注)このお話しは、2011年に本館ブログ(CUBE-style)にアップしたものです。

こちら別館には、どうしても付け加えておきたい説明書きなどを除いて、お話しだけを移動してきました。

もし、執筆当時のまえがき、あとがきなどにも興味がありましたら、メッセージボードかサイドバーのリンクより、CUBE-styleへどうぞ・・・

 

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このお話しは、F4の4人をそれぞれ主人公とした4部作となっています。

 

お話としては、ドラマの最終話からさらに3年後を現在として、それぞれの3年間を一人称で語ります。

タイトルをご覧いただければお分かりと思いますが、このお話しは「ソン・ウビン編」・・・原作ではF4の長男的存在だった美作あきらのお話しということになります。

 

ただし、キューブは花男に関しては、原作を読んでいませんこれ重要です!

 

ですから、原作をこよなく愛されていらっしゃる方には、あり得ない展開となっているかもしれませんので、その点はどうかご了解いただいて、もしご心配なようでしたらここから先へは進まれないようお願いします。

 

 

そして、このF4のお話しは、それぞれが一話完結ながら、どこかで次のお話しへリンクしているように書いています。

特に、この「ソン・ウビン編」で、ウビンが語るF4とジャンディやカウルの3年間が、この4部作のベースとなりますので、まずはこちらをしっかりとお読みいただいてから「イジョン編」「ジュンピョ編」「ジフ編」と順番にお読みいただければと思います。

 

 

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  ~F4 After 3year story~ -ソン・ウビン編-
 

「ソン・ウビンさん、中へどうぞ・・・」
診察室の小窓を開けて、ナースが俺を呼んだ。
俺は、何も言わずに立ち上がると、俺と入れ違いに廊下に出て行くナースの熱い視線を無視して診察室に入って行った。
中に入ると、澄まし顔の女医が俺を待っていた。


「よお、ジャンディ!元気か?・・・」
俺は、ついいつもの調子で声をかけた。
ところが、その澄まし顔の女医・クムジャンディは慌てて俺の口を手で塞ぐとあたりを伺いながら小声で文句を言った。
「ウ、ウビン先輩!・・・ここではその呼び方はやめてって言ったじゃない!」


「あっ、ああそうか、悪い悪い・・・」
俺は、笑いながら謝ると、一度咳払いをしてから大真面目に言いなおした。
「クム先生、こんにちは。今日もよろしくお願いします・・・」


「はい、ソン・ウビンさん、傷の様子を見せてください・・・」
ジャンディは、取ってつけたように事務的に言うと俺の右腕の包帯を取りながら顔を寄せて-先輩、ごめんね-と囁いた。


ここはク・ジュンピョの神話グループが経営する神話記念病院。
俺は2週間ほど前にちょっとしたいざこざに巻き込まれて、その時に負った腕の傷の治療と消毒に通っていた。


「はい。傷の治りもいいですね。あともう一回消毒にいらしてください。それで様子をみましょう」
ジャンディは、傷にガーゼをあてて絆創膏を貼りながら、いかにも医者然とした調子で言った。
ところが傍らに控えていたナースが、使い終わった器具を片づけるために奥に行くのを見ると、いつもの表情に戻って言った。
「ウビン先輩、この後何か予定ある?・・・」


「いや、別に・・・」
俺は、一瞬考えてから答えた。


「じゃあ、私あと2人診たら終わりだから、理事長室に行って待ってて。」


その時、奥からナースが戻ってきてジャンディはまた医者然とした顔に戻ると-では、また来週・・・-と言って俺に外に出るよう促した。
俺は、ナースから見えないようにジャンディにウィンクをすると、素知らぬ顔で診察室を後にした。

 

 

「あ、あなたは、え、え、え、F4の・・・」と言ったまま、以前とは違う秘書が俺を見上げて絶句している。

 

「新顔ですね?・・・ソン・ウビンと申しますが、中でクム先生を待たせていただいてもよろしいですか?」
俺は、内心吹き出しそうなのを堪えながら、にっこりと微笑んで尋ねた。
すると、秘書は-も、もちろんです!-と言いながら、手前の秘書用の控室を通って、奥の理事長室のドアを開けてくれた。


―まだまだF4健在だな・・・


俺は意味もなく満足しながら広い理事長室を見渡した。
何度か訪れたことのあるこの部屋には南側の大きな窓を背に理事長のデスクがある。
その上には、「理事長:ク・ジュンピョ」と金色の文字で書かれたプレートが乗っていた。


「ふっ・・・好きな女のためとはいえ普通ここまでするかよ・・・」
俺は、理事長のプレートを指で弾きながらつぶやいた。

 

ク・ジュンピョが4年のアメリカ修行から戻ったのが今から3年前。
あの砂浜で、ジュンピョがジャンディの前に跪いてプロポーズした時のことがつい昨日のことのように思い出される。


―あの時のジュンピョの顔といったら・・・


俺はジャンディを待つ間、ひとり思い出し笑いをしながら、理事長の席に腰掛けて昔に思いを馳せた・・・


<そのプロポーズに異議あり!>
ジュンピョのプロポーズを茶化した俺たち・・・


あの時は、ソ・イジョンもスウェーデンから戻ったばかりということもあって4年ぶりにF4が全員揃った時でもあった。
しばし再会を喜んだあと、思いがけずユン・ジフが言った。
「ねえ、ジュンピョ。俺たちの前でもう一度ジャンディにプロポーズしなよ。ジャンディもちゃんと真面目に答えるんだよ。俺たち3人が証人だ。」


そうだそうだと賛成した俺とイジョンにも照れた笑みを見せながら、ジュンピョはジフの言葉に従ってジャンディの前に跪いた。
そして、思わぬ展開に面食らった表情のジャンディにペアリングを見せながらもう一度プロポーズの言葉を告げた。


「クム・ジャンディ、この俺様と結婚してくれ」


―この後が傑作だったよな・・・


ジャンディは、ジュンピョと指輪と俺達を順番に何度も見た後、唇を真一文字に結んで意を決したようにジュンピョの前に左手を差し出した。
それを”OK”と受け取ったジュンピョは、喜び勇んで指輪をはめようとした・・・ところが、まさに左手の薬指に指輪を通そうとした瞬間、-待って!-とジャンディがそれを止めた。
そして、戸惑い顔のジュンピョに向かってジャンディが言った・・・
「条件があるの・・・」


「条件??」
俺たちは顔を見合わせ、ジュンピョは動きを止めたままジャンディを見上げた。


「そう、条件・・・私、このまま勉強を続けてちゃんと医者になりたい。でも今ジュンピョと結婚したらそれはできないでしょ?だから私が夢を叶えるまで待ってて・・・それを許してくれるなら今この指輪を受け取る」
ジャンディは、真剣なまなざしでジュンピョを見つめ返した。


初めて出会った時から恐いもの知らずなのはわかっていた。
勇敢で健気で、誰もが恐れていた”あの”ク・ジュンピョに飛び蹴りをかました唯一の女だということも・・・
たくさん辛い想いをして、たくさん泣いて、それでもあきらめられなくて、やっと長い恋が成就する時だというのに、ジャンディは、目の前の恋を賭けて自分の夢を叶えようとしていた。


俺たちは、ジュンピョがどう答えるのか固唾を飲んで見守っていた。
怒りだすか、呆れるか、はたまた脅すか・・・
しかし、ジャンディに惚れぬいて、何を差し置いても約束の欲しいジュンピョの負けは目に見えていた。


ジュンピョは何も答えず、半ば強引にジャンディの指に指輪をはめた。
そして、そのままその手を引いてジャンディをしっかり抱きしめると、俺たちにもはっきり聞こえる声でその耳元に囁いた。
「お前の好きにしろ。俺はお前が手に入りさえすればいい・・・」


繰り返す波の音を何度数えただろう・・・長い沈黙のあと、ジャンディが-ありがとう-と言ったのをきっかけに俺たちは一斉に歓声を上げ、2人の婚約を祝った。


それから後のジュンピョの行動には度肝を抜かれた。
まず、ジャンディの名前と素性を完全に伏せた状態で、婚約したことだけを発表した。
そして、突然この神話記念病院の理事長に就任した。
それもこれも、全てがジャンディを守るためだということを、俺たちF4だけは知っていても、世間の騒ぎは随分長いこと治まらなかった。


さっさと婚約を発表したのは、あちらこちらから湧いてくる縁談話を阻止するため・・・それはすなわちジュンピョ自身のため。
そして、無関心なくせに神話病院の理事長に就任したのは、いずれジャンディが大学を卒業したあとのことを考えてのこと。
ジャンディがフィアンセだということを公表してしまえば、まわりにいくらでもSPを付けて守るこもできるがジャンディが決してそれを望まないことをジュンピョは嫌というほど知っていた。
それでも、いつ情報が漏れるかはわからない・・・そうなれば、ジャンディがどんな危険な目にあうか知れない。あのジュンピョのことだ、心配でおちおち仕事もしていられないだろう・・・
事実、今でもジャンディの周りには、医者やナースとして業務をこなしながらSPの任務を負っている者が何人もいる。
そういった備えも、全て自分で指揮するためにジュンピョは、この病院の理事長になった。

 

・・・と、俺は思っている。


―そんなあいつの想いを知ってか知らずか・・・


あれから3年・・・ジャンディは、生き生きと輝きながら夢を叶えた。

 

「ウビン先輩、何ニヤニヤしてるんですか?・・・」

 

ひとり思い出に浸っている内に、いつのまにかジャンディが部屋に来ていたらしい・・・
見ると、大きな包みを抱えて俺の前に立っていた。


「その包みは?・・・」
「ウビン先輩、お昼ごはんこれからでしょ?・・・今日はク・ジュンピョが来る日だったからお弁当たくさん作って来たのに、忙しくて来られないってさっき連絡があったの。だからウビン先輩、手伝って!」
ジャンディは、来客用のテーブルの上で包みの結び目をほどきながら、申し訳なさそうに言って微笑んだ。
「あっ、でも思いっきり庶民のお弁当だから、味は期待しないでね」・・・そう付け加えて。


「へえ、弁当か・・・おっ、これが例の卵焼きか?あいつの好物だろ?いただきます!」
俺はソファに移動すると、いつもク・ジュンピョが自慢していた”ジャンディの卵焼き”をまずは口に放り込んだ。
「おっ、美味い!・・・記憶をなくしてた時もこの味だけは忘れなかったって言ってたもんな、あいつ」


「そう?・・・いつも最高級の美味しいものばかり食べてるくせに、こんな何でもない卵焼きが好きなんて変だよね・・・」
そう言いながらもジャンディは嬉しそうに笑った。


「そう言えば、今日はジフは来てないのか?・・・」
「ジフ先輩の診療日は明日です・・・残念でしたね」


ユン・ジフは、祖父の財団の管理と医者の2足のわらじをはいている。週に一日だけこの神話病院に診療日を持っている以外は、祖父の診療所で町医者をしていた。
ジフがこの神話病院にあえて残っている理由もまたジャンディだと俺は思っていた。
ジフのジャンディへの恋は、きっとあの3年前の砂浜で吹っ切れているのだろう・・・それでもジフはいつでもジャンディに寄り添い、兄のように彼女を見守って来たことを俺は知っている。


―まったくどいつもこいつも・・・


「ジフの診療所にもよく顔を出してるって?・・・ジュンピョがやきもち焼くぞ!」
「うん。でも私が行くとハラボジが喜ぶから・・・ハラボジは私に医者になる夢を与えてくれた人だからねできるだけ優しくしてあげたいし・・・」


―その優しさも、ある意味罪だよな・・・


「それにしても美味いな・・・お前の料理が上手いのか?それとも俺の腹が減りすぎてるのか・・・」
「それ褒めてるんですか?けなしてるんですか?・・・」


ジャンディが俺を睨み、俺は声を上げて笑った。
そう言えば、最近こんな風に笑ったのはいつだっただろう・・・そんな思いがふと湧き上がった時、急にドアの向こう側が騒がしくなり、突然勢いよくドアが開いた。

 

「ウビンが来てるって?・・・」
大声を上げて入って来たのは、この部屋の主、ク・ジュンピョだった。
そして、ジュンピョは俺の挨拶も聞かない内に、弁当箱めがけて突進してくると、いきなり俺の胸倉を掴んだ。


「お、お前何食ってんだよ!!」
ジュンピョが目を向いて凄んだ。
俺は「卵焼きだよ」と素知らぬ顔で答えながら、これ見よがしに最後の一切れを口に放り込んだ。


「お前ーー!!」
怒ったジュンピョが俺に向かって拳を固めた瞬間、俺とジュンピョの間に皿に乗った卵焼きが現れた。


「もう!来ていきなりうるさい!!・・・ほら、こんなこともあろうかと思って、ちゃんとあんたの分は取ってあるわよ。だいたい今日は来られないって言ってたじゃない。こんなにたくさん作っちゃって私ひとりじゃ食べきれないからウビン先輩に手伝ってもらってたの!お礼をいうならまだしも殴ろうとするなんて信じられない!!」

「なんだと!2時間かかるって言われた仕事を1時間で片づけて会いに来てやったんだぞ。もっと嬉しそうな顔しろよ!」

「別に頼んでないわよ。こうやってここであんたに会うのだって、みんなにばれやしないかとこっちはヒヤヒヤなのに・・・」

「じゃあ、俺がここに来なきゃどうやって会うんだよ!」


―まったく・・・素直に会いたかったって言えばいいのに・・・


俺は、2人のやり取りをニヤニヤしながら聞いていた。
ジュンピョは、不貞腐れながら、それでも皿を抱え込んで卵焼きにかぶりついている。
そして、そんなジュンピョをジャンディは頬杖を付いて嬉しそうに見つめていた。


―こいつらも相変わらずだな・・・


「そうだ、これ見て!」
ジャンディが、不意に思いついたように携帯の画面に写った画像を俺たちに向かって見せた。


「えっ?・・・カウルちゃん?」
「なんだこれ?・・・」


そこには、ウェディングドレスを着たチュ・ガウルが写っていた。


「そう!綺麗でしょう?・・・昨日、イジョン先輩とウェディングドレスの試着に行ったらしいの。それで一番気にいったドレスの写真を送ってくれたのよ」
ジャンディは、携帯の画像を見ながらクスクスと笑った。


「イジョンとカウルちゃんも、いろいろあったみたいだけど、なんだかんだ言って落ち着いたみたいだな」
俺は、感慨深くつぶやいた。


「あのイジョンが、まさかカウルに本気で惚れるとはな・・・絶対に好みのタイプじゃないと思ってたぜ」
ジュンピョは、首を傾げながら言った。


―本当に、イジョンの奴もいろいろあったな・・・


ソ・イジョンは、ジュンピョがアメリカに行ったのと同じ時期にスウェーデンに渡り、やはり4年を経て帰国した。
酔った弾みで巻きこまれた喧嘩で手を痛め、”ロダン以上の逸材”と言われたその才能も一時は再起不能と宣告された。
しかし、イジョンは人知れず懸命の治療とリハビリを重ね、見事に陶芸家として再起を果たしていた。
そして、イジョンは変わった・・・それは他のメンバーも少なからず感じているだろう。
ある意味ジュンピョ以上に重い後継者としての重責。
そして、それに抗うように、それまではどこか投げやりに生きているように見えたイジョンが、スウェーデンから帰国以来、まるで人が変わったように陶芸に没頭している姿は、どこか痛々しくもあり、それでいて幸せそうにも見えた。
イジョンをそんな風に変えたのは誰なのか・・・それは考えずとも答えは出ていた。


「そう言えば、イジョンの作った花器が何とかってコンベンションで金賞を取っただろ?・・・あの花器を家の美術館に寄贈したいってイジョンから連絡があったんだ」
卵焼きを食べ終わって満足げにしていたジュンピョが思い出したように言った。


「えっ?・・・あれを神話美術館に?・・・あれはすげえ賞なんだぜ。金に糸目をつけずに欲しがってる奴もいるって話しなのに・・・」
俺は驚きの声を上げた。


「イジョン先輩ったら、自分の美術館に飾ればいいのに。それは照れくさいのかな?・・・だって、あれは絶対にプロポーズの作品だもの!」
ジャンディは、声を弾ませながら言った。


スウェーデンから帰国した後のイジョンとカウルに何があったのかは知らない・・・
ただ、イジョンはスウェーデンから戻ってしばらくしてから、それまで周りにいくら勧められても一向に興味を示さなかった国際的な陶芸コンベンションに突然作品を出展した。
一時は再起不能と言われた天才陶芸家の完全復活と新たな挑戦に、当時は随分とマスコミでも話題になっていた。
そして、イジョンは見事にそのコンベンションで金賞を受賞した。
その作品のタイトルが『秋-カウル-』・・・イジョンがこの作品に込めた想いはなんだったのか・・・
ただ、その想いが今ジャンディが言ったように、カウルのウェディングドレス姿に繋がっていることは間違いない。


「おいおい、お前らの方がずっと付き合いが長いのに、ぐずぐずしてるから先越されちゃったじゃないか・・・いいのか?」
俺は、カウルの写真を見ながらうっとりしているジャンディに向かってからかうように言った。
すると、ジャンディは急に俺の顔をマジマジと見つめながら笑い出した。


「な、なんだよ・・・」
「ウビン先輩っていつも人の心配ばかりね・・・でもウビン先輩自身はどうなんですか?彼女とかできないの?」
ジャンディの突然の逆襲に、俺は一瞬怯みながら答えた。
「余計なお世話だ。だいたいいつも一番心配させるのはお前らだろ?なあ、いい加減結婚したらどうだ?そしたら俺も安心して彼女でも探すさ・・・」


―実際、まだ本当の恋なんてできるわけがないけどな・・・


F4のメンバーがみんなそうであるように、俺にも継ぐべき家がある。
父の代からはまっとうな企業の仲間入りをして、こうしてF4のメンバーたちとも肩を並べていられるようになったとはいえ、代々続いて来た裏社会との繋がりがそう簡単に切れるわけもなく、それが及ぼす影響も決して小さくはなかった。


―だからこそ、こんなこともある・・・


俺は、腕の絆創膏をひと撫でしながら心の中でつぶやいた。


俺は、自分でも気付かない内に人を本気で愛することを、ずっと避けて来たように思う。
もし、心底誰かを欲しても、俺の生まれが元でその人がどれ程危険な目に合うかわからない・・・ずっとそんな風に思っていた。
でも、ジュンピョやジフのジャンディへの愛、イジョンのカウルへの想いを見ていると、気持ちは揺れる。
俺もいつか本気で誰かを愛した時、ク・ジュンピョのように自分の全てを賭けて愛する人を守れるだろうか・・・
いずれにせよ、俺はまだそんな恋には出会っていない。それだけのことだった。


「だいたいウビン!お前んとこにだってお抱えの医者くらいいるだろ?・・・病院だって持ってるくせに、なんでわざわざここへ来るんだ?・・・」
ジュンピョが、至極当たり前のこと言った。


「まあ、そう言われると返す言葉もないけどな・・・別にいいだろそんなこと」
俺は、適当に答えて笑った。


今の俺にしてみれば、自分の色恋沙汰よりも、F4の行く末の方にずっと興味がある。
いつか、他の奴らのことなど思い出しもしないような恋が見つかるまでは、せいぜい心配して、世話を焼いてやるさ。

 

 

ジュンピョ達と別れて病院のエントランスに出ると、すぐにピタリと車が横付けされた。


「悪かったな・・・」
俺は、秘書に待たせたことを詫びながら車に乗り込むとシートに深く身を沈めた。


「ウビン様、この後はどちらへ参りますか?」
「とりあえず会社へ戻る」
「それから、神話グループからこのような招待状が・・・」
「えっ?ジュンピョのところから?・・・」


俺は首を傾げながら渡された招待状を開けた。
「へえ、創立記念パーティーか。ジュンピョの奴、何も言ってなかったな・・・わかった。出席すると返事しておいてくれ」
「かしこまりました」


静かに走り出した車は、確実に俺を現実の世界に引き戻していく・・・
もちろん、今自分が置かれている状況を嫌っているわけではない。
ただ、生まれながらに背負わされた運命にあらためて気付かされる時、俺は無性にF4に会いたくなる。


―あいつらの前では、いつでも素のままでいられるから・・・


今日は、思いもかけず、いつもジュンピョが自慢していた”卵焼き”を食べることもできた。
何より、ジュンピョとジャンディが幸せそうにしていた。
そして、ふと思いを馳せた懐かしい景色は、あの日の潮の香りを思い出させてくれた。


俺は、腕の絆創膏を見つめながらつぶやいた。
「せっかくのいい口実だったのに、あと1回なんて残念だ・・・」


「は?・・・ウビン様、何かおっしゃりましたか?」
助手席の秘書が振り返って尋ねた。
俺は何も答えず、笑いながら首を横に振った。

 

 

                             END