注)このお話しは、2010年に本館ブログ(CUBE-style)にアップしたものです。

こちら別館には、どうしても付け加えておきたい説明書きなどを除いて、お話しだけを移動してきました。

もし、執筆当時のまえがき、あとがきなどにも興味がありましたら、メッセージボードかサイドバーのリンクより、CUBE-styleへどうぞ・・・

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  Fan meeting~ ≪1≫

 

  ★A・N・JELLファンミーティングの追加企画!!★

あなたのお気に入りのメンバーがあなたを熱くハグしてくれます。
ぜひ、この日を一生忘れられない日にしましょう・・・

振るってのご応募お待ちしています!

 

「なんだ?この追加企画ってのは!こんな話し、俺は聞いてない!!」
俺は、思わず社長室のソファから立ちあがって大きな声を出していた。
俺の剣幕にアン社長やメンバー達、マ室長やワンスタイリストも唖然とした顔で俺を見上げていた。

 

「おい、マ室長。テギョンにちゃんと伝えてなかったのか?」
アン社長が、マ室長を詰問する。
すると、マ室長が心外だといった顔を向けながら、アン社長の耳元で囁くように抗議する声が俺の耳にも届いた。
「タイアップ先からこの企画の追加が来た時、テギョンが絶対に嫌がるから内緒で話しを進めようって言ったのは社長じゃないですか!」


―なにっ?!・・・


すると、アン社長ははっと驚いた顔をしたあと、気まずそうに俺を見ながら言った。
「そ、そうだった!・・・急な話で時間がなかったんだよ。お前に言ってまたこじれるとスケジュールの調整が出来ないと思って、お前には言わずに話しを進めた・・・わるかった」


「まあまあ、テギョンさん!たかがファンミーティングのイベントのひとつじゃない?ほんの一瞬のことだよ。」
ジェルミが、気まずくなった空気を払しょくしようと明るく話しに割って入った。


「今まで、こういうことはしてこなかったじゃないか?!・・・だいたいファンに媚を売るようなやり方は”ファン・テギョン”のイメージと違うだろ?こういうことはジェルミとミナムだけでやればいい。シヌだって、そう思うだろ?」
俺は、なんとか抵抗しようとシヌにも同意を求めた。しかしシヌは冷静な表情のままさらりと答えた。
「別に、それでファンが喜ぶんならいいことじゃないか。俺はかまわないよ・・・」


―なっ!裏切るのか、シヌ!


俺は、素知らぬ顔のシヌを睨みつけた。
すると、シヌの言葉に力を得たアン社長が、社長としての威厳を誇示するように胸を張りながら俺に言った。
「シヌの言うとおりだ。とにかく!これはもう決定事項なんだ。いやだろうと何だろうと、絶対にやってもらう。お前だってファンがどれ程大切なものかよくわかってるだろう?・・・ファンあってのA・N・JELLだってことをしっかりと思い出せ。OK?」


そして、俺の主張を無視した形で2週間後に迫ったファンミーティングについての会議が始まった。


毎年恒例のファンクラブ主催のファンミーティングが今年ももう間もなく開催される。
今回は、コ・ミナムが加入して初めてのファンミーティングということもあって、応募者も例年よりずっと多いとマ室長が言っていた。
ファンミーティングは、ミニライブの後にトークショーがあり、その後は参加者の中からさらに抽選で選ばれたファンとのゲームコーナーやメンバーからファンへのプレゼントなどで毎回構成されている。

そして、今回も内容にほぼ変わりはない・・・

ただひとつ、俺が知らない内に付けくわえられた企画以外は・・・


俺は、社長室の中央のテーブルに置かれたパソコンの画面をいまいましげに見つめた。
ファンクラブの会員専用ページの中のさらにファンミへの参加者向けのページに「追加企画!」という言葉がキラキラと飾りのついた大きな文字で書かれていた。


正直に言えば、少し前の俺ならたとえこの企画にも、こんなにも憤ることはなかったかもしれない・・・
シヌの言うようにファンサービスだと思って、きっといかにも”ファン・テギョン”らしい演出を考えたことだろう。


―俺だって、ファンが大事なことくらいわかってる!


ではなぜ、今はこんなにも嫌なのか・・・?
その答えは、考えることもなくわかっていた・・・ミニョだ。
ミニョがそれをどう見るのか、どう思うのか・・・傷つきはしないか、泣くんじゃないか・・・・
認めたくはないが、それが今の俺の一番の心配ごとだった。
ファンの人気投票で1位に輝くこの俺が、たった1人の女の気持ちを思っておろおろしているなんて情けない話だ。
でも、それが俺の本当の気持ちだ。


―だいたい、自分の意に沿わぬことをして減点されるなんてとんでもない話だ!


ところが、白熱する会議を横目に悶々としている俺に向かって、シヌが言葉をかけて来た。
「ミニョのこと気にしてるのか?」


「えっ?・・・あ、あいつは関係ない」
俺は、動揺を悟られないように強気で答えた。
しかし、シヌはまるで俺の心を見透かしたように言った。
「ミニョはお前が他の女を抱きしめてるところを見たら、やっぱりショックだろうな・・・」


―えっ?・・・


心の中ですでに思っていたこととはいえ、あらためて言葉にされると妙に胸にズキンとこたえた。
やっぱりそうなのかという想いが、ひたひたと胸の中に広がって、俺が悪いわけでもないのに、ミニョに対して罪悪感のような思いが湧き上がってくるのを感じていた。

 

 

 

俺は、いても立ってもいられない気持ちをなんとか堪えてその日の仕事を終えると、家に戻る車の中からミニョに電話をかけた。
言い訳がましくならないように、自分の知らないところで追加企画の話しがまとまっていたことを話すと、受話器の向こうのミニョが驚いた声で答えた。
「ええ?!テギョンさん追加企画のこと知らなかったんですか?・・・私なんて、あのページが更新された時から知っていますよ。」


「えっ?・・・知ってたのか?」
俺の方こそ驚いて聞き返した。


「はい、だって私、A・N・JELLのファンクラブの会員ですからね・・・HNはテジトッキ!忘れちゃいました?サイトは必ず毎日チェックしてます」
ミニョは、自慢げに答えた。


―そうだった!


「それで、あの追加企画を見て、お前はなんとも思わなかったのか?・・・」
俺は、探るようにミニョに尋ねながら、その小さな吐息すら聞き逃さないようにとイヤホンマイクを指で強く押しこんだ。


「はい、すごく羨ましいなって思いました!・・・当選した方はきっと嬉しいだろうなぁ~!」


―はあ?・・・


俺は、あまりにも想定外のミニョの返答に、言葉が返せないでいた。
すると、ミニョはさらに言葉を続けた。
「私も会員なんだからそのファンミに応募できたんですよね?一度本物のファンミって見てみたかったから、応募すればよかったって後悔してたんですよ。もしかしたら私がテギョンさんにハグされるファンだったかもしれませんよね?」


ミニョの無邪気な声を聞いている内に、いつの間にか家に到着していた。


「そうか・・・そうだな。お前にも資格はあるんだな・・・家に着いたから切るぞ・・・」


「えっ?・・・テギョンさん、話しはそれだけですか?・・・」
俺は、戸惑ったミニョの声を無視して、イヤホンマイクを外した。
いろいろな感情が胸の中に渦巻いている気がした。
それは落胆と憤り・・・そしてやはりミニョへの愛おしさも・・・
俺は、思わず苦笑いを浮かべながら車をロックすると家の中に入って行った。
リビングにはすでに帰って来ていたジェルミたちがいて、こちらに向かって手招きをしていたが俺はそれを一瞥しただけで自分の部屋に戻った。


部屋に入って、携帯電話をベッドの上に投げ出すと、ミニョが言った言葉を思い出してみる。


<当選した方はきっと嬉しいだろうなぁ~!>


そして、結局は俺の胸の中では落胆よりも憤りの方が勝ってしまったらしい・・・
俺は、部屋の中をうろうろと歩きまわりながら、知らず知らずの内に悶々とする思いを吐き出していた。
「自分も応募すればよかっただと?・・・こっちは傷つかないかと心配してやってたのに・・・あいつは天然か?それともただの鈍感か?ええい、いまいましいテジトッキめ!そっちがその気ならこっちだってもう気になどしてやるか!ハグでもなんでもやってやるさ」

 

 

それからの2週間は、ハードスケジュールの中で瞬く間に過ぎて行った。
俺は、ミニョに会うたび喉元まで出かかる言葉を引っ込め、不思議とミニョもファンミの話題に触れることはなかった。

 

そして、どこか割り切れない想いを抱えたまま、ファンミーティング当日の朝を迎えていた・・・

 

 

                               つづく