ヴェネツィアへの旅路の途中で、一行はマントヴァのゴンザーガ公爵邸に立ち寄り、レオナルドはここで「イザベラ・デステの肖像」を描いている。イザベラ・デステはイル・モーロの妻の姉であり、長い間モナ・リザのモデルではないか?とも考えられてきた人物だ。

数日後レオナルドはマントヴァ公爵夫人にいとまを乞い、彼女の肖像画を記念に残していった。(レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯 ブルーノ・ナルディーニ著より)
その後、ヴェネツィアに到着した一行は人々から歓迎された。ルカ・パチョーリはかつてこの街に住んでいたため知人が多く、レオナルドも交際の輪を広げることとなった。
ヴェネツィアの防波堤でレオナルドは多くの時間を過ごしながら、「船舶や波の動き」や「潮の干満」「かもめの飛翔」の研究をするうち、ヴェネツィア共和国元老院を悩ましていた軍事上の問題を解決し、レオナルドに一攫千金をもたらすアイディアを思いついた。そのアイディアとは水中の軍隊を実現するための「潜水服」である。レオナルドは一連の潜水装置を使うことで、敵国の船底に爆弾を仕掛けることを可能にした。レオナルドのメモには「トルコはいつ何時攻めてくるか分からないし、この発明で国が守られ救われるのだから、この国はくらでも金を出すだろう~金はフィレンツェのサンタ・マリア・ヌオーヴァ病院院長に届けてもらおう。それで一生食っていけるだろうし、金のない人にあげる分も出来るだろう。この潜水服一着ごとに政府は大金を払うだろうし、性能の良いものにするために全て私が作ることになるだろうから。私の発明でトルコ人は大敗し、二度とこのラグーナに近づく勇気はなくなるだろう。」

アランデル手稿f.24v_潜水装置
鐘型をした給排気装置を水面に浮かべて、潜水服を着たダイバーへ空気を送る。ホースは曲げても空気が詰らないようにスプリング式のジョイントを採用している。

アトランティコ手稿f.262_潜水装置と水上歩行器
左上にはマスク型の潜水装置、右上にはホースを使った潜水装置、左下にはスキーのような水の上を歩くためのアイディアが描かれている。

ヴィンチ村のイデアーレ博物館に展示されている潜水服の再現模型
しかし、この発明が悪用される危険性を心配したレオナルドは、この潜水服の研究をやめてしまい、試作品を壊し、デッサンも破いてしまった。
「どうして私が水中の潜り方を書き留めないか、…私がそれを公表もせず伝授もしないのは、人間はその性、悪にして、海に潜って船底を破壊し乗っている人々もろとも船を沈めんと、この殺人器を利用しかねないからである…。」と手稿には記されている。
こちらはBBCによる再現実験の映像。
レオナルドの潜水服を使って実際に潜れたことが実証されている。