韓国花男を観ていて、最終話のラストと合わせて、消化不良なエピがいくつかあります。

 

そのひとつが、あの鬼か夜叉のようだったク・ジュンピョ母の最終回での笑顔・・・

植物状態だったお父様もお元気になられて、息子もアメリカで立派な男になって帰って来て満足なのはわかるけど、あの優しげな笑顔への変貌ぶりに思わずビックリ・・・

 

でもって、ジュンピョがヘリコプターまで使ってド派手にジャンディにプロポーズをしに来たということは一応、お母様のお許しも得てのことなのかな~とか

(韓国的には親の許しがないとやっぱムリでしょ?)

 

さあ、いったいあのお母様に何が起こったのか・・・

ああ~これぞまさに「隙間」ですよね~(≧m≦)ぷっ!

 

・・・ということで、このジュンピョ編は、3年の時を経てのジュンピョとジャンディの恋の行方はもちろんのこと、そこにちょこっとだけ最終回以降のジュンピョ父母のお話も加味したものとなっています。

 

キューブの暴走は続きます・・・

 

 

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  ~F4 After 3year story~ -ク・ジュンピョ編 <1>- 

 

 

―何であいつがここに?!

 

俺は、両目を擦ってからもう一度舞台の上を凝視した。


―どう見てもあれはジャンディだ!!


5年に一度開かれる、神話グループの創立記念パーティー。
神話ホテルで一番大きなホールには、グループの役員とその家族、そして各方面の招待客を合わせると毎回2000人近い人が集まり盛大に行われる。
さらに今年のパーティーには、ずっと病気療養中だった父が、倒れて以来初めて出席することになっていて、報道関係者らしい客も多数見られ、マスコミでも大きく取り上げられていた。


最初に挨拶を済ませた俺は、舞台の下に降りて次のジュニヌナの挨拶を聞いていた。
打ち合わせで決まっていた段取りでは、ジュニヌナが挨拶の途中で父を呼び、父の乗った車椅子を元会長である母が押して登場することになっていた。


しかし・・・


父の車椅子を押して現れたのは、決してここにはいるはずのないジャンディだった。

その時、我が目を疑い、呆然とする中で、俺の脳裏にはある場面が浮かんでいた。

 

 

 

あれは、1か月前のこと・・・
父の治療のために父と共にマカオに移り住んでいた母が、今回の創立記念パーティーの打ち合わせを兼ねて久しぶりに帰国した時のことだった。


「なに?・・・今年のパーティーにジャンディを出せって?・・・それはお断りだ。」
俺は、俺を睨みつけている母の視線から逃れるように背を向けると、本社ビル最上階の窓から外を見降ろした。


「ジュンピョ。今回ばかりは言うことを聞いてもらうわよ。お父様が不自由なお身体をおしてマカオからお戻りになるの。お父様と親交のあった大臣や各国の大使もご招待する特別なパーティーなのよ」
母が眉根に皺を寄せながら言うのが窓に映るのが見えた。


「ふん、そんなの関係ねえだろ・・・だいたいそういう所に出さなくて済むように名前も素性も伏せてるんだ。あいつだって嫌がるに決まってる」
「どんな素性の娘だって、神話に嫁いでくる以上避けられないことでしょ?」
「あいつは神話に嫁に来るんじゃない!・・・この俺様と結婚するんだ。勘違いするな!」
「ジュンピョ!・・・何をいつまでも子供みたいなこと言ってるの?!あなた達の結婚にはもう何も言う気はないわ。でも今回のパーティーだけは、お父様があの子が出ることをお望みなのよ」


一度は死んだことになっていた父が実は植物状態で生きていたということが世間に知れた時は、それはそれは大きな騒ぎになった。
しかし、本当なら醜聞以外のなにものでもないはずのこの出来事も、いつの間にか美談にすり替わり神話一族の家族愛の物語へと姿を変え世間の涙を誘っていた。
それが、当時はまだ会長だった母による情報操作であることはわかっていても、グループのために俺は口をつぐむしかなかった。
そして、この件を深追いされることを嫌った母は、世間の目を逸らすために唐突に会長から退き、姉のジュニとまだアメリカにいた俺にグループの全権を譲ると宣言した。

 

「言っておくが今神話の事実上のトップはこの俺だ。全ての権限が俺にある。それはあんたがそうさせたんだ。今さら忘れたとは言わせない!」
俺は、母の傍らで何も言わずに話しを聞いているジュニヌナをチラリと見てから、母に向かって言い放った。


「話しにならないわ・・・ジュニ、あなたは会長なんだから、このわからずやの専務をなんとかしてちょうだい!私は、お父様を迎えに一旦マカオに戻ります!」


ジュニヌナは、俺と母の言い争いに嫌気のさした表情を浮かべながら-わかりました、お母様-と答えた。
俺は、母が出て行ったドアが大きな音を立てて閉まるのを見ると、すぐにジュニヌナに噛みついた。
「なんだよヌナ!ババァの肩を持つのか?・・・俺は絶対に嫌だからな!」


「ジュンピョ!ジャンディのことは、あなただってもういい加減隠しておくのも限界だって思ってるんでしょ?・・・それならどこかから不本意に漏れるより、こちらから言ってしまった方がいいと思わない?」


「だからって!・・・」「とにかく!!」
ジュニヌナは、俺の文句を遮ると-今は、何を話しても無駄ね・・・-と言って部屋を出て行った。


あの砂浜でのプロポーズから3年・・・俺自身、何かきっかけを探していたことは確かだった。
どんなに固い約束を交わしていたとしても、いつも隣にいて欲しい、一緒に暮らしたいという想いが満たされることはない。
しかし、すべてを明るみに出すということはジャンディの自由を奪うことに他ならない・・・
「くそっ!!言われなくたってわかってるさ。俺だっていい加減・・・」
俺は、目の前のソファを蹴飛ばしながら悪態をついた。


しかし、それきりパーティーの話しが蒸し返されることはなかった。
そして、忙しさに紛れていつの間にかそのことすら忘れて仕事に追われている内に今日を迎えてしまっていた。

 

 


もう一度舞台の上に目を向けると、緊張しているのか堅い表情のジャンディは、それでもジュニヌナや父にぎこちない笑顔を見せていた。
そして、父とジャンディの後ろでは、母が満足げな笑みを浮かべて俺を見ていた。

 

―どういうことだ?・・・俺が知らない内にいったい何があったんだ?!

 

ふと気が付くと、いつの間にか俺の横にはウビン、イジョン、ジフが集まっていた。

 

「いやぁ、ジャンディ、随分と化けたなぁ。いつもの白衣姿からは想像もつかないよ。どこから見ても上流階級のお嬢様だ。さすがジュニヌナ!やる時は徹底してやるな・・・」


―えっ?ウビン、何言ってるんだ?・・・ジュニヌナだって?

 

「カウルヤンが言ってたけど、大分仕込まれたみたいだけあって、身のこなしが、なんていうか、こう洗練されたって感じだよな・・・」


―なに?・・・イジョン、お前も知ってたのか?


俺は、次に恐る恐るジフに顔を向けた。
するとジフは、呆然としている俺に向かってにっこり笑いながら言った。
「なあ、ジュンピョ?ジャンディを怒るなよ。ジャンディはお前のためを思ってやったことなんだから」


―俺のため?・・・俺のためってなんだ??


「・・・ってことは、あいつがここに来ることを知らなかったのは俺だけってことか?」
俺は、嫌悪感をあらわにしてウビン、イジョン、ジフの顔を見た。


「らしいな・・・」
ウビンがにやけけながら答える・・・


「冗談じゃねえ・・・」
俺は低く静かにつぶやくと、拳を強く握りしめた。


そんな時、不意に後ろ方からジャンディを話題にした会話が聞こえて来た。
「あの車椅子を押している方はどなた?」
「あら、ただの介添えじゃないの?」
「でも、ドレスも宝石もどう見ても一流品ですわ・・・」
「ということは、もしかしたらあの方が噂のフィアンセ?・・・」


今のところ、まだジュニヌナもジャンディ自身を紹介してはいない。
しかし、俺はいたたまれない気持ちで再び舞台に顔を向けた。
そして、丁度挨拶を始めた父にスポットライトが当り、会場の照明が落ちた瞬間に舞台に近づくと、ジュニヌナと舞台を降りて来たジャンディの腕を掴んで会場の外へ連れ出した。


今は、人気のなくなった会場前のロビーに出ると、ジャンディは、掴まれた腕をほどこうともがきながら訴えた。
「ク・ジュンピョ!痛いよ。離して!・・・ちゃんと説明するから話しを聞いて」
しかし、俺はジャンディの話しも聞かず、手首を掴んだまま振り向いた。
「なぜお前がここにいる?・・・ババァに脅されたのか?ジュニヌナに何かいわれたか?それとも無理やり連れてこられたのか?」
「いきなり何よ!・・・誰にも強制なんてされてないわ。私は私の意思でここにいるのよ!」


「それならなおさらだ。お前、自分がここにいる意味がわかってるのか?・・・」
「わかってるわよ・・・」
ジャンディは、覆いかぶさるように詰問する俺をまっすぐに見上げながら答えた。
俺は、その強い視線に一瞬怯みそうになった・・・けんか腰の会話はいつものこと。それでもジャンディのこんな視線の前に立つと、不思議とこっちが悪いことをしているような気になってくる。
もしかしたら、俺は何か大きな勘違いをしてるのではないか・・・何か大事なことを見落としてるのではないか・・・と。
それでも、噴き出した思いはもう自分でも止められない・・・


「じゃあ、ちゃんと答えてみろよ。もう今まで通り自由に医者なんか続けてられないぞ!それでもここに来た理由は何だよ?」
するとジャンディは、悔しげに瞳に涙をにじませながら聞き返した。
「わからないの?・・・」


―えっ?・・・


俺は、ジャンディの視線に戸惑いながら、すぐに返す言葉が見つからずに言い淀んだ。
その瞬間、ジャンディは、―わからなければいいわよ。このバカ!-と言いながら、無理やり手首を振りほどいて背中を向けた。


「お、おい!待てよ!まだ話しは終わってないぞ!」
俺は、ジャンディに向かって叫んだ。
しかし、振り返ることなくジャンディは会場へ続くドアの向こうに入って行ってしまった。


―なんなんだよ!


俺はすぐに会場に戻る気にもなれず、ひとりロビーの柱に寄りかかった。
すると、ジャンディと入れ替わるようにジフ、イジョン、ウビンが出て来て俺を囲むように立った。
会場ではまだ来賓の挨拶が続いているらしい・・・


「ジュンピョ。戻らなくていいのか?・・・」
ウビンが、いつものように心配げな顔をして聞いた。


「ふん!・・・みんなで俺を仲間外れにしやがって」
俺は、不貞腐れながら悪態をついた。


「なあジュンピョ。ジャンディは今お前のフィアンセとしてここにいるってこと、わかってるのか?」
ジフがつぶやくように言った。


「それがどうした?・・・もう3年も前からあいつは俺のフィアンセだ!」
俺は、何を今さらと思いながら答えた。
すると、ジフは急に真顔になると、奴にしては珍しく凄むように聞き返した。
「それを誰が知ってた?少なくともここにいる人間でそれを知ってるのは俺たちとお前の家族だけだ!」


「えっ?・・・」
驚く俺に、またすぐにいつもの穏やかな表情に戻ったジフは、まるで諭すように言った。
「なあ・・・もういいってことじゃないのか?」
「いいって?・・・」
「もう夢は叶ったってことだよ・・・」


「えっ?・・・」


その時、会場の中から弦楽四重奏団の奏でるワルツが聞こえて来た。


「祝辞も終わったみたいだな・・・おいジュンピョ。ジャンディと一番に踊らなくていいのか?」
イジョンが、ニヤリと笑いながら言う。
しかし、ジフの言葉を消化しきれていない俺は、-踊ってなんかやるもんか-と答えながら顔をそむけた。


すると・・・


「おい、ジュンピョが降りたぞ。じゃあ誰が一番に行く?・・・」


―えっ?・・・


イジョンの言葉に驚いて、顔を向けるといつの間にか3人は俺を無視して円陣を組んでいた。


「ジュンピョが踊らないなら、やっぱりジャンディと一番に踊るのは俺たちF4の中の誰かじゃないとな・・・」
ウビンが答えるのを聞きながら、ジフも笑顔で頷いている。


―な、なんだとー!!


「じゃあ、ジャンケンで決めるか?」
イジョンがウビンとジフに向かって楽しげに言うのを聞きながら、俺は無意識に会場に向かって歩き始めていた。


「おい、ジュンピョ!どうした?」
ウビンの声が追いかけてくる。

 

―ジャンディと最初に踊るのはこの俺様に決まってるだろうが!

 

「お前らになんか譲れるか!!」
俺は、振り向きもせずに言い放つと、勢いよく会場のドアを開け放った。

 

 

                             つづく