「着きましたよ。先に行ってますね?」
法定速度って何?というほどの速さで事務所に到着した車から、マントをひっつかんで蓮は降りて行った。
ぐったりとしながらもその後を追う。キョーコちゃんが危険だ。目的地は当然、ラブミー部の部室だ。
何とか追いつくと、ドアの前で立っている蓮の姿があった。
「どうしたんだ・・・」
「・・・・しっ。」
声を掛けると、口の前に人差し指を立てられた。中から何か聞こえてくる。盗み聞きか?
「・・・・・お姉さま。いい加減、覚悟なさってくださいな。」
「・・・・でもぉ。何で、私だけこんな格好しなくちゃならないのぉ!?」
「往生際が悪いわよ。さっさとこんなくだらない仕事片づけたいんだから。早くしなさい!」
こんな格好ってどんな格好だ?つい想像を掻き立てられてしまう。
「モー子さんはいいわよぉ。魔女っ娘可愛いもの。私なんてマミィよぉ!いーやー!破廉恥よぉ!!」
「ちゃんと中に、チューブトップもスカートも履いてるから平気よ。早くしないと危険人物が到着するわよ!」
・・・・琴南さん。もう手遅れだよ。ちらりと蓮の顔を窺うと、笑顔が怖いんですけどぉぉぉ!?
「お姉さま。役者なんですからなりきってしまえばよろしいんですのよ。得意でしょう?」
「そ・・・・そうよね。女優魂を付けて乗り切ってしまえばいいのよね!じゃあ、さっさと済ませてしまいましょうね・・・・ひぃっ!つつつつつつるがさぁん!?」
勢いよく開かれた、ドアからちらりと見えたキョーコちゃん。それはまずいよ!
一瞬のうちに、蓮が手に持っていたマントで包まれた。ちろりと蓮が俺の方を見てくる。ぶんぶんと首を振った。俺は何も見てないぞ!!
「そんな格好をしてどこへ行くのかな?」
「え・・・・・えーとぉ・・・・・」
「社長の依頼で、ハロウィンのお菓子配りです。」
涙目で助けを求めるキョーコちゃんに代わって、琴南さんが応えた。
「・・・・それって、ラブミー部の依頼?」
「そうですけど。」
「・・・・・ふーん。キョーコ?」
今、キョーコって呼んだか!?お前たちいつの間にそんな事になってるんだ!?
「ふわぁ・・・・・はいぃ!」
「なんでラブミー部の依頼を受けてるのかな?俺と約束したよね?キョーコがどうしてもって言うから内緒にするけど、おかしな依頼を受けるようなら正直に社長に報告するって。」
「はいぃ!確かにお約束しましたぁ!でも!やっぱり急にそんな事言っても信憑性がないというか!敦賀さんと私ごときがお付き合いなんて、誰も信用しないかと思ってぇ!!」
いやいや、キョーコちゃんそれは大いに間違ってるから!やっとか!とは思っても信じないというのは絶対にないから!琴南さんもマリアちゃんもため息をついて首を振ってるじゃないか!
「そ・・・・それに!敦賀さんだって、仮装してるじゃないですか!!どうして私だけぇ!!」
「うん?俺はね、社長に嵌められて、着替えをすり替えられただけだから不可抗力なんだよ?自分で着たキョーコとは全然違うよね?」
キョーコちゃんは、俺の方を縋るように見てくるけど、ごめんね。その通りなんだよ。
「まあ、いいよ。トリックオアトリックだよ、キョーコ?俺、なんの仮装だか分かる?」
「トリックしかないじゃないですか!?えーと・・・バンパイア?」
「そう。よくできました。じゃあ、バンパイアの好物は何だか知ってる?」
「・・・・・・・血ですか?」
恐る恐る応えたキョーコちゃんを荷物よろしくひょいっと抱え上げた。
「正解。正確には処女のね。しっかり味わってあげるから、覚悟を決めておくんだね。今日こそ逃がさないよ?」
「いぃーやぁー!!たすけても・・・・」
「ちなみに、俺以外の名前をここで呼んだら手加減なしだからね?」
「ぐっ!!はれんちぃぃぃぃ・・・・・・・!」
「マリアちゃん?キョーコは、ラブミー部は卒業だから、今回の依頼はパスっていう事でいいかな?
明日は無理だろうから、二三日中には挨拶に伺うって社長に伝えておいてくれるかな?」
「わかりましたわ。おじい様にはそう報告しておきます。衣装も、返却は結構ですわ。もともとお姉さま用の特注ですから。」
「そう、ありがとう。じゃあ、これで俺たちは失礼するね?」
えぐえぐと泣きながら連行されるキョーコちゃんを、俺たちはなんとも生暖かい視線で見送る事になったのだった。
あ・・・・・打ち合わせ。いいや・・・・松島主任に怒られてこよう。嬉しいような可哀そうなような複雑な気分で現実逃避気味にそんな事を考えた。
