「--陛下、今となっては推測でしかないのですが、」
 「なんだ」
 「恐れながら、リシュー公爵殿は賭に出られたのかもしれません」
 「賭、と?」
 「は。陛下のお命を奪うか、ご自分が死ぬかの賭でございます。公爵殿のことです、鋭敏な陛下が容易く弑されることはないと知っておられたと思います」

 陛下の意図を見事に読み取った、あの日の彼の姿が目に浮かぶ。あえて脳裏にはっきりと描こうとしながら続けた。

 「初めからご自分が死ぬ覚悟もしておられたのではないでしょうか」
 「さらなる混乱を避けるために、か。・・・奴ならあり得るかもしれんな」

 戦乱の末、稀有の人物が国王となり新しい時代が始まったはずなのに、今度は自分を担ぎ出そうとする者がいる。自分が死ねば、新たな争いの火種を消すことができる。彼がそう考えたとしても、決して不思議ではない。

 そして同時に、相反する、少しばかりの、王位への夢。

 (リシュー公爵殿は貴方を理解していなかったわけではない)

 陛下の部屋を後にした。言いたかった最後の一言は言えずに出てきてしまったが、陛下には伝わったと信じたい。

 陛下の苦悩が少しでも軽くなるといい。それだけを心底から願った。