仕事が終わってから夕食を摂り、そのまま佐田岬に向けて彼と釣りへ行く。
釣りなんて、まともにしたことないから、何か失敗しやしないかとドキドキ。
「別にボーっとしといたらええがな。」
わたしの気も知らず、彼は呑気である。
釣り・・・いつぶりだろう?
そういえば、小学校の時にクラスのみんなや先生と、近くの島に行ったことがあったような?
その時に、男の子がギザミを釣って、なぜだかわたしのニックネームがギザミに・・・。
なんでやねん!!
高速道路は使わず、のんびり地道をドライブ。
彼が疲れたら代われるように、一応わたしも免許は持ってきた。
途中、餌などを買う為に、釣具屋さんに寄る。
彼が餌を選んでいる間、わたしはお店の中を探検。
すると、浮きを発見。
浮きって、いろんな色があって、すんごく可愛い。
いつの間にか後ろに居た彼が、「それをアクセサリーみたいに首からぶら下げたりもするねんで。」
「へ~!そうなんや!!ほんま可愛い!」
「ほな、行こか」
さっさと出ていく彼を追いかけて、クルマに乗り込む。
「今から岬に行くけど、海の鉄則は、生きて帰ること。やからな。」
ええ?そんなにハードなの???と思ったけれど、それは口にせず、
「そういえば、山もそうです。生きて帰ること、了解。」と応える。
弱い女の子と思われたくないような、足手纏いにはなりたくないような・・・
なんとなく、そんな気持ちが働いた。
岬に到着。
真っ暗でなんにも見えない。360°真っ暗。
そんな中、さっさと釣り具の用意を整え、「行くで~」と歩き出す彼。
行くったって、いったいどこへ!?
真っ暗だからよく分からないけど、どう見ても断崖絶壁・・・。
すると、どうやら小道があって、それがどこかへ(笑)繋がっている様子。
でも、やっぱり断崖絶壁・・・。
真っ暗な小道を、懐中電灯の灯りを頼りに歩いて行く。
「えっと、この辺に目印が・・・、あっ、あったあった。」
彼の進む方を見てみると、ややややっぱり断崖絶壁・・・!
「ここから下に降りるから。」
「えええっ!!!こ、こんなとこ、降りれるんですか!?」
「降りるねん。ゆっくり行くから着いて来て。」
「はいっ。」わたしはすっかり必死である。
ゆるゆる道無き道を降りていく。
ズルッ!!!
「わっ!!!」彼が滑って転んだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫、大丈夫。」
更に慎重に降りていくと、突き出した岩に到着。
よく見ると、多分、知る人ぞ知る釣り場なのだろう、えさが散乱している。
「今、時合ちゃうから、あんまり釣れへんやろな~。」独り言のように呟きながら、
彼はそそくさと釣る準備に取り掛かり、わたしは海に映った月の光に見とれる。
月の光が海に反射して、道になっている。
月の道を行けば、ここから月まで歩いて行けそう。きれい。本当にきれい。
よく見ると、大きなクラゲがプカプカと浮かんでどこかへ流れている。
最初は、ゴミ袋かと思ったけれど、すごく大きなクラゲだった。
半透明の体。ぷかぷか・・・。
彼は、ジーンズのベルトにタオルをくくりつけて、立ったまま糸を垂れている。
月の光と彼のシルエットを見つめながら、本当に静かな気持ちになって、深い深い呼吸をする。
あーしあわせだ。。。
彼が突然、くるっと振り向いて何か言いかけようとした時、魚が喰い付いたみたい。
「女と釣りは、両立できん。」と呟いて、釣ることに集中。
プププー。あーしあわせ。。。
朝方、だんだん空が白み始める。
すると、魚も活発になってきたようで、彼も忙しい。
「今なら、あんたでも釣れるから、やってみな。」
わたしの竿も用意してくれてたんだ。
餌の付け方を教えてもらって、海に投げる。
彼の方はしょっちゅう喰いついてすごく忙しそうなのに、わたしのはさっぱりだ。
彼は横目でちらっとこちらを見て、「それ、多分もう餌あれへんで。」
慌てて引き上げてみると、「ほんとだ!いつの間にっ!!」
「あはは。最初はそんなもんや。」
夜がすっかり明けて、彼の糸も静かになってきたので、釣りは終了。
食べても美味しくない魚は海へ還したらしく、今日の戦利品は一尾だけ。
釣り場の岩を後にして砂浜へ移動し、釣った魚をそこで料理する。
なんと彼は、お鍋や火の用意、調味料まで持ってきている。
そのお汁の美味しかったことといったら!ますます好きになっちゃうよぉ~~~!!
二人で砂浜に腰掛けて、朝の空の色を眺めながら食べる朝ごはん。
わたしは、この空の色を、一生覚えてこうと思った。