注)このお話しは、2010年に本館ブログ(CUBE-style)にアップしたものです。

こちら別館には、どうしても付け加えておきたい説明書きなどを除いて、お話しだけを移動してきました。

もし、執筆当時のまえがき、あとがきなどにも興味がありましたら、メッセージボードかサイドバーのリンクより、CUBE-styleへどうぞ・・・

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  short hair~ ≪1≫

 

 

その日、A・N・JELLのメンバーは、全員が別々のスケジュールで動いていた。

 

 

ジェルミはラジオのレギュラー番組の録音へ、ミナムはグラビアの撮影へ、テギョンはスタジオに籠って新しいアルバムの曲作り。
そして、俺は新曲のギターパートだけのレコーディングを済ませた後はオフということで一人行きつけのギターショップに来ていた。


馴染みの店員に声を掛け、注文してあったギターを受け取ると、その場でつま弾きながら感触を確かめる。
そのまま、店員と他愛のない会話をしながら小1時間ほど過ぎた頃、ふとギターショップの外に数人の女の子達が集まっているのが見えて、俺はギターをしまうと店を後にした。


ギターショップの入ったビルの地下の駐車場に降りて、車に向かって歩いているとポケットの中でメールの着信音が鳴った・・・ジェルミからのメールだった。


『シヌさん!明洞のギターショップにいるんだね?・・・おみやげにアイスクリームをよろしく!』


―えっ?・・・


俺は、車に乗り込むとすぐに携帯でファンが俺達の画像を投稿しているサイトを開いた。
すると、ギターショップの窓越しに俺が店員から新しいギターを受け取る画像がアップされていた。


―撮られてたのか・・・


俺は、苦笑いを浮かべながらそのサイトを閉じると、すぐにジェルミに「OK」と返事をして、車のエンジンをかけた。
しかし、まさにサイドブレーキを外しギア―をドライブに入れた瞬間、外から窓を叩かれて俺は慌ててブレーキを踏んで横を見た。
すると、思いがけない人物がニヤリと笑いながらこちらを覗きこんでいた。
俺は、仕方なくまたギアをパーキングに入れると、エンジンはかけたままパワーウインドウを下ろした。


「キムさんでしたか・・・何か用ですか?」
俺は、あからさまに嫌な顔をして、キム記者に言った。


「カン・シヌさん、こんにちは。やあ、あなたとはぜひ2人でお話ししたくてねえ・・・でも、いつも誰かが周りにいますからね。今日は本当にあなたのファンに感謝ですなぁ・・・」
キム記者は、口元には不敵な笑みを浮かべながら言った。


―なるほど、あのサイトの写真を見てここがわかったのか・・・


「別に話すことなんてないですよ」
俺は、ハンドルを握ったまま素っ気なく答えた。


「まあまあ、そう言わずに・・・コ・ミナムさんの妹さんが帰国してることはわかってるんです。彼女は元々あなたの恋人だったんじゃないんですか?いつの間にファン・テギョンさんの恋人になったんですか?」
キム記者は、俺が車をスタートさせないようにドアの窓枠に手を掛けたまま、さらに言葉を続けた。
「ミナムさんの妹があなたの恋人だと言って写真を撮らせてもらった頃からA・N・JELLにはいつも秘密の臭いがぷんぷんとしていましたからね・・・もう全部話してもらえませんか・・・」


「だから、俺から話すことなんてないんですよ・・・取材なら事務所を通してください」
俺は、この場をどう切り抜けるか考えを巡らせながら、同じことを繰り返し言った。
するとキム記者は、一瞬あたりを見回してから急に凄みのある表情で俺を見据えながら言った。

「あの時のシヌさんとミナムさんの妹とのツーショット写真は今でも大事に持っていますよ。テギョンさんもノーコメント、あなたも何も話すことはないじゃ納得できませんね。ちゃんとわかるように話してくださいよ。もし話していただけないようなら、あの写真を今さらですが公表したっていいんですよ・・・見出しはどんなのがいいですかね。<A・N・JELL、ミナムの妹をめぐる三角関係の顛末>なんてどうですか?・・・まぁ、今すぐとは言いませんよ。またお邪魔します。」


キム記者は、もう一度ニヤリと笑って大げさに頭を下げると、やっと窓枠から手を離して去って行った。

キム記者の足音が駐車場のコンクリートの壁に反響する音が妙に耳に残った。

 


俺は、知らず知らずに力を入れて握りしめていたハンドルからゆっくり手を離すと、運転席のヘッドレスト頭を乗せてしばらく天を仰いでいた。

 

 

それから俺は、車を走らせながらもずっと考えていた。
テギョンは、結局ミニョがアフリカに旅立った後の記者会見で話した後は、ミニョのことについてはずっとノーコメントを貫いている。
それは、テギョンの独りよがりのようで、実はミニョのためだということは俺にも理解できる。


―しかし・・・


すでに、ミニョが帰国している今、せめてもう一度テギョンがミニョとのことをマスコミに語る前に、俺とミニョの写真が公表されることは絶対にあってはならない。


それは、すなわち今までで一番のスキャンダルを意味する・・・
A・N・JELLの中での三角関係など、マスコミの格好のネタになるだろう。
そして俺は、そのことでミニョが傷つくことが一番恐かった。


―いったい、どうしたらいいんだ・・・?


俺は、日の暮れ始めた幹線道路を家に向かって走りながら、ふとジェルミとの約束を思い出して車をUターンさせた。
明洞の街に戻って、アイスクリームを買った頃には夜の帳が下りていた。

 

 

                             つづく