半パラレルになります。
再びキョーコ視点に戻ります。
それではどうぞいってらっしゃいませ。
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「「………」」
狭い車内では重苦しい沈黙が続いていた。
それもこれも潮さんが余計な事を言ったからよー!!オーディションの後、都さんから電話番号を聞いて電話をかけてきた潮さんはあろうことか、「敦賀蓮に牽制しておいてやったからな。」と、へらへら笑いながら言い腐ってくれたのだ。どうも、都さんから要注意人物として、『不破尚』と『敦賀蓮』の名前を聞いていたらしい。心配してくれるお姉さんお兄さんの気持ちはありがたいけれど、「お前はすぐ騙されるからな。俺が目を光らせてないと。」だなんて、本当に小さな親切大きなお世話だわ。
まさか、こんな時に風邪を引いた社さんの代マネを頼まれるだなんて。運の神様は私の事が嫌いなのか…。その上、できると大見得切ったマネージャーの仕事はこれっぽちも出来ていないし。敦賀さんが怒るのも当たり前か。
「ごめんなさい…」
「何…?」
「マネージャーの仕事を簡単に考えて私が敦賀さんのマネージャーなんかしたばっかりに…敦賀さんにまで余計なご迷惑を…っ。」
「…それさっきも聞いたよ?二度も謝らせるほど怒ってないんだけどな…」
でも明らかに怒りの波動を感じるんだけど…。じゃあやっぱり怒っているのは…
「あの…潮さん…いえ、黒崎監督が何か失礼なことを言ったみたいで…(ひぃっ)ごめんなさい~~~~っ。」」
今体感温度が三度下がった気がした!
「彼の事で君に謝ってもらう必要はないけど…普段は名前で呼んでいるんだ。随分親しいんだね?」
キラキラしい笑顔で尋ねられて、それがかえって恐ろしい。
「それはですねっ。潮さんは、地元でお世話になっていた方の弟さんで、苗字が同じで紛らわしいからで…っ。」
「それに、彼も君の事をとても親密そうに呼び捨てにしていたよ?…俺には呼び捨てはダメだって……っ。」
敦賀さんは慌てたように口を塞いだ。確かにそんな戯言を言っていた時期もあった。でもそれは、『敦賀さん』には言っていない。…まさか気にしているとは思っていなかった。
「…聞かなかったことにします。」
「…ごめん。」
窓の方を向いて流れる景色を眺めながら、独り言のように呟いた。
「昔…たった一人の王子様が私を迎えに来て幸せてしてくれる…なんて愚かなことを信じていた時代がありました。その人だけに名前を呼んでほしいだなんて馬鹿げたことを。」
「…もう信じていないの?」
「…いませんよ、王子様なんて。だからもう、誰になんて呼ばれてもいいんです。」
躊躇いがちに、尋ねてくる敦賀さんにちらりと視線を向けて小さく微笑んだ。王子様だと信じた人は、二人とも違った。もし、また人を愛することができたとしても、きっとその人を王子様だと思う事はないだろう……。子供じみた妄想だったという事を知ってしまったから。
「君は…」
じゅわわわ~~~っと聴覚にしみいる音。かぐわしい香り。温かな湯気を立てたぽくぽくの目玉焼きの乗ったハンバーグ。はふはふしながら口に入れる。じわーっと口の中に広がる肉汁!…なんて、何故私が料理番組の解説のようなことをしているかというと、鳴ったからだ…何かを言いかけた敦賀さんの言葉を遮るように、強烈な破壊音ならぬお腹の音が。…うん。そういうわけで、ファミレスという敦賀さんにはとてもふさわしくない場所で食事中の私たち。
ほくほくしながら食べていると、敦賀さんが俯いて体をふるふると震わせていた。
「つ…敦賀さん…どうしたんですか…?」
「…え?ああ、いや…美味しそうに食べるな…と思って。」
「…美味しいですから。」
そう返した私に、だろうねと敦賀さんはふわりと目を細めた。時々感じるこの視線。私をどうにも落ち着かない気分にさせる。何故そんな顔をするの…?