注)このお話しは、2012年に本館ブログ(CUBE-style)にアップしたものです。

こちら別館には、どうしても付け加えておきたい説明書きなどを除いて、お話しだけを移動してきました。

もし、執筆当時のまえがき、あとがきなどにも興味がありましたら、メッセージボードかサイドバーのリンクより、CUBE-styleへどうぞ・・・

 

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ドラマ「最高の愛」の最終話で、結婚式場の控室でトッコ・ジンとエジョンが2人を祝福する動画を観ているシーンのあとは、いきなり数年後にトッコ・ジンがグラビア撮影をしているシーンになりましたよね。

 

この隙間がどのくらいの期間なのか・・・このドラマには最終回によくありがちな「1年後…」とか「3年後…」なんて字幕は出なかったので、果たして結婚後何年経っているのかは定かではありませんが、2人の間に可愛い女の子が生まれていたので、まぁ最低でも1年と少しは経っているということでしょう・・・

 

その隙間をキューブの想像&妄想のエッセンスを加えたエピソードで綴った作品となっています。

 

 

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   ~最高の贈り物 -破局説の真相-~ ≪1≫

 

 

―ああ、ク・エジョン・・・

 

「なあ、ジェソク?・・・ク・エジョンが帰ってくるまであと何日だ?」
オレはプロダクションのオフィスのソファでぼんやりと外を眺めながらポツリと聞いた。
まだ午前中のオフィスには、朝の低い日差しが差し込んで、オレはまぶしくて目を細めた。


「はぁ?ジンさん、何言ってるんですか?エジョンさんが行ってまだ3日じゃないですか!」
マネージャーのキム・ジェソクがあきれたような声で答えた。
オレはその言い方が気に食わなくて、次には声を荒らげてさらに言った。
「だーから、3日たったってことは、オレのク・エジョンはあと何日で帰って来るんだって聞いてるんだ!」


ジェソクはオレの剣幕に一瞬にして背筋を伸ばすと、指を折り曲げて数える仕草をしながら答えた。
「えっと、予定では2週間でロケが終わるはずなので、えーっと、あと11日ですね・・・」


「あと11日だとー?まだ1週間以上あるじゃないか・・・」
オレはソファから体を浮かして憤ったが、次の瞬間にはドサリとまたソファに体を沈め深いため息をついた。
「ク・エジョーン!会いたいぞ・・・たった3日で充電切れだ・・・」


視界の端にジェソクが肩を震わして笑いをこらえているのが見える・・・オレは大げさに振り返ってジェソクをギラリと睨んでやった。
ところがジェソクは、オレの刺すような視線もおかまいなしに手に持っていたタブレット端末の画面を凝視したまま青ざめている・・・


「ん?・・・どうした?ジェソク!」
オレが声をかけると、ジェソクは持っていたタブレット端末をオレに向かって差し出した。
「ジンさん、見てください。これ・・・」


ジェソクからタブレット端末を受け取って画面を見ると、そこに踊る文章にオレは眉をひそめた。
<トッコ・ジン、ク・エジョン夫妻、結婚わずか1ヶ月で破局か?・・・>


躊躇なく記事のタイトルをタップすると、ご丁寧にも大きなキャリーケースを引きながら一人で搭乗口を入っていくエジョンの写真まで現れた。


<空港に居合わせた読者の投稿によって発覚したトッコ・ジン氏の妻ク・エジョンさんの海外渡航はその真意を巡って大きな波紋を呼んでいる。この日大きな旅行バッグをを手に空港に現れたク・エジョンさんは、ファンの問いかけにも終始無言で一人機上の人に・・・行先はイタリアと見られている。ク・エジョンさんが旅立つ2日ほど前にソウルのレストランで激しく口論する2人を目撃したという情報もあり、表向きは仕事ということになってはいても、これはトッコ・ジン氏と距離を置くための決意の旅立ちという説が有力となっている>

 

「やっぱり撮られてたのか・・・まったくあることないこと勝手に書きやがって、訴えてやるぞ!」
オレは、記事を最後まで読むとあきれながらつぶやいた。


「この分だと、きっと今朝のワイドショーの話題も独占してますね・・・テレビつけますか?」
ジェソクがテレビのリモコンを取り上げながら尋ねる・・・オレは首を振って「やめとけ!」と答えた。


「それにしても、この<レストランで口論>っていうのは本当ですか?・・・初めて聞きましたけど」
リモコンをテーブルの上に戻しながらジェソクが首をかしげて尋ねた。


「おいおいジェソク!オレとク・エジョンはまだ新婚ほやほやだぞ、レストランで口論なんてするわけないだろ。こんなのどうせでっち上げに決まって・・・」
オレは、自信満々に否定しようとした。
しかし、ある光景が浮かんで思わず「あっ!」と声を上げた。


「したんですね?・・・」
ジェソクが、深いため息とともにつぶやいた。

 

5日前といえばエジョンの出発を前に久しぶりにデートをしようと外出した日だ。
2人で映画を観て、その後行きつけのレストランで食事をした。


そう・・・あれは食事をしながら観たばかりのスパイ映画について批評し合っていた時だった。


『あの主人公を助けた女スパイかっこよかったな・・・いつか私もお芝居ができるならあんな役をやってみたい。アクションだってできるわよ。体力にも自信はあるもの』
うっとりとした顔でエジョンが言った言葉に、オレはムキになって反論した。
『あの役はダメだ。お前のイメージじゃない』
『なぜ?』
『だいたいお前があのヒロインを演じたとしてもオレは絶対に見に行かない!!』
『なぜ??』
『お前、オレを殺す気か?・・・』
『なぜーー???』
『あ、あんなラブシーンにオレのこの心臓が耐えられると思うか?・・・』
『えっ?・・・ラブシーン?』
『あったじゃないか・・・すごく濃厚で激しいのが・・・』
『な、何言ってるのよ。私がやりたいって言ったのはアクションシーンでラブシーンじゃないわよ!バカね・・・』
『あの映画のシナリオなら同じことだ!』

 

結局は、しばらくにらみ合った後、どちらからともなく吹き出した。
そして、エジョンが『ヤキモチ焼きね』とオレをからかうように言って話しは終わったはずだ。


―それがどうして<口論>ってことになるんだ?・・・まったく!


「ジンさん?・・・何考え込んじゃったんですか?そんなにヤバイ喧嘩でもしたんですか?」
「えっ?・・・ああ、あれを口論というならそうかもな・・・」
オレは、バカバカしくてなってあきれた声で答えた。


「何が原因で喧嘩したんですか?外にいるときはもっと慎重にならないと・・・」
「う、うるさい!!お前までとやかく言うな!」


一喝されて不服そうなジェソクは、それでもオレの持っているタブレット端末を覗き込みながら心配げに尋ねた。

「この記事、どうしますか?ジンさん。」


オレはジェソクの問いかけには答えず、タブレット端末をソファの端に放り投げると腕を組んで目を閉じた。

 

 

オレとク・エジョンが結婚式を挙げて1ヶ月。

 

ハネムーンにこそ行くことはできなかったが、オレ達はこの1ヶ月仕事を一切入れずに甘い2人きりの時を過ごした。
それでも、ひとたび外出をすればオレ達の一挙一動は常に監視されているようなもので、そのすべてが何かしらのネタになり記事になった。


記事を書く者、読む者の反応は様々だ・・・相変わらず訴えてやりたくなるような書き込みをする者は後を絶たなかったが、オレがク・エジョンとのことを公表した当時に比べれば随分とオレ達のことを応援してくれている書き込みが多くなっていることも確かだった。


そして、世間の反応に敏感な芸能界らしく、今では仕事のオファーも以前と変わりなく舞い込むようになり、いよいよ始動しようとした矢先にこの記事だ。


記事が出ること自体は珍しいことではない。
それが人気のバロメーターであることもよく理解している。
ただ、今までのように幸せそうにしているオレ達の写真をアップして、冷やかしややっかみのような記事を書くのとはわけが違う。
今回のようなスキャンダラスな記事には当然プロの芸能記者達も食いついてくるだろう・・・
何もやましいことなどないのに、追い回されて釈明するなどまっぴらごめんだ。


―ク・エジョン?・・・お前どうしてオレの反対を押し切ってまで海外ロケの仕事なんか・・・


『いくら怒っても私は行く。これが最初で最後のチャンスなの。きっとうまくいくわ。私を愛してるなら今回だけは何も言わずにこの仕事をやらせて・・・』


オレの目をまっすぐに見据えたまま、エジョンは一歩も引かなかった。
結局は、惚れた弱みで説得され、言いくるめられ、エジョンの希望を許してしまった。
実際、反対する理由などなかった・・・駄々をこねたのはただ2週間も離れるのをオレが嫌がっただけのこと。
それでも、今思えばなぜエジョンはこのタイミングでこの仕事を選んだのか、明確な理由を聞いたわけではなかった。


―まっ、まさか!本当に記事の通りにオレと距離を置くためだったのか?・・・


突然ドキリと心臓が高鳴り、腕の心拍計の数字がみるみる大きくなるのを見てあわてて深呼吸をする。


―ふー!マインド・コントロール、マインド・コントロール・・・


危うく安全数値を超える寸前で、何とか気持ちを落ち着かせた。


「ジンさん。何を青くなったり赤くなったりしてるんですか?大丈夫ですか?・・・」
ジェソクが、心配げにオレの顔を覗き込んできた・・・オレは「なんでもない!」と怒鳴りつけると再びソファに身を沈めた。


―もっといろいろ聞いて食い下がればよかったか・・・


オレは、いつの間にか破局説の記事のことよりも、そもそもそういった記事が出るきっかけになった海外まで行かなければならない仕事をなぜエジョンが受けたのかということの方が気になり始めていた。
咄嗟にエジョンに電話をかけようとポケットの中の携帯電話を掴んだ。
しかし、今エジョンのいるイタリアは真夜中だということを思い出して天井を仰いだ。


―今すぐに本人を問いただすことはできない・・・じゃあ誰なら知ってる?・・・


その時、床を叩くヒールの音が近づいてきて、ムン社長が顔を出した。
「トッコ?記事を読んだ?・・・」


―そうか、ムン社長なら・・・!


「ああ読んだ。またひと騒ぎだな・・・」
オレは、内心の焦りを悟られないように、ことさら他人事のように答えた。


「まあ仕方ないことだわ・・・でも、今日の予定は午後からだったけど、あの記事のことで記者たちが押しかけて来そうだから、その前に会社を出ましょ。すぐに支度してちょうだい」
ムン社長は、そう行ってすぐに踵を返して行ってしまった。


―ん?・・・何か変だぞ・・・


オレは今のムン社長の返答に何か違和感を覚えた。
しかし、それと同時に今日は、新作映画の初顔合わせの日だったということも思い出していた。
結婚後の初仕事として気合も十分だったはずなのに、エジョンのことが気がかりでどうにもテンションは下がり気味だった。

 

「ジンさん。早く立ってください。行きますよ。」

 

ジェソクが、オレを急かす。

 

「おい、ジェソク!オレに指図するな。オレを誰だと思ってるんだ?・・・だいたいお前最近随分と偉そうな口をきくようになったじゃないか!・・・ああ、そうか何かあればいつもク・エジョンがかばってくれたもんなぁ~でもな、幸か不幸か今エジョンはこの国にすらいないんだよ!」

オレは、わははと高笑いをしながら、ソファに深く座ったまま大げさに足を組んだ。

それが苛立ちまぎれの八つ当たりだということなど十分承知だった。

きっとジェソクもわかっていたのだろう・・・オレの嫌味にむっとすることもなく、どこか切なげな視線を向けながらもう一度オレを促した。

「は、はい・・・すみません。ジンさん、記者が集まってくると大変ですので、どうぞお急ぎください・・・」

 

「ふん!最初からそう言えばいいんだ!」

 

オレは、ソファからゆっくり立ち上がると、ドアを開けて待っているジェソクの頭を小突きながらオフィスを後にした。

 

 

                             つづく