~F4 After 3year story~ -ク・ジュンピョ編 <Final>-

 

 

 

パーティーが終わり、招待客を全員見送った後、それまでずっと父に付き添っていたジャンディが、いつの間にかいなくなっていることに気付いた。
控室やホテルのカフェを探しながら、すでに片づけの始まったパーティー会場も念のためにと覗いてみると、ジフが中庭に続く扉に向かって歩いて行くのを見つけた。
不思議に思い俺も中に入って行くと、窓ガラス越しに噴水の縁に座っている人影が見えた。


―誰だ?・・・


「ジャンディ!もう片づけが始まったよ。帰ろう!」
ジフがジャンディに声をかけるのが聞こえた。
すると、振り返ったジャンディが大きな声で答えた。
「あっ!ジフ先輩。丁度良かった!ねえ、足を濡らしちゃったんだ。その辺に何か拭くものない?靴が履けないの・・・」


ジャンディの言葉にあたりを見回しながら振り向いたジフが、俺に気が付いて立ち止る。
俺は、すぐ横のテーブルの上からナプキンを一枚取り上げると、何も言わずジフとすれ違うように中庭に出て行こうとした。
すると、背中からジフの声が聞こえた。
「もう、本当に俺の役目も終わりだ・・・今度こそ、ちゃんと捕まえろよ」


―えっ?・・・


俺は振り返って、どう意味だ?と聞こうとしたが、ジフはすでに会場からを出ていってしまっていた。

 

中庭に出ると、ジャンディはこちらに背中を向けて噴水の淵に座っていた。
見ると、噴水の前にハイヒールが脱ぎ捨てられている・・・
俺の足音に気付いたジャンディが振り向いて、不思議そうに俺を見上げた。
「あれ?ク・ジュンピョ?・・・ジフ先輩は?・・・」

 

―まったく、こいつは・・・


俺は呆れながら答えた。
「普通こういうことは俺の役目だろ?・・・探したぞ。こんなところで何してんだ?」


ジャンディは、苦笑いを浮かべて俺を見上げた。
「慣れないことしたら足がパンパンになっちゃって・・・だから冷やしてたの。気持ちいいよ」


俺は、小さくため息をつきながら跪くと、ジャンディの足首を掴んで俺の前に引き寄せた。


「い、いいよ!ク・ジュンピョ!自分で出来るから・・・」「いいからじっとしてろ!」
ジャンディが、俺からナプキンを取り上げようとするのをかわして、俺はジャンディの足を拭き始めた。
見ると、両足の小指の脇に小さなマメができて赤く腫れている・・・


「これじゃ痛いだろ?・・・まったく無茶しやがって・・・」
「まだ怒ってるの?・・・」
「別に・・・ただ、もう明日から病院へは行けないぞ。もしどうしても行くっていうならSP付きだってこと覚えておけ」
俺は、わざと不機嫌そうに淡々と答えた。


事実、今日のパーティーの様子はすでにテレビのニュースでも流れてしまっている。

ジャンディの顔も名前も、俺のフィアンセとして大きく紹介されていたとチョン室長から報告を受けていた。
恐らく、今頃はこのホテルの入口にも俺とジャンディを取材しようと、たくさんのマスコミが集まってきていることだろう・・・

ところが、何か反論して来ると思ったジャンディが何も答えない・・・不思議に思って顔を上げると、ジャンディは空を見上げていた。


「お、お前!人の話し聞いてんのかよ!」
俺が怒ると、ジャンディは俺の言ったことを無視して、顔を上に向けたままつぶやくように言った。
「ねえ、あんなに月は綺麗なのに、ここでは星は全然見えないね・・・」

ジャンディは、俺の返事を期待してる風でもなく、急に-あっ!そうか-と声をあげると照れ笑いを浮かべながら言った。

「周りが明るいからだね・・・ああ、また天体望遠鏡で星を見たいな・・・」


「お、お前!・・・何呑気なこと言ってんだ?こっちは明日からのことを心配して・・・」

 

しかし、俺の言葉は不意に唇に当てられたジャンディの指に遮られた。

 

―えっ?・・・


驚いて目を見開いた俺に、少し潤んだ瞳で微笑みながらジャンディは言った。
「ク・ジュンピョ?・・・私の夢を叶えてくれて、今までずっと待っててくれて、ありがとう・・・」

 

「えっ?・・・」


「ああ、やっと言えた・・・今日はね、絶対にこれを言おうって決めてたんだ」

ジャンディは、ほっとしたように胸に両手を当てると、俺の目を真っ直ぐに見つめた。


「お、お前・・・じゃあ?・・・」

俺は、確認するようにうつむき加減のジャンディの顔を覗きこんだ。
すると、ジャンディは俺を見つめ返しながら、小さく-うん-と頷いた。
「新婚旅行は星がたくさん見える所がいいな」・・・と付け加えて。


「ほ、ホントか?・・・土壇場になってまた”待って”はなしだぞ!」
「もうそんなこと言わないよ!・・・」
ジャンディは、頬を膨らませながら答えた。

 

その瞬間、まるでこの時を待っていたかのように、会場と中庭の照明が消えた。
パーティーの片づけが終わったからなのか、それとも気を利かせた誰かの仕業なのか・・・

すると、水面に映る月明かりがゆらゆらとあたりを照らす中で、ゆっくりと降りて来たジャンディの唇が俺の唇に重なった。
俺は、驚きで一瞬目を見開き、それでもすぐに目を閉じながらジャンディの背中を抱き寄せた。


噴水の水音だけが聞こえる中で、静かに優しい時間が刻まれる・・・
そして、-愛してる-と囁いた俺に、-私も愛してる-と答えが返って来た。

 

「なんだかこんな華やかなパーティーは久しぶりで昔のことを思い出しちゃった・・・神話学園の頃に何度かあったもんね・・・」

ジャンディは、俺の腕の中で懐かしそうにつぶやいた。

 

「それにしても、今日のダンスでは一度も足を踏まれなかったよな・・・ジュニヌナも仕込むのに相当大変だっただろうよ・・・」

俺は、からかうように言った。

 

「なによ!私の努力は褒めてくれないの?」

 

「それでこのザマかよ?」

俺は、笑いながら、ジャンディの裸足の足首を持ち上げて見せた。

 

「あっ!な、なにするのよ!・・・噴水に落ちちゃうじゃない!!」

 

バランスを崩したジャンディが、慌てて俺の首にしがみつく・・・俺は、その瞬間、素早く膝の後ろに手を差し込むと、勢いをつけてジャンディを抱き上げた。

「やだ!ク・ジュンピョ!私自分で歩けるよ。下ろして!!」
「うるせえ!・・・もう絶対に離さないからな!」
俺は、暴れるジャンディをしっかりと抱えて歩き出した。

 

明りの消えた会場を通ってロビーに出ると、当然のようにF3が待っていた。

 

「おお!・・・とうとうこの時が来たか?」
ジャンディを抱いたままの俺を見て、ウビンが感慨深げに言う。


「どうぞ、そのまま上の部屋へ・・・」
イジョンが、おどけたように天井を指差した。


そして、ジフは静かに微笑みながらジャンディに向かって-おめでとう-と言った。

 

 

「よーし!すぐに結婚式だ!ジャンディ、今さらじたばた言うなよ?もう明日からでも一緒に暮らそう!」
「もう!どうしていきなりそうなるの?・・・あんた自分の立場がわかってんの?このバカ!」

 

 

 

あの砂浜で約束を交わした日から3年・・・
俺は、とうとうこの世でたったひとつだけ、心の底から欲しかったものを手に入れた。

 

こんな俺と一緒になって、ジャンディが本当に幸せなのかは分からない・・・
それでも、ジャンディが隣にいれば、俺は必ず幸せになれる。

 

 

だから・・・

 

 

―お前は俺の全てだから、決して繋いだこの手は離さない。

 

 

何があっても俺が守ってみせる。
ジャンディの笑顔。
ジャンディの心。
そして、俺たちの愛だけは絶対に・・・

 

 

                              END

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韓国版花男のラスト近くのエピにはいろいろ疑問がありましたが、その中でも最終回を迎えても解決しなかったものの中に、チョン室長はなぜジャンディにジュンピョ父の世話をさせたのかということがありました。

 

ジャンディはそれがジュンピョ父だということを最後まで知らなかったわけですが、それをさせたのがチョン室長ということもあって、きっとこれは何かの切り札になるに違いないと思っていたのに、最後までまったく触れられずに終わってしまって超不満だったんですよね・・・(`ε´)ぶーぶー

 

それで、今回のお話には絶対にこのエピを切り札に使ってやると思いながら書いていました・・・にひひ

 

なんだか、結構満足しています(≧m≦)ぷっ!