるし連絡も取れない。ある日を境に永遠に帰ってこない・・・わかれた方がいい。これは警告じゃない、忠告だ。』

今、ユンギはあの時のアーガスと同じことを言ったとモヨンは感じていた。
不意に、体に震えが走った。

―どうして今まで忘れていたんだろう・・・

いや、忘れてはいない・・・それは、いつも夢に繰り返し現れた光景だ。
それなのに、どうして突然こんなにも怖いと感じるのだろうとモヨンは思った。

 

これまでシジンの任務について、これ程はっきりと人に指摘されたことはなかった。
事故死したと伝えられていたシジンが突然生きて戻って来た時も、薄々何かを感じたとしても、あえてそれを口にする者はいなかった。

なるべくはっきり見えないように、あえて目の前にかけていたベールを突然はぎ取られてしまったような感覚に、モヨンは動揺していた。


ユンギが、言ったことは偶然だろうか、それとも意図的だったのか・・・
そして、今まさに危険な任務に就いているであろうシジンへと思いを馳せた。

―お願い、無事に帰って来て・・・

 



それから、シジンとの約束の日までの間、モヨンはいつになく不安な日々を送っていた。
シジンが、生きて戻ってから今まででも、”デパート”に行ったことは何度もあった。
しかし、こんなに不安な気持ちになったことはなかった。
その不安の正体が何なのかわからないことが、さらにモヨンを不安にさせていた。

 

そして、やっとシジンが帰ってくる日の朝、モヨンはまた夢を見た。

それは、アーガスの一味によって拉致された場面。
モヨンは口をガムテープで塞がれ、手を縛られて車に乗せられていた。
後ろを振り返ると、銃で撃たれたファティマを抱えてこちらをじっと見据えているシジンの姿が遠ざかって行く。
ふと、ポケットに入れたままだったトランシーバーからシジンの声が聞こえて来た。

『こちらビックボス・・・カン先生、よく聞いて。僕が必ず助け出します。デキる男ですから。すぐに行きます。だから怖がらないで、少しだけ待ってて・・・』

そう・・・あの時は確かにシジンはモヨンを助けに来てくれた。

しかし、今日の夢の中のシジンは、モヨンに『少しだけ待ってて』と言ったきり、一向に姿を見せなかった。
モヨンは、必死でシジンを呼んでいた。


すると、突然目の前に銃口が現れた。
『そこから動かずにいて・・・僕を信じて・・・』
銃口の向こうから声が聞こえた。

―誰?・・・ユ少領なの?

モヨンが叫んだ瞬間、銃口が火を噴いた。


モヨンは、はっと目を開けると、ベッドの上に勢いよく起き上がった。
心臓は早鐘のように鼓動し、額や首筋にはじっとりと汗をかいていた。
モヨンは自分でも気づかない内に左肩を押さえて荒い呼吸を繰り返していた。

これまでにも、何度も同じような夢を見て来た。
しかし、こんな風に目覚めるのは、初めてだった。

辺りを見回すと、カーテンの向こうはすでに陽も上がって明るくなっていた。
傍らの時計を見ると、朝の7時を過ぎていた。
本当なら休日なのだからもっと朝寝坊をしてもいいところだが、今日はシジンが朝から迎えに来ると約束した日だ。


夢の余韻で、ぼーっとする頭を押さえながらなんとかベッドから這い出したモヨンは、顔を洗い着替えようとパジャマを脱いだ。
その時、鏡に映った自分の左肩にふと目が行った。
そこには、シジンが自分を助けるために打った銃弾がかすめた傷があった。

モヨンは、普段はあまり意識していなかった銃創を、右手の指でそっと撫でてみた。
するとまた夢の中の光景が蘇って、モヨンは自分の肩を抱いてしゃがみこんだ。
無性に怖いと思った。

―ユ少領、早く迎えて来て安心させて・・・

モヨンは、それから何度もスマホを開いて見た。
しかし、その度にシジンからの着信もメッセージも来てはいなかった。
何だか、嫌な予感がした。

そして、その日とうとうシジンは現れなかった・・・

 

                          つづく

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

さて、いかがでしたか?

 

前回のあとがきで予告した通り、物語が動いて来ました。

ただ、この展開…物書きとしての醍醐味は十分味わえているのですが、書きながらとっても辛い気持ちになってますタラー

 

そして、早く2人の幸せな場面を書きたい~と思いつつ、まだまだ拗れる予感が…

次回もどうぞお楽しみに…虹

 

                        By キューブ

 

 

二次小説の目次はこちらから  メニューページ

本館へはこちらから  CUBE-style

 

太陽の末裔