読者の皆さまには、いつも私のお話しを楽しみにしてくださいまして、ありがとうございます。

 

本館の方に書きたいことがあって、こちらの更新に時間がかかってしまいました。

さて、第7話です。

 

どうか、お楽しみいただけますように音符

 

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 ~星降る島のサンクチュアリ~ ≪7≫

「それじゃ、僕は帰ります。車はソ上士が乗って行ってしまったから、バスで戻らないと・・・」
シジンは、モヨンの作った朝食を手早く食べると早々に立ち上がった。

「私が酔いつぶれちゃったからね・・・ごめん。」
モヨンは、少し二日酔い気味でぼんやりする頭を振りながら謝った。

「いいんですよ。何でも口実ができれば、そばにいられるので。」
歯の浮くようなセリフをさらっと言ってのけるシジンに、モヨンは照れた笑みを返した。


数分後、シジンが、玄関で靴を履いていると、部屋の前で車が停まる音が聞こえた。
そして、玄関のドアの曇りガラス越しに人影が見え、ドアがノックされた。

 

「こんな早くに誰だろう?・・・」
シジンが、モヨンを振り返りながら小さくつぶやく・・・
昨夜の尾行の件もあるので、シジンはモヨンに部屋の奥へ行くように手で合図してからドア越しに声をかけた。

「どなたですか?」

すると、ドアの向こう側から思いがけない声が返って来た。
「団結!・・・上士、ソ・デヨン!」

「えっ?・・・ソ上士?」
シジンは、ほっとすると笑顔でドアを開けた。
「ソ上士!・・・今、戻ろうと思ってたところですよ。迎えに来てくれたんですか?」
シジンは、そこがモヨンの部屋ということもあって、照れ隠しに少し大袈裟に喜んで見せた。

ところが、テヨンは敬礼をしたまま硬い表情を崩すことなく、シジンを見つめ返した。
その表情で状況を悟ったシジンは、部屋の奥からこちらの様子を伺っているモヨンを一瞬振り返ってから外へ出ると後ろ手にドアを閉めた。

モヨンは、そっとドアに近づいて曇りガラスの向こうに見える二つの影を見つめていた。
声をひそめて話しているのか、二人の会話はまったく聞こえてこない・・・そして、切ない予感が、モヨンの心に広がり始めた時、不意にはっきりとシジンの声が聞こえた。
「車で待っててください。すぐに行きます。」

足音が遠ざかって行き、ドアノブが握られた気配にモヨンが後ずさると、すぐにドアが開いてシジンが顔を出した。
モヨンは、自分を見つめるシジンの何とも言えない済まなさそうな表情に「デパートに・・・行くのね?」と聞いた。
すると、シジンはモヨンの手を握りながら、小刻みにうんうんと頷いた。

そして、モヨンを安心させるように、微笑みを浮かべながら言った。
「モヨンさん、次のお休みは?」
「次の休み?・・・日曜日だけど。」

モヨンは、シジンの質問に首を傾げながら答えた。


「そうですか、じゃあ今日が火曜日だから五日後ですね。開けておいてください。朝から迎えに来ます。」
「ホント?・・・五日後には会えるの?約束よ。」

「ええ。約束です・・・だからいいですか!僕のいない間に、誰かと飲みに行ったりしないでくださいよ!」
シジンは、最後にはいつものように人差し指を立ててモヨンに念を押した。

「わ、わかってるわよ!」
モヨンも、いつのようにすねたように答えると、すぐに精一杯の笑顔を作って頷いた。

そしてシジンは、モヨンの頬に手を当ててそっと唇を重ねると、ほんの一瞬モヨンをギュッと抱きしめて出て行った。
モヨンは、ドアを細く開け、車に乗り込むシジンを見つめながら小さくつぶやいた。
「約束・・・ちゃんと守ってよ。」


部屋に一人きりになると、モヨンはクローゼットの奥からアクセサリーを入れている箱を取り出した。
そして、ベッドに腰かけると、膝にのせた箱の蓋をそっと開けた。
普段は、あまりつけることのないアクセサリーに埋もれるように、小さな白い石が顔をのぞかせている。

それは、二人の思い出の難破船の島の小石だ。
しかし、それは初めて二人であの島に行った時に持ち帰った小石ではない。
あの小石は、二度目にあの島を訪れた時に、言い伝え通りに返して来た。

シジンが死んでしまったと思っていた一年の間に、モヨンは何度も一人であの島へ行って、小石を返して来ようと考えた。
しかし、どうしても出来なかった。
幸いにもシジンは無事に戻り、二度と二人で行くことはできないと思っていたあの島へ、再び二人で訪れることが出来た。

あの時、満天の星空の下、難破船のへりに二人並んで座って愛を誓い合った。
初めて見た流れ星、シジンの甘い囁き、熱い口づけ、そして来世も必ず会いに行くと交わした約束・・・その全てが昨日のことのように思い出される。

そして、モヨンは島を離れる時、また別の小石をこっそり持ち帰っていた。
それが、今モヨンの手のひらに乗っている小石だ。

また必ず二人であの島へ行けるように・・・

それは、すなわちシジンが任務から無事に戻ってくるように・・・
そう願いを込めて、モヨンは小石をそっと握り締めた。

「さあて、せっかくのお休みなんだから、まずは何しようかな・・・」
モヨンは、零れそうな涙を手のひらでぱっぱと叩くようにぬぐうと、気持ちを切り替えるために、あえて声に出して立ち上がった。
こんな日は、むしろ病院にいた方が良かったとモヨンは思った・・・病院にいれば、やることは後から後から湧いてきて、余計なことを考えている暇などないから。

それでも、たまった洗濯物を片付け、掃除をし、ビデオを見たり本を読んだりして、一人ぽっちの長い休日をシジンを想いながら、なんとかやり過ごした。



 

「は?・・・ミン先生。今、何といいましたか?」
ヘソン病院の理事長ハン・ソックォンは、理事長のデスクから目の前に立っているミン・ユンギを見上げながら尋ねた。

「ですから、救急室のカン・モヨン先生をミョンイ大学附属病院の教授として迎えることにしたと言ったんですよ。」
ユンギは、呆けた表情で自分を見ている理事長に、噛んで含めるようにゆっくりと答えた。

ソックォンは、あまりに思いもかけない話しに、しばらく呆然とユンギの顔を見ていたが、不意に我に返ると、大きくかぶりを振って声を荒らげた。
「カン先生を連れて行くなんて、とんでもない!・・・何を考えているんだ君は!」

その言葉には、二つの意味が込められていた。
ひとつは、病院として、テレビにも出演するヘソン病院の看板医師であるモヨンを手放すことなどありえないということ。
そして、もうひとつは、ソックォン自身が、少し歪んだモヨンへの恋心をまだ諦められないでいるということだった。

「ま、まさか最初からそれが目的で、この病院へ来たのか?・・・」
ソックォンは、ユンギを睨みつけながら尋ねた。
しかし、ユンギは理事長の問いには答えず、話しを進めた。
「代わりの医師は、何人必要ですか?・・・こちらからは三人は派遣できますよ。」

「そんな勝手なこと・・・」
さらに抵抗しようとするソックォンの言葉を遮るように「変な噂を耳にしましたよ。」とユンギは言った。

「えっ?・・・噂?」
ソックォンは、探るように聞き返した。

「ええ。実力もない癖に、親がヘソングループの大株主だからと、カン先生を差し置いて教授になれた医師がいるとか・・・あえて株主の会社の高い薬を使うように指示しているとか・・・」

「そ、そんなことは!・・・」

「ああ、それからこんな話も聞きました・・・カン先生が、どうして特診科から救急室の担当に変えられたのか。」

「えっ?・・・いや、それは・・・」
ソックォンは、戦意を喪失して黙り込んでしまった。

そして、ユンギはさらに畳みかけるように言った。
「カン先生は、うちの大学を首席で卒業した優秀な医師ですよ。それがこんな不当な扱いを受けているのを黙って見ているわけにはいかないんです。もし、この話を承諾していただけないようなら、今後うちの大学からこの病院への医師の派遣を見送ることになりますが、それでもよろしいですか?」

ユンギが出て行ったドアの閉まる音が、理事長室に空しく響き渡った。
ソックォンは、一人になると目の前のファイルを、閉まったドアに向かって思いっきり投げつけた。




『救急室のカン先生。至急理事長室までお越しください。繰り返します。救急室の・・・』
 

病理科の部屋で、ピョ・ジスと一緒にいたモヨンは、天井に埋め込まれた院内放送用のスピーカーを見上げた。


「私を呼んでる。何かしら?・・・昨日の休みに何かあったかな・・・」
モヨンは、理事長室からの不意の呼び出しに首を傾げた。

「ちょっと、ひとりで大丈夫?・・・」
ピョ・ジスが不安げに聞いた。

「まさか、院内放送でわざわざ呼び出しておいて、変なことはしないでしょう・・・ちょっと行ってくるね。」
モヨンは、笑いながら手を振ると、ジスと別れて理事長室へ向かった。

シジンが非常任務に行っていて、ただでさえ気分が沈んでいるというのに、あの理事長の顔を見なければならないのかと思うとさらに気持ちが沈んでくる。
 

さらには、ミン・ユンギとのことも気になっていた。
ずっと胸につかえていたことは、一昨夜シジンに話すことができて、すっきりはしたが、シジンに話したことでまた新たな心配事も生まれた。
それは、ユンギはシジンが言った通り、純粋に自分を引き抜くためにこの病院に来たのだろうかということ。
しかし、それならなぜ自分を尾行するようなまねをしていたのかということ。

今朝のミーティングにはユンギの姿は無かった。
今日は休暇なのかモヨンにはわからなかったが、もし不意に遭遇した時にいったいどんな顔をすればいいのか・・・
シジンには、自分からは何も言わないようにと言われているが、以前のように挑発的な物言いをされたら、果たして冷静でいられるかモヨンには自信がなかった。

 

―なるべく会わないように気を付けないと・・・

しかし・・・

 

理事長室で理事長と対面したモヨンは、それからさらに数分後には、自らミン・ユンギのいる特診科の医局のドアを勢いよく叩いていた。

 

                          つづく

 

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さて、いかがでしたか?

今回は、いつもよりちょっと短めでしたが、ちょうどいい切れ目だったのでお許しください。

 

いよいよお話が大きく動き出す気配です。

次回もどうぞお楽しみに…虹

 

                        By キューブ
 

 

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