プロスペクト理論(その3)

 

 

 

 前回の続きです。

 今回はこちらですね。

 

 

人はなぜ損切りをためらってしまうのか

 

 

 利確を急いでしまうのに比べると、理解しやすいかもしれません。

 損切りは損失が確定する行為であり、自分の判断が誤りだったと認めることにほかなりません。

 こんなの嫌ですよね、普通は。

 

 でも、ちょっと冷静に考えると、損切りをためらうのは、理にかなっているとはとても言えません。

 

 本来、誰もがみな、損失が少ない方がいいに決まっています。

 損失を少なくするには、早く損切りした方がいいはずです。

 

 それでもやらないのは、いくつか理由が考えられます。

 

 一つは、いつかまた株価が戻って損失がなくなるかもしれない、という思考回路ですね。

 

 でも、これは分かるようで、よく分かりません。

 これが正しいとしたら、いったん損切りして、また買い直せばいいはずです。

 

 ナンピン買い、という言葉がありますが、これも同じです。

 例えば、100円で買った100株が50円に下がりました。で、もう100株ナンピン買いすると平均購入単価が75円になります。

 100円まで株価が戻れば+25円×200株で5,000円の儲けです。

 でも、50円のときに100株売って、200株を新たに買っても結果は同じです。

 損切り分の-50円×100株に+50円×200株で‐5,000円+10,000円=+5,000円。はい、やっぱり5,000円の儲けです。

 

 前置きが長くなりました。

 

 損切りをためらうのはこれくらい説明が難しい行為といえますが、なぜなのでしょう。

 

 その理由の一端は、プロスペクト理論で解明可能です。

 

 

 ↑以前と同様、実験を見てみましょう。

 ただし、内容がやや違います。

 

あなたは現在200万円の借金があります。その前提で、下記のどちらかを選びなさい。

 

A 借金を100万円だけ帳消しにする

B コインを投げ、表が出た場合のみ借金200万円全額を帳消しにする(裏が出た場合は借金200万円のまま)

 

 いかがでしょうか。

 以前の実験は↓のようなものでした。

 

 下記のどちらかを選びなさい。

 A 100万円をもらえる

 B コインを投げ、表が出た場合のみ200万円もらえる(裏が出た場合は何ももらえない)

 

 実は、どちらの実験も、得られる金額は同じです。

 今回の実験はAを選ぶと借金が100万円帳消しになるので、100万円もらえるのと同じ。Bを選ぶと50%の確率で借金200万円がチャラ、つまり、200万円をもらえるということになります。

 

 以前の実験では、Aを選ぶ人が多い、という話をしました。

 

 では今回も同じなんでしょうか。

 

 いえ、それが、違うんですね。

 

 今回の実験は、まったく逆で、Bを選ぶ人が多数派です。

 

 これには下記の心理が働いていると言われています。

 

損失を何とかゼロにしたい

 

 ここが、プロスペクト理論の肝です。

 

 Aを選ぶと、確かに100万円もらえますが、借金が残ってしまいます。借金が残るくらいなら、一か八か借金がゼロになる可能性に賭けてみようということです。

 

 不思議ですよね。でも、本質は一緒です。前回の実験では、今すぐ手にできる100万円を失う=損失を避けるというのが、Aを選択する理由でした。どちらも、損失を避けたい、という共通心理があります。

 (なぜ損失を避けようとするのか、という理論はまた別途解説します)

 

 損切りに迫られるシーンに重ね合わせてみましょう。

 前回のコラムと似た設定でやってみます。

 

 仮に、100円で100株買った株が、50円に下落しているとします。

 コインを投げて表が出た場合のみ、100円で買い取ってくれる、逆に、裏が出た場合はその株の会社は破綻し、株が紙くずになるとします。

 期待値は、50%で100円なので50円。つまり、いますぐ株を損切りして50円を手にするのと同じです。

 

 損切りができず、ずるずると持ち越してしまうのは、まさに後者のコインを投げてしまう状態です。

 実際には、小刻みな金額でこれが行われているということです。

 もしかしたら明日は上がるかも驚き……そう思って、何度もコインを投げているんですね。

 

 ここにある心理は、まさに、損失を何とかゼロにしたいから、というものです。いつか待っていれば、損失がゼロになる可能性は、それこそゼロではありません。

 

 さて、いかがだったでしょうか。

 

 損失ができず、ずるずると塩漬けにしてしまう心理がよくわかりますね。

 

 とはいえ、です。

 

 ここまで長々とやっていて何なんですが、塩漬けがそこまで悪いことだとは、実は思っていません

 

 この辺りは、現物株の運用方法に関係する部分かと思いますので、また改めて書こうと思います。

 

 とりあえず、損切りをためらってしまうのは、その人のミスや能力不足ではなく、単なる人の心理ということです。

 

 きょうも損切りできなかったな、と思わず、前向きに生きていきましょう牛あたま