「忘れ物はないですか?ハンカチは?ティッシュは?それから・・・・」
「キョーコ。小学生じゃないんだから大丈夫だよ。それより、いってらっしゃいのキスがほしいんだけど。」
玄関先で、まるで、自分の事のように緊張するキョーコにおどけて笑いかける。社さんが俺の後ろで砂を吐いてるみたいだが気にしないことにした。
今日は、面接の本番だ。キョーコとオーディションの話をしてから、あっという間に原作を読み終えてしまったキョーコと、役作りをああでもないこうでもないと準備を進めてきたが、まずはこの面接をパスしなければ。
「ああ!ごめんなさい。私ったら・・・・」
顔を近づけると頬にキスをしてくれる。まだテンパってるんだな。こんなに素直に人前でしてくれるなんて。
お返しに唇にキスを返す。
「心配しないで。最強のお守りが祝福のキスをしてくれたからね。必ず通ってみせるよ?」
「はいっ!・・・・ってああ!私ったら破廉恥な!!」
顔を真っ赤にして恥ずかしがるキョーコを抱きしめた。
「俺は、大丈夫だから。キョーコこそ無理しないでよ?一人で出歩いたり、重いものを持ったり絶対したらダメだよ?それから・・・・・」
「おい、蓮。そろそろ時間だ。心配なのはわかるけどもう出ないと。キョーコちゃん、行ってくるね?」
「はい!お引止めしてすみません。つ・・・久遠の事よろしくお願いします。行ってらっしゃい、頑張ってきてくださいね。」
キョーコに押し出されるようにして、玄関から追い出された。
「恨みがましそうな目で俺を見るなよ。無遅刻キング、初の遅刻でオーディションを逃すなんて笑い話にもならないぞ?」
ぐうの音も出る筈もなく、仕方なく俺はオーディション会場へと赴いたのだ。
「凄い人だなあ。一体何人くらい受けるのかな?」
「・・・そうですね。」
書類選考でかなりの数がふるいに落とされていても、結構な人数が今日の面接を受けるようだ。俺のようにマネージャーと共に来ている人間もいるだろうから、全員が全員面接を受けるわけではないだろうけれど。
キョーコには、あんな大きなことを言ってしまったが、実際、敦賀蓮としてオーディションを受けたことはほとんどない。それは、マネージメントをしてくれている社さんも同様で、二人して顔を見合わせた。
「気合い入れろよ、蓮。」
「・・・はい。」
弱音を吐いている場合じゃない。キョーコの為にも、何より自分の為に、必ずこの仕事、取ってみせる。
『なるほどね。レン・ツルガ?お利口な答えだ。』
数人の面接官の前で、彼の作品の感想を述べつつ志望動機を答えた俺に、監督であるジャスティン氏にあっさりと切って捨てられた。
『君の演技は見たことあるよ。態々慌ててオーディションを受けなくても、時期が来れば君ならオファはいくらでも来るだろう?』
杓子定規な答えは求められていない。・・・・それならば。
『妻がお姫様が大好きなので。どうせなら、彼女の喜ぶ役でデビューしたいでしょう?』
『・・・は?それが、志望動機か?』
『この募集を見たとき天啓かと思いました。』
にっこりと笑って答えてやる。それのどこが悪いんだ。監督もいい。作品もいい。それにプラスして、キョーコが喜びそうだと思った。決めるのは当然だろう。
『くっ・・・・・くっくっくっ。天啓か。神のおぼしめしってやつだな。それなら、仕方ねえな。
よし、もういいぞ。結果は追って連絡する。…レン・ツルガが結婚してたとはな。娘が泣くな。』
『オフレコでお願いします。これに通ったら、公表するつもりなので。失礼します。』
ぽかんとする、面接官達に頭を下げて部屋を出た。
「どうだった!?蓮!」
俺がドアを閉めた途端に詰め寄ってくる社さんに苦笑する。
「多分、大丈夫だと思います。ウケてたみたいですから。」
「は・・・・?」
「まあ、なるようにしかなりませんから、帰りましょう?キョーコが待ってますから。」
首をひねり続ける社さんを連れて会場を後にした。