半パラレルになります。
それでは、どうぞいってらっしゃいませ。
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「くーやーしーいーっ!何がオーディションを受けてみないかね?よ!受けさせたくせに落とすんじゃないわよー!」
結局、社長さんの指定した住居は遠慮して、バイト先だっただるまやご夫妻の厚意に甘えて下宿を始めた私は、現在絶賛ふて腐れ中だ。
社長さんに受けさせられたのは新人発掘オーディション。…落ちたけど。特技と言ったら桂向きくらいしか思いつかなかったので、大将の命と同じくらい大切な包丁をお借りして臨んだというのに、演技審査で見事に落ちたけど!
そりゃあ、やる気なんてこれっぽっちもなかった。芸能人の男なんてあいつを含め、ろくでなしばっかりに決まってるから、関わり合いになりたくなかったし。化粧一つせずに行きましたよ!だからって、本当に落ちたら腹が立つのが人の性というものだ。
「大体何よあれ。なーにが俺とやり直してくれないか?よ!嫌にきまってるじゃない!ああいう男は何度でも繰り返すに決まってるのよ!そんな男をどうして許してやらなきゃいけないのよー!」
世の男性全てを否定する気はない。都さんとの約束もあるし、私だっていつかは恋をするかもしれない。だけどあれはなしだ。裏切ったあげく、他の女をさんざん渡り歩いて、今更やり直してほしいなんて調子いいにもほどがある!
「そう思う私のどこが悪いのよー!」
抱え込んでいた枕をぼふんっと顔をうずめた。
「あーあ。気が抜けちゃったなあ。これからどうなるんだろう。」
他にも考えなければいけないことはあったけれど、どっと疲れてしまった私は、はあっと長い溜息をついてふて寝を決め込んだ。
「…誰か私に説明を。」
数日後、再び事務所を訪れた私はなぜか大量の荷物を運ばされている。…ナゼ?
ついて早々、新人かと確認され、新部門がどうたらこうたらと言いながら、ヒステリーなおばさん…もとい、ふくよかな少々気性の荒い女性に荷物を押し付けられた。新しい仕事って雑
用係なんだろうか。
「最上さん!」
ぜーはーとそろそろ限界かと思っていたころに大きな声で呼び止められた。そこに立っていたのは、椹さんと敦賀さん。…すごい遭遇率。いつかはと思っていたけれど、もう再会してしまって非常にばつが悪い。
「…驚いたな。君はもう早速仕事をしているのか!?もしかして、例の企画の事聞いてる!?」
「…は?…企画?」
どうやら何か事情を知っているらしい。敦賀さんの事はひとまず置いておいて話を聞くが、やっぱりさっぱりわからない。ポイントがどうとかもっとわかりやすく説明してほしい。
取りあえずこの荷物はまだまだ運ばなければいけないらしいということは分かったけど。
再び歩きはじめると、敦賀さんが隣に並ぶと、横からひょいっと荷物を取り上げられた。
「…重そうだね。少し持とうか。」
「え…ありがとうございます。…あの、先日は初対面だというのに失礼いたしました。今日からお世話になる最上キョーコです。よろしくお願いします。」
わだかまりはあるが、彼への対応はこれでいくことに決めた。先日が初対面で今日から先輩後輩。節度を保って近づきすぎない関係。社長さんが私が口外しないと認めてくれれば、どうせすぐ辞める身だ。親しくなる必要はない。
「…いや、こちらこそ失礼したね。敦賀蓮です。よろしく。…芸能界に入ることにしたんだね。」
「…そのようです?」
ちょっと狸に化かされました。と言うのはやめておいた。雑用係でも業界人になるんだろうか。自分の抱えている荷物を見つめてそう思う。
敦賀さんは荷物、私、荷物、そして私に再び視線を戻して難しい顔をした。
「もしかして、新部門の新人って君の事なんだろうか…」
ふぇっ?と首を傾げた。私の知らないところで何かが始まっているらしい。
「…ラグビー部?」
「違う。ラ・ブ。LOVE ME部。」
…何その恥ずかしいネーミング。
「…面白そうな部署ですね?一体どんな人が入るんでしょー。」
自分が関わらなければという注釈が入るけど。
「…だから、今君がやっているのがラブミー部の仕事かもしれない。」
敦賀さんは困ったように眉を寄せた。『ラブミー部』は、あっさりと切り捨てるには惜しい素材だが重要なものが欠けている。そういう人材の『欠けている部分』を育てるために社長さんが作った部門らしい。しかも、ポイントを集めると事務所が全面プロデュースでメジャーデビューさせてくれるらしい。
…私は狸社長に遊ばれているようだ。
「…ごめん。俺のせいだよね。君は興味ないって言っていたのに社長に何か言われた?」
「…それは…」
「ちょっとあんた何してるのよー!」
どう答えたものかと逡巡しているとものすごい勢いで怒鳴られた。気がつけば抱え込んでいた荷物を落としてしまっていた。
「その上何!?敦賀君に荷物持たせるってどういうこと!?」
…それは私のせいじゃない筈だ。
「もうあんたには頼まないわっ。敦賀君行きましょう!」
呆然としているうちに、敦賀さんも持っていた、マイナスポイントのスタンプを顔に押し付けて嵐は去っていった。
「…重ね重ねごめん。」
「…いえ。」
「社長には俺から連絡しておくから無理しないでくれ。…本当にごめん。」
そう言うと、敦賀さんは女性の後を追って行った。取りあえずあの狸を締め上げることにしよう。私に拒否権はないのだけれど。
知らない間にタレント部門に所属していたらしい私は、担当の椹さんと共に改めて新部門の説明を受けた。椹さんがいては、何も言う事が出来ず、私はすごすごと引き下がるしかなかった。
恥ずかしいショッキングピンクのユニフォームを身に着けて私の新しい仕事が始まった。
…どういうか、私は愛を捨てた覚えはない!ちょっと休憩しているだけよ!
一度でも裏切った男はキョコ的に完全アウト。愛の欠落者扱いに、非常に不本意なキョコたんw