「あのー、それ寒くないですか?」



並んで歩いているアイがクスクス笑いながらボクに聞いてくる。


12月下旬にコートも着ていないスーツ姿だったので気になっていたらしい。


じつは学生に意地を張って年内はコートを着ない宣言をしてしまったのだ。


我ながらバカなこと言ってしまったもんだと思うが、


いきなりこんなこと話すと変人扱いされそうだし。


「いやぁ、仕事場にコート忘れてきちゃってね。あはは」


仕事場にあるわけもないが適当に答える。


「えー、それって忘れるようなもんなのぉ」


ちょっと大げさに、「おっかしーっ」といった感じでクスクス笑い続けている。


そんなに面白い話ではないと思うんだけど・・・


その証拠にチャコは


「うん、寒そだね」


なんて興味なさ気に相槌うってるだけだし。



んー、この話を引っ張っててもしょうがない


「あはは、うっかりと。仕事帰りなんでこんな格好ですいませんね。ところで」


と話題を変えようとするとアイが



「いいえー。あたしスーツ好きなんでうれしいですけどね」


と、ボクの顔を覗き込むように見てニコリと笑う。



え・・・・・?


一瞬ドキっとしたがスーツのことか。


ははぁ、どうやらアイはこれが言いたかったわけか。


しかし、可愛い笑顔で言われるとうれしい勘違いをしてしまいそうだ。


「えーと、アイちゃん?って呼んでいいのかな?」


「はい。じゃ、リョウさんでいいですか?」


一呼吸置いてから、顔をキリリと引き締め


「うん。じつはアイちゃんの格好もボク好みでうれ」


「あっ、アイ」


そのとき後ろにいたチャコが


「あそこに居酒屋があるよ。あそこでいっか」


・・・・ナイスタイミングだ、チャコちゃん。


「そだね。うまく席が空いてるといいね。リョウさん、あそこでいい?」


くるりとアイがこっちを向く。


ハっと、しかめっ面から笑顔に戻し


「え?も、もちろんいいですよ。はは」


とボクが答えたときには


2人は楽しげに話しながらスタスタと前を歩いていってしまっている。


「そうだよねー。今日はイヴだからね。空いてるといいんだけどねー」


ボクは2人の後ろを着いて歩きながら独り言をつぶやく。



そう、今日はクリスマス・イヴ


ドラマのような都合のいい奇跡が起きてほしいと願うくらいは・・・・