エマは甘え上手だ。
いや、俺と付き合い始めてから甘え上手になったんだろう。
人間嫌いなエマは、もともと甘え下手だったと思う。
今でも俺以外の人間には全く懐かない。
よく飼い主にだけ擦り寄るネコがいるけれど、エマはまさにそんな感じなのかもしれない。
仕事から解放された俺がソファーで休んでいたりすると、いつも絶妙なタイミングで近づいてくる。
「ブニャーン、ブーブー、ブニャーン…」
エマは独特な鳴き声の動物になりきって、俺にまとわりついてくる。
いったい何の動物なんだろう。
ブタなのか、ネコなのか…。
いまだにその正体はよく分からないが、とにかく「ブニャン」というらしい。
おそらくエマの世界にだけ生息している動物なんだろう。
雰囲気的には俺が飼い主で、エマがペットという設定になっているらしい。
「よーしよしよし……」
しょうがないので俺はエマの顔をこねくりまわしてやる。
すると、エマはケラケラ笑って喜ぶ。
悔しいけど、その姿があまりにかわいすぎて、おもわず俺はぎゅっと強く抱きしめてしまう。
ブニャンが俺の胸の中で窒息してしまいそうなくらいに、強く…。
『誰か私を』(コトリンゴ)