In other words・・・~ <番外編>

 

 

 

突然ミニョが戻った朝、昨夜の疲れから遅く起きて来たA・N・JELLのメンバー達は、思いもよらぬ来客に二日酔いも吹き飛ぶほどに驚かされることになった。


「ああーーーミニョがいる!!ミニョ、ミニョ・・・いつ帰ったの?会えるのは、まだまだずっと先だと思ってたよ!」
ジェルミが全身で喜びを表しながら両手を広げて駆け寄ってくる。
それを、いつもの如くすんでのところでテギョンが止めて、皆の笑いを誘った。


「ミニョ。おかえり・・・何だ?ホームシックにでもなったのか?」
シヌが、お茶を入れながらからかうように尋ねた。


「えっ?・・・まぁ、そんなところです」
ミニョは照れながらも、以前と変わらないシヌの穏やかな佇まいを懐かしく感じていた。


そして、ひとり黙々とミニョの用意した朝食を食べ始めたミナムに向かって、ミニョが尋ねた。
「兄さんったら、テギョンさんに帰ることを知らせてってメールしたのに、伝えてくれてなかったのね?」
ミニョの言葉に、他のメンバーの視線が一斉にミナムに注がれた。


「あっ!だからあの時、お前なんか変なこと言ってたんだな?」
ジェルミが、PV撮影の時の楽屋でのことを思い出して言った。
ミナムは、バツが悪そうにジェルミに笑って見せた。
そして、ふと殺気を感じたミナムが振り返ると、怒りで目を吊り上げたテギョンが目に入って思わず立ちあがった。


「コ・ミナム!・・・お前、全部知ってて俺を笑ってたのか?!」
テギョンの怒声が飛んで、ミナムは食べかけのパンを持ったままダイニングから逃げ出した。
しかし、ミナムは階段を数段上がったところで振り返ると、ニヤリと笑いながらテギョンに向かって言った。
「でも、そのお陰で感動の再会が出来ただろ?・・・」
そして、ミナムは、楽しげな笑い声を上げながら、駆け上がって行ってしまった。


「もう!兄さん・・・」
ミニョが大げさにため息をつくと、ジェルミとシヌがそれを見て笑った。
そして、ミナムの態度にわなわなとしていたテギョンも、2人につられて苦笑いを浮かべた。


「なんだかミニョがミナムだった頃みたいだな・・・あの頃はよくこうやってみんなで一緒にいたよね・・・」
ジェルミが、懐かしげにつぶやくと、シヌとテギョンも素直に頷いた。


「それで?・・・ミニョはこれからどうするつもりなんだ?住むところは決まってるの?仕事は?」
シヌのさりげない問いかけに、他の2人もミニョに注目した。
すると、ミニョは一瞬テギョンの目をじっと見つめた後、おずおずと答えた。
「は、はい・・・アフリカに行く前にずっとお世話になっていた孤児院でまた働かせてもらうことになっています。」


―えっ?・・・


テギョンは、まるで初めて聞く話しに眉間に皺を寄せた。


「ふーん、そうか・・・じゃあミニョが住むところもその孤児院?・・・」
シヌが、テギョンの表情などお構いなしに、さらに質問を続けた。


「はい・・・しばらくは住み込みで・・・その内ちゃんと自立したいとは思いますけど・・・」
ミニョは、雲行きの怪しくなってきたテギョンの表情に少しビクビクしながらも、なんとかシヌに答えを返した。
すると、そこに酷く残念そうにジェルミがつぶやいた。
「なんだ・・・ミニョはミナムの妹なんだから、遠慮しないでここに住めばいいのに・・・おばさんだってちょくちょく来るし元々ミニョだってここに住んでたんだからさ・・・」


―そうさ・・・俺もそう思ってた・・・


テギョンは、ジェルミの言葉で自分も至極当たり前にミニョはここに来るものだと思い込んでいたことに気が付いた。
すると、にわかに腹が立ってきて、自分でも制止出来ずに嫌味が口をついて出た・・・
「ははーん、アフリカで子供達に懐かれてたから、こっちでもその続きか?・・・毎日楽しく走り回っ

てるって言ってたじゃないか、あのままアフリカにいたってよかったんだぞ。俺は諦めてたんだから」


「お、おい!テギョン!」「そうです!」
見かねたシヌがテギョンを制止しようとしたと同時に、ミニョも声を上げていた。
ミニョのあまりに真剣な顔に、シヌはそれ以上口をはさむのをやめて引きさがった。


「な、なんだよ・・・何かいいわけでもあるのか?」
テギョンが、ミニョの剣幕にいささか怯みながら言った。


「テギョンさんの言うとおりです・・・私、アフリカの子供達を残してくるの、すごく悲しかった。私にとっても懐いてくれてたし、ホントに楽しかったから・・・」
ミニョは、真剣な顔つきで淡々と話した。


「だったら、本当にアフリカにいればよかったんだ!それで・・・」「でも!!」
テギョンがさらに声のトーンを上げてミニョを攻撃しようとした時、ミニョの声がそれを遮った。


「でも・・・私は、それでもどうしても会いたかったから・・・だから帰ってきました」
ミニョは、大きく目を見開いて呆気にとられているテギョンに向かって、きっぱりと言いきった。


傍らで2人のやりとりを固唾をのんで見守っていたシヌとジェルミが、ニヤリと笑いながら小声でつぶやいた。
「テギョンの負けだな・・・」
「うん、ミニョすごいよ、テギョンさんを黙らせちゃうんだからさ・・・」


―なんでこうなるんだ?・・・完全に俺の負けじゃないか・・・


シヌとジェルミがクスクスと笑っているのをチラリと見ながら、テギョンは自分が酷く不利な状況に置かれていることにその時初めて気づいていた。
ミニョは、高揚した気持ちを落ち着けるように荒い呼吸を繰り返しながら、テギョンの次の言葉を待っているようだった。


―そうだ、俺の負けだ・・・惚れた俺の負けなんだ・・・


テギョンは、無表情なまま不意に立ち上がると、シヌとジェルミを一瞥してから、ミニョを避けるようにしてその場から立ち去った。


テギョンのさらなる逆襲に身構えていたミニョは、思いもよらないテギョンの行動に呆気にとられてその背中を目で追っていた。
しかし、はっと我に返ると慌ててテギョンを追いかけた。
「テ、テギョンさん!なんで行っちゃうんですか?帰ってくること知らせなかったことそんなに怒ってるんですか?孤児院に戻ること一番に言わなかったからすねてるんですか?・・・テギョンさん!星のお土産も一杯あるんですよ~ねえ、せっかく帰って来たんだからもっと嬉しそうにしてくださいよ~!」

 

シヌは、少し翳りのある微笑みを浮かべて2人が階段を駆け上がって行く音を聞いていた。


―もう、あの頃には戻れない・・・それでもお前が幸せならそれでいい・・・

 

ジェルミは、指をさして笑い転げながら階段を駆け上がって行く2人を見ていた。


―たとえテギョンさんの彼女でも、俺はお前が大好きだよ、ミニョ。

 

 

 

その日、テギョンの部屋には、ミニョがアフリカから持ち帰った「星」の写真が床一面に広げられ、そのひとつひとつをテギョンに説明するミニョの無邪気な笑い声が耐えることなく聞こえていた。

 

 

                               END