From all that day... ~アランSide~
皮肉にも綺麗な満月の夜だった。
月明かりの下で想い出がたくさん詰まった家が真っ赤な炎に包まれていく。ここは大切な場所だった。
そしてそんな大切な場所で大切な人を失った・・・。
目を背けたくなる現実が目の前に広がっている。
もし今日稽古に行かなければこんな事にならなかったのかもしれない。もっと早く帰れば防げたのかもしれない、もしくは両親を救えたのかもしれない。自分がその場にいれば子供ながらにも何か出来る事はあったはずだ。そうすれば両親のあんな姿を目にする事は無かったかもしれない。
瞼の裏にこびり付いた両親の最期の姿。両親の命を奪った犯人も憎いがそんな事よりも騎士を目指していながら何も出来なかった事が一番悔やまれる。
だからせめて亡骸だけでも・・・。なのに・・・。
(くそっ!!!)
アランは胸に置時計を抱きしめたままうずくまり声を押し殺して泣いている。
(俺は何もできなかった・・・。これじゃ、ただ逃げただけじゃないか・・・)
あまりの悔しさに止まらなくなる涙。アランは両親を失った悲しみと何も出来なかった自分の無力さに腹が立って仕方なかった。自分の心も体ももっと強かったなら・・・。
アランは後悔の念に駆られていた。地面に伏せたままアランは隣にいるレオに尋ねた。
「本当にこれで・・・良かったの・・・?」
暫くの沈黙を置いてレオが口を開いた。
「これしか方法がなかったんだ・・・仕方ないよ・・・」
自分とは相反するレオの異様に落ち着き払った声に違和感を感じたアランは涙でぐしゃぐしゃの顔を上げた。レオの横顔は燃えていく家をじっと見つめていた。
「俺達は生きる。生きて・・・」
アランはレオを見上げたままその後に続く言葉を待ったがその続きをレオは口にしなかった。それはレオ自身の決意のようにも聞こえた。
ただ・・・その言葉を口にした時に見せたあまりに鋭い眼差しのレオにアランは胸に少しの引っ掛かりを覚えた。
(レオ・・・?)
宮廷官僚とその妻が亡くなったにも関わらず王宮内は際して騒ぎにならなかった。そして双子の屋敷の火事も世間に大きく取り上げられる事もなく、まるで何事も無かったかのようにレオとアランの周囲はひっそりとしていた。それは二人にとっては好都合ではあったが、あまりにも普通すぎる日々に逆にあの事が全て夢物語だったのではとさえ思えてしまう。
あの出来事の後、レオとアランは王宮から少し離れた場所に住む叔父の家に引き取られた。
「これからは私が君達の親代わりだ。何でも言いなさい」
「ありがとう叔父さん・・・」
優しそうな目で微笑む叔父ににっこり笑って答えるレオ。そんなレオの横でアランは不貞腐れた顔を俯かせた。
(何でそんな顔でいられるんだよ・・・それに・・・)
アランは叔父の顔色を窺うようにちらりと見上げる。
今まで叔父がこんな顔で自分達に笑ってくれた事があっただろうか。少なくともアランにはそんな記憶はない。優しそうな笑み。何も知らない人間から見ればそのままの印象だろう。
しかしアランにはこの微笑みが不気味なほど優し過ぎて逆に作為を感じていた。疑いを持つ自分の横でレオは無邪気に笑っている。
(レオは何とも思わないのかよ・・・)
元々レオは人当たりが良い方だったが両親が亡くなった後、それに更に磨きがかかったように愛想も良くなった。両親をあんな形で亡くしたのも関わらず周囲に何でもないように振舞っているレオの無神経さと叔父に媚を売っているような態度にアランは少しの苛立ちを抱いていた。
それに加え、何処で聞いたのか『悲劇の宮廷官僚の息子達』などというレッテルを周囲の人間に貼られ可哀想な子供という眼差しを向けられる事にも嫌気が差していた。
『強いね』『頑張って』
そんな言葉を飽きるほど浴びせられてきた。どこでどう知ったのかここに来てからやたらと声をかけられては皆似た言葉を口にする。
何も出来ず何も守れず命からがら逃げ出してきたこの俺が『強い』だって?
俺は弱虫だ。あの場で俺は酷く混乱し泣きじゃくるだけで大切なものが燃えていく様もこの目で見届ける事が出来なかったのだから・・・。
それに両親を失った喪失感も今だ癒えていない。全て失った自分はまるで抜け殻のようで、この空虚感を何で満たせばいいのだろう・・・。考えれば考えるほど分からなくなってくる。
(『頑張る』って何をどう頑張るんだよ・・・)
自分に不釣り合いな言葉に追われる日々。逃れたくても逃れられない。
この苦しみから抜け出したくて唯一の肉親、兄であるレオに相談したいのにそのレオも今では何を考えているのか分からない。アランは日々自問自答を繰り返しこの苦しみから逃れたくて前以上に稽古に熱を入れるようになっていった。一方のレオはあの日からピタリと稽古に通う事を辞め、そのうち自然と双子の間には距離が生じ始めていた。
―二人で絶対騎士になる・・・―
何をするにもいつも一緒で兄であり同志であり時にライバルでもあったレオ。
レオには何ひとつ敵わなくて、でも絶対負けたくなくて必死にレオの背中を追い続けてきたアラン。それがやっとレオに追いつけたと思っていた矢先の両親の他界。
騎士になる事に両親がどれだけ期待を寄せてくれていたのかはレオ自身も分かっているはずなのに・・・との思いばかりがアランの中で渦巻く。
両親の期待をあっさり裏切ったレオに対して今は失望感しかない。
また稽古に打ち込む自分に対して叔父が良い顔をしていない事も分かっていた。叔父なりの策力があるのかきっと自分の敷いたレールに俺達を乗せたいだけ。それに自分が今は背く形になっているからなのだと思う。自分の人生自分のやりたい事をする。人の指図など受けない。それが叶わないのであればいつでもここを出て行く準備はある。
(もうレオもこの家もどうなろうと関係ない。俺は必ず騎士になってやる。この手で大切なものを守れるくらいに強くなってやる・・・)
アランはその思いだけを胸に抱えいっそう稽古に力を注ぐようになっていった。
そんなある日、突然話があると言ってレオに呼ばれた。レオとこうして面と向かって話すのは久しぶりである。暫く顔を合わせないうちにレオはだいぶ大人びたような印象を受けた。
「何?話って」
無愛想に返すアラン。
そんなアランに愛想笑いを向けるレオ。しかしふと見せた思案気な瞳にアランは何かを感じた。
「アラン・・・俺は官僚を目指す。そしてこのクロフォード家の次期当主としてこの家を継ぐ事にしたよ」
「は?」
あまりにも唐突すぎてレオの言っている言葉の意味が分からない。
官僚?当主?
今までそんな素振りもなく話も聞いた事がない。レオは俺の知らない所で何を考えていたのだろう・・・。
「何だよ、それ・・・」
「もう決めたんだ」
そう言うレオはどこかもの悲しそうな目をしてふっと鼻で笑った。
(だったら何でそんな目をしてるんだよ・・・)
言葉とは裏腹な表情のレオに苛立ったアランは唇を噛みしめ睨みつけながらレオの本心を知りたくて言葉を選んで口を開く。
「レオ・・・。父さんと母さんの前でもそう言えるか?屋敷に火が放たれて泣き叫んでいた俺にあの時言ったよな?『死んだら騎士になれない。二人の分まで生きるんだ』ってさ。あれは俺達が父さんと母さんが望んでいた生き方をするって意味じゃなかったのかよ」
「あの時は確かにそう思ったよ。父さんと母さんが応援してくれていたんだから。その期待に応える事が二人への弔いになると思ってた・・・」
「思ってた・・・?」
(過去形?こいつ、何か知ってるのか?)
どこか釈然としないレオの口ぶりにアランはあの夜何処かに向かって鋭い視線を送っていたレオに僅かな胸の引っ掛かりを抱いた事をふと思い出す。
アランは目を細め険しい表情を浮かべてレオが口を開くのを待つ。
「でも・・・」
レオは言いかけた所で席を立ち窓辺に寄り掛かって外に目をやる。
「アラン・・・。アランにとって守りたいものって何?」
「は?何だよ突然・・・」
何を言うのかと構えていたところに突然レオから話を振られて思わず声が裏返る。
「教えてよ」
そう言って穏やかに微笑むレオの表情はアランの目には不自然に映った。
(こいつ、こんな笑い方だったか・・・?)
心からではなく顔だけで無理に笑うのは何かを隠す、または誤魔化そうとしているとしか思えない。レオは何を知っている?何でそれを俺に言わない?
アランはモヤモヤしたものを抱えながらレオに聞かれた事への答えを考える。
― 守りたいもの・・・―
それは最近ようやく見つけたもの。皮肉にもそれは今のレオを見て教えられた事だった。
アランはレオから目を伏せ自分の手を見つめながら呟いた。
「強くなってこの手で大切なものを守る。もう失うばかりはたくさんだ・・・」
アランのこの一言にレオの顔が一瞬曇ったもののふっと鼻で笑いまたいつもの明るい顔に戻る。
「そっか・・・。それでこそアランは騎士を目指すべき人間だよ」
「・・・っ!!」
(何だよ、その突き放す言い方っ!!!)
アランは怒りを露わにしてレオの胸ぐらに掴みかかった。
「お前も騎士を目指してたんだろ?他人事みたいに言ってんじゃねえよ!!」
視線を逸らす事なく眉間に皺を寄せて自分と同じ赤い瞳を睨みつけるアラン。それでもレオは顔色ひとつ変えず冷静な眼差しでアランを見つめ返す。
「だいたいお前本気なのか?父さんが官僚の仕事をしていても興味あるような素振りひとつも見せなかったじゃねえか」
「本気だよ。アランにとって守りたいものがあるのと同じ俺にとっても守りたいものを見つけたんだ・・・」
アランは掴みかかった手を緩め僅かな期待を込めてレオに尋ねた。
「お前にとっての守りたいものって何だよ・・・」
少しの沈黙の後でレオが静かに呟いた。
「クロフォードの家だよ・・・」
レオが右の口角を釣り上げながらその言葉を口にした瞬間、アランは怒りに顔を歪ませレオの胸元を掴んでいた手を乱暴に振り解いた。その勢いでレオのシャツが破けバラバラとボタンが床に飛び散った。
(この場に及んでも嘘つくのかよっ!!!)
レオは自分では自覚がないのか嘘をつく時は決まって右の口角が上がる事をアランにだけは見破られていた。
「お前っ・・・」
アランの怒りの眼差しに僅かな落胆の色も滲む。
「父さんはいないし、叔父さんも居なくなったら俺が必然的にこの家を継ぐ事になるんだ。その為にも官僚になっていろいろな知識、教養を学ばないとね。こんな事騎士になったら出来ないでしょ?」
いつもの軽い調子でそんな事を平然と話すレオにアランは呆れ果てもう何も言葉を口にしなかった。
そしてすっとレオの顔から笑みが消えアランの目をじっと見据えたまま呟く。
「だからアラン、お前は自分の意志を貫け。俺もこの家も大丈夫だから・・・」
アランは唇を噛みしめ強い眼差しでレオを睨む。
「勝手にしろっ!!」
足音を響かせながらアランはレオに振り向きもせずバタンっと苛立ちをぶつけるかのようにドアを閉めて部屋を出て行った。
(何なんだよ・・・あいつ)
自分の部屋に戻ったアランはうつ伏せでベッドに倒れ込み怒りにシーツをぎゅっと握りしめる。ぶつけようのないこの怒りはなかなか治まってくれそうにない。ただ最後に「俺も、この家も大丈夫だから・・・」と言い放った時のレオの今にも消えて居なくなりそうな笑顔が胸に引っかかっていた。
(レオ・・・お前は嘘をついてまで何を隠してるんだよ・・・)
寝がえりを打ちベッドに大の字で仰向けになって天井を仰ぐ。煮えたぎる気持ちを何とか鎮めようとアランは目を閉じて深呼吸を繰り返しながらレオとの様々な事を思い返していく。
物心付いた時にはすでにレオと一緒にいてそれが当たり前だったし居心地も良かった。
優しくて頭が良くて何でもこなせてしまうレオは自慢の兄だった。自分がどう努力してもレオには敵わなかった。常に自分の前に必ずレオがいた。正直レオの才能を羨ましいとさえ思った事もある。でもこんな自分がここまでやって来られたのは間違いなくレオの存在があったから。いつも背中を追い続けいつか追いつき追い越してやる。自分の負けん気の強さの原点はここにあると言っても過言ではない。
レオはライバルでもあり尊敬出来る兄だった。
―父さんが官僚で王宮を守るのなら自分達は騎士になってみんなで王宮を守ろう・・・―
そんな事をある日突然レオが口にした。
「騎士」
父からはいずれお前たちも赴く事になるであろうと言われていた王宮。貴族ながらその王宮がどんな場所なのかを理解していなかった俺にとって初めて聞く言葉だった。レオと一緒に父から詳しく話を聞くようになった俺は「騎士』という職種に興味を持った。そして憧れを抱きそれが俺の騎士になりたいという意欲を掻き立てていった。
レオと剣を交える稽古は辛く厳しくも楽しかった。挫けそうになった時も互いを励まし合い、競い合ってきた日々が俺達にはある。だからこそ二人で騎士になる事を夢見て今までやってきた・・・。
なのに・・・。
レオは俺とのこれまでの日々をどう思っているのだろう。それとも俺はあいつを買い被りすぎていたのか?
二人で歩んでいた道から急に一人放りだされたような気分になり、両親の死によって生じた心の傷もやっと癒えたばかりだというのにその傷が再び疼き始める。
レオとこうなってしまった以上もはや一緒に居る意味はない。きっともう目指すもの、考え方が違う。お互い大人に向かう過程でいつかこんな日が来る事も何処かで覚悟はしていた。でもまさかこんな時にレオの本心が掴めないままでその時を迎えるとは思わなかった。
レオの行動は例え嘘を含んでいるとしても今の俺には『両親に対する裏切り』だとしか思えない。結論に達するまでに一言も相談さえしてもらえなかった俺はレオにとって頼りにならないのか・・・?一体あいつは俺に何を隠してるんだ・・・。
(俺はもう本当のひとりぼっち・・・だ・・・)
アランは両腕で顔を覆い強く唇を噛みしめる。目尻からは一筋の光るものが伝っていた。
そしてアランはある決断をした。
(今しかない・・・)
それから数日後の早朝。
アランは両親の形見である置き時計を荷物に詰めて屋敷を出た。すると後ろから小走りで駆けてくる音に気付き振り返るとレオが息を切らせて立っていた。
「アラン・・・」
「何?」
レオとはあの日以来顔も合わせていなければ会話も交わしていなかった。朝のひんやりする空気が冷え切った二人の間をすり抜けていく。レオはアランをじっと見つめるもののアランはレオを見ようともせず顔を背ける。
(こいつの顔なんか二度と見たくない・・・)
「行くの?」
「俺は絶対騎士になる。その為にもうこの場所は必要ないから・・・」
それだけを言い残しアランは踵を返して一度もレオに振り返らないまま歩いて行く。
小さくなっていくアランの背中をレオはいつまでも見送っていた。
その後アランは稽古場での伝手を頼りとある騎士の小姓となって騎士になる為の生活を始めた。剣と楯を使った戦闘、乗馬の訓練は勿論、宮廷の作法や言語の勉強など多岐に渡った。中でも驚いたのは宮廷作法の中でも宮廷での話し方や振る舞い、御婦人達への対応の仕方まで事細かに学ばなくてはいけないという事。単純に騎士になる事しか頭に無かったアランにとってこの時間は窮屈でしかなかった。
その後、城主の元に赴き給仕や雑用をしながら稽古は更に厳しいものへと移行していく。
そんなある日、稽古を終えてアランが道具の手入れをしようとするといつもならそのまま部屋に戻る城主に話があると言われてアランは人気のない裏庭に連れ出された。
「アラン・・・お前の腕は認める。実戦でも十分通用するだろう。ただ、騎士になる為には強さと技術以外にも必要な事がある。何故お前は騎士になりたいと思った?」
「俺はこの手で大切なものを守りたいと思っています。その為に強くなりたい・・・」
城主の問いにアランは迷う事なく即答すると城主の表情が曇った。
「大切なもの・・・。それは何だ?」
大切なものを守る・・・。これはあの日から何年も自分の中で呪文のように唱えてきた言葉。しかしいざ具体的に聞かれてしまうとそれが何かは自分でもはっきりと言い切れない。
家族、恋人・・・。ありきたりな答えも今のアランにはどれも当てはまらない。考え込み口を噤んだままでいると何か見抜いたような城主の眼差しとぶつかる。それを合図に城主は口を開いた。
「今のお前に大切なものなど無いんじゃないのか?」
言い当てられたアランは反論する余地もなく視線を落とすと城主は鼻で笑った。
「その顔からするとその通りみたいだな。『大切なものを守りたい』と言いながら何故その中に自分を含まない?騎士が命を賭ける事が美学だとでも思っているのか?お前はもっと自分を大切にしろ、取る行動全てにおいて捨て身過ぎる。言っとくが命を賭ける事と捨て身になる事は違うからな・・・」
その言葉にアランは目を見開いて視線を上げる。
「その違いに気付けた時、お前は本当の意味で『守る事』が出来るんじゃないか?そしてもう一つ・・・」
じっと話に耳を傾けているアランを見据えたまま城主は話を続ける。
「お前は大切なものを失う怖さを誰よりも知っている。だからこそお前にはそれを持つ勇気を持って欲しい。それが出来た時、お前の世界はもっと開けるはずだ・・・」
城主はすれ違い様アランの肩をポンポンと叩いてその場を去って行った。
城主の言い分は十分に理解出来る。しかし今の自分にはその事について答えを見つける術がない。
アランは城主から大きな課題を突き付けられたのだった・・・。
そんな課題を頭の隅に追いやりアランはとにかく目の前にある事を優先し着実にこなしていった。その後は異例ともいえる早さで従騎士となり戦地に赴き補佐をしながらも自分の功績を上げていく。
―数年後―
王宮の騎士に所属していたアランは様々な功績が認められ前例の無いほどの早さで騎士団の最高位「騎士団長」まで登りつめたものの城主に付きつけられたあの答えは見つけられないままだった。それでもここまで来たからにはもう自分は前に突き進むしかない。
任命式の為に謁見の間に向かう途中、向こうから近付いてくる容姿にアランは目を見張った。
(あいつ・・・)
向こうも気付いたらしく足を止める。
「アラン、久しぶりだね」
「・・・」
レオの愛想笑いは相変わらずだった。
「昇進おめでとう。兄として嬉しいよ」
「誰が『兄』だ。もうあんたと兄弟だとは思っていない・・・」
「つれないね、アランは」
「そんなあんたは相変わらずなんだな・・・」
「そう?こう見えて結構変わったと思うんだけど?」
「そんなの知らねえよ・・・」
すれ違いざまそう呟きながらアランはレオと視線を合わすことなく謁見の間に続く廊下を歩いて行った。その後ろ姿をレオは笑みを浮かべて見つめていた。
謁見の間の扉が開かれる。赤い絨毯の先にある玉座には国王陛下の姿。
(やっとここまで登りつめた。この為に犠牲にしてきたものはたくさんあるし、まだ見つけなくてはいけない事もある・・・)
アランは小さく息を吸い国王陛下の元へとゆっくり歩みを進めて行く。
(でもこの信念だけは揺るがない・・・)
『騎士として大切なものを守り抜く』
マントを靡かせ凛としたアランの表情は自信に満ちていた。
―いつか必ずあの言葉の答えに辿り着いてみせる・・・―
ここからアランの新たなる道が始まる。しかしその道のりはこの後に出会うプリンセスによってアランの人生は大きく変わっていく。時に迷い悩み苦しみながらも決して後ろを振り返る事なくアランは前に進み続けて行くのである。
~END~