読者の皆さまには、いつも私のお話しを楽しみにしてくださいまして、ありがとうございます。

 

少し時間があいてしまいましたが、第6話です。

今回は、最初から最後までシジンとモヨンだけのお話ですラブラブ

 

どうか、お楽しみいただけますように音符

 

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 ~星降る島のサンクチュアリ~ ≪6≫

照明を落とした部屋で、モヨンの規則正しい寝息だけが聞こえていた。
シジンは、モヨンのベッドの脇に腰かけてその寝顔を見つめていた。

―今日は、ぐっすり眠っているから恐い夢は見ないですね・・・

顔にかかった髪をそっと指でよけてやると、モヨンはうーんと声を出しながら横を向いてしまった。
シジンは、モヨンの頬にそっと口づけると、ベッドを背もたれにして床に座った。
そして、目を閉じるとつい数時間前の出来事に思いを巡らせた。

シジンが問い詰めると、尾行してきた男はあっさりと自白した。
尾行は、ミン・ユンギに依頼されたこと。
自分の役目は、モヨンの素行調査だと告白した。
しかし、それが何のためなのかは、その男も知らないと言っていた。

そして、シジンが一番驚いたのは、ミン・ユンギがミョンイ大学の理事長の息子だったことだった。

シジンは、今夜のことはユンギに報告しないように言って男を解放した。
もし、ユンギに話せば、暗視カメラの写真と自分たちの証言で警察に突き出すと脅すことも忘れなかった。

明日の朝には帰るからと言って、テヨンに車を託してミョンジュを送らせた。
酔いつぶれているモヨンが心配なこともあったが、今はほんの少しでも長くモヨンのそばにいたかった。

ミン・ユンギは、なぜモヨンを見張らせていたのか、あまりにも突拍子のない出来事で、シジンには見当もつかなかった。

『本当の理由は他にあるんだ・・・ヘソン病院にはお前がいたからさ』
またあのセリフが浮かんだ・・・

あの翌日の電話で、モヨンは何かを隠している様子だった。
そして今回の尾行・・・

シジンは、振り返ってモヨンの顔を見ながら、ミン・ユンギとモヨンの間に自分の知らない何かが起こっていることを確信していた。
背筋が、すっと寒くなる感覚がした。

―モヨンさん?・・・僕が聞いたら本当のことを話してくれますか?

嘘をつくのはいつも自分だった。
それには、ちゃんと理由があって、その嘘の裏にはいつも人の命や国家の安全がかかっていた。
でも、そんなことは言い訳であって、それがどれ程些細な嘘であっても、嘘は嘘だ。

愛する人に嘘をつかれていることが分かっているのに、それを問いただすことができないことが、こんなにもどかしいことだとは思っていなかった。

それは、裏を返せば、これまでどれだけモヨンが自分に対して正直だったのかということだ。
そして、自分はいつもこんな風に、モヨンを傷つけて来たのだということを改めて思い知った気がした。



そのまま眠ってしまったらしい・・・シジンは、ふわりと体に何かがかけられた感覚で目を開けた。
目の前に、心配そうなモヨンの顔があった。

「そんなところで寝たら風邪ひくわ・・・」
「そしたら、モヨンさんに診てもらいに病院に行きます。」
「私は、外科医です!」
「救急医は、どんな病気でも診るんじゃなかったですか?」

二人は、見つめ合うとふっと笑った。

「私、酔いつぶれちゃったのね。ついててくれたの?」
「何も覚えてませんか?」
「お、覚えてるわよ!・・・居酒屋でユン中尉と言い争ったあたりまでは・・・」
「あれから、いろいろ大変だったんですよ・・・」

シジンは、モヨンに水を持ってきてやりながら、ことさら大袈裟にぼやいて見せた。

「ごめんなさい・・・」
あまりにも素直にモヨンが謝ったので、シジンは目を丸くしながらモヨンの隣に座った。
肩に手を回して引き寄せる・・・
モヨンは、素直にシジンに寄りかかると、その肩に頭を乗せた。

「何があったの?・・・」
急に黙り込んでしまったシジンに、モヨンが聞いた。

シジンは、迷っていた。
今、聞くべきか、それともこのまま様子を見るべきか・・・
ただ、いつ非常任務の命令が来るかわからない身の上だ、今この瞬間に電話がかかってきてもおかしくない状況で、うやむやにしておくのは嫌だった。
そして、何よりもモヨンに危険が及ぶようなことがあるかもしれない。
それが、シジンにとっては一番心配なことだった・・・

モヨンは、迷っていた。
今、話すべきか、それともこのまま様子を見るべきか・・・
ユンギが、あれきり自分のことを諦めたのならそれでいい、しかし彼はまだ半年近くヘソン病院にいるのだ・・・ただでさえ、あの再会の場面を見て心配しているシジンに、これ以上隠し事をしていたくはない。
しかし、それはきっとまた新たな心配の種を植え付けることになるだろう。
自分の気持ちには自信がある・・・それでも、逆の立場なら自分はきっと心配してしまうだろうとモヨンは感じていた。

それでも、今がチャンスだと二人はそれぞれの胸の中で決心していた。

「話したいことが・・・」「聞きたいことが・・・」
二人は同時に話し始めて、驚いて顔を見合わせた。

「じゃあ、モヨンさんから」「ううん、ユ少領から」
そんなやり取りを何度か繰り返した後、意を決したようにモヨンが話し始めた。

「実はあなたに黙っていたことがあるの・・・」
モヨンがおずおずと語り始めたことは、まさにシジンが聞きたいと思っていたことの答えだった。

「それで、その直後にあなたからメッセージが来たの・・・あんな書き方するから、デパートに行くのかと思ってすぐに電話したけど、自分自身ものすごく混乱していたし、何よりこんな話しはちゃんと会って話したいって思って、咄嗟に嘘をついちゃったの・・・」

ずっと、気になってて心配だったとうなだれたモヨンを、シジンは優しく抱き寄せた。
「話してくれてありがとう。僕が聞きたかったのは、まさにこのことですよ。」

「はあ・・・やっと胸のつかえが下りた気がするわ。話せて良かった。」
モヨンは、笑顔でシジンを見上げた。
ところが、シジンは口元に微かに笑みを浮かべただけで、モヨンの顔をじっと見ていた。

「まだ何か心配?・・・」
モヨンは、シジンの顔を覗き込むように言った。

「うーん、その話しだけ聞いていると、モヨンさんを引き抜きに来ただけのようにも聞こえるなと思って。」
「えっ?・・・引き抜き?」
モヨンは、シジンの問いかけに思わず声を上げた。

「そう。モヨンさんだって、一度はヘソン病院を辞めて開業しようとした時もあったでしょ?・・・母校の大学病院に教授として戻れるなんて、いい話しだとは思わなかったの?」
「確かに、それはそうだけど・・・」
モヨンは、曖昧な笑みを浮かべながら答えた。
あらためて言われてみれば確かにいい話しだし、あんな状況でなければ、モヨンも二つ返事でその申し出を受けたかもしれない。
しかし、自分をミョンイ大の教授として連れて行くと言った時の、ユンギの高圧的な態度と何とも言えない嫌悪感を思い出して、モヨンは思わずかぶりを振った。

「僕は、てっきり彼がモヨンさんを取り戻しに来たのかと思って、勝手に気を揉んでたんだけど・・・」
シジンは、照れた笑みを浮かべた。

「焼きもち焼きね・・・でも、あれきり二週間たつけど、先輩も何も言って来ないわ。もうあきらめたんじゃない?」
「そうかな・・・そうは思えないな・・・」

シジンは、モヨンの楽天的な考えに素直に頷くことはできなかった。
それならば、なぜあの時わざわざあんなことを言ったのか・・・

『本当の理由は他にあるんだ・・・ヘソン病院にはお前がいたからさ』

あの言葉は、言われた本人にしてみれば、その真意を確かめたくなる言葉だ。
そして、何よりも自分の存在を強烈に印象付けるための言葉だった。
事実、モヨンもシジンも、この二週間この言葉にずっと惑わされ続けて来た・・・

―そうだ。きっとあきらめてはいない・・・

 

だからこそ、モヨンを尾行させて、その行動を報告させていた。
それが、純粋にこれから引き抜こうとしている相手の素行調査のためなのか、その他に何か目的があるのかはわからないが・・・


「えっ?・・・どうして?」
モヨンは、シジンの否定に首を傾げながら尋ねた。

シジンは、モヨンの正面に回り込んで両肩に手を置くと、その目をじっと見つめた。
「いいですかモヨンさん。これから僕が話すことを良く聞いてください・・・」
 

モヨンは、目を丸くして頷いた。

「実は、昨夜モヨンさんが酔いつぶれた後で、ちょっとした事件があったんです・・・」
「えっ?・・・事件?」

シジンは、昨夜尾行されていたことをモヨンに話して聞かせた。

「私の素行調査?・・・」
「うん、恐らくミン・ユンギは、本気でモヨンさんを引き抜きたいんでしょうね。」

―本当にそれだけだろうか?・・・

シジンは、一抹の不安を消せずにいた。
そして、モヨンは、思いもよらなかった出来事に、再び混乱していた。
一度断ったきり、何も言って来ないユンギに腹を立てたり落ち込んだりしていた自分が恥ずかしかった。

「ああ、そんな怖い顔して!・・・冷静に対処してくださいよ。本当にいい話しなのか違うのか、モヨンさんが判断しなきゃいけないんですからね。」
シジンは、モヨンの頬を両手で包むように挟むと、その目を見つめながら言った。

「そ、そうよね。冷静にね。わかってるわ!」
モヨンは、少し引きつった顔で答えた。

「ああ、心配だなあ・・・相手が上司だって、頭に来れば殴っちゃう人ですからね・・・」

―えっ?・・・ええ?

それは、医療奉仕団としてウルクへ行くきっかけになった理事長との一件のことを言っているのは明らかだった。
理事長にホテルに連れ込まれそうになって断ったことは、確かに話した記憶はある・・・
でも、その時に理事長を殴ったことは、話していないはずだった。

「ど、どうしてそれを知ってるの?・・・」

シジンが、にやりと笑って答えた。
「僕も、病院にスパイを仕込んであるんで・・・」

―はあ?・・・スパイ?

そこで、モヨンはピンと来た。
ウルクから帰って来て以来、シジンやテヨンがあの時の医療チームと時々飲んでいるのをモヨンも知っていた。
大方、先輩のソン・サンヒョンあたりから聞いたのだろう・・・

「それ、私じゃないわ!・・・私は医者よ。人を殴ったりなんてしないわ!」
「今、どうして知ってるの?って聞いたじゃないですか!」
「ああ、もう!・・・どうしていつも・・・」

どうしていつもからかうの!・・・そう文句を言おうとしたモヨンの唇にシジンの唇押し当てられた。
不意打ちのキスに、一瞬驚いて目を見開いたモヨンは、それでも抵抗することなくシジンに身を委ねた。
シジンは、モヨンの頬に手を当て、これ以上ない程の深く甘いキスを贈り続けた・・・

その口づけは、心配でいてもたってもいられない気持ちや、ずっとそばにいてやれない切なさ・・・
そして、心から愛していると、決して離しはしないと、モヨンに伝えていた。

 

 

部屋の白いレースのカーテンの向こうが薄っすら明るくなって来ていた。
間もなく長い夜が明けて、新しい一日が始まる・・・

二人は、夜でもない朝でもない、このたゆたうような時のはざ間で、ただお互いへの熱い想いだけを抱きしめていた・・・

 

                           つづく

 

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さて、いかがでしたか?

 

もっと、2人のラブラブなエピを書きたいと思っているんですが、いかんせん物語をシリアス路線で書き始めてしまったので、なかなか思うように行きません。

 

本編では、2人のラブシーンはどれも本当に素敵でした。

その雰囲気が少しでも出ていれば良いのですが…。

 

…ということで、今回はこの辺で。

次回もどうぞお楽しみに流れ星

 

                          By キューブ

 

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