「脱税犯」となるか「単純無申告犯」となるか | 脱税事件簿ブログ

「脱税犯」となるか「単純無申告犯」となるか

 脱税犯とは、偽りその他不正な行為により税を免れることを内容とする犯罪である。そして、秩序犯とは、行政上の各種の義務規定に違反する行為(不作為を含む。)を内容とする犯罪である。
 
 脱税犯(ほ脱犯)に係る懲役の上限は10年、罰金の上限が1,000万円である(所法238①)。もっとも、脱税額が1,000万円を超える場合は、脱税相当額以下の罰金とすることはできる(所法238②)。なお、懲役と罰金が併科されることがある。
 
 そして、租税秩序犯(単純無申告犯)に係る懲役の上限は1年、罰金の上限が50万円である(所法241)。そして、懲役または罰金である。
 
 このように、脱税犯となるのか、単純無申告犯になるのかは大きな違いがあるということだ。まず、このブログで取り上げた事例をみてみる。
 
 このブログで「所得約2億7千万円を申告しなかった主婦 」、「FX取引を行っており、10億円の運用益があるにもかかわらず全く申告していなかった 」の例を取り上げた(読んでない人は読んでおいて)。このケースは、脱税犯でなく単純無申告犯とされた。
 
 過去の裁判例をみてみる。所得税の不申告で、脱税犯(ほ脱犯)にあたるとされた例がある。この、不申告をしていた者は、将来の税務調査を予測し、捕捉を免れるために虚偽の住民登録等をして所在を「偽る工作」をしていた。脱税犯とは、偽りその他不正な行為により税を免れることを内容とする犯罪である。「偽る工作」をしていたら、「単純」とは当然とはいえない。そのため、単純無申告犯にはならないということだ。
 
 なお、「偽りその他不正の行為」とは、判例では「逋脱の意図をもつて、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行なうことをいう」ものとしている(最高裁昭和42年11月8日大法廷判決)。
 
 「所得約2億7千万円を申告しなかった主婦」、「FX取引を行っており、10億円の運用益があるにもかかわらず全く申告していなかった」の当事者は、子供ではなく、いい大人だ。申告をすることを忘れていたとか、知らなかったということは、まずないはずである。しかし、「偽る工作(偽りその他不正の行為)」がなかった場合、脱税犯として処罰できないのである。
 
 このブログで「75歳トレーダー12億円申告せず脱税で大阪国税局が告発 」の例を取り上げた(読んでない人は読んでおいて)。このケースは、単純無申告犯でなく脱税犯とされた。申告をしていないのに、税務調査に備え、株取引で多額の損失が出たと装った書類を作成していたのだ。まさに、自ら墓穴を掘ったのだ。
 

 申告をせずに税金を払ってこなかった者がいる。一方は、脱税犯となり、もう一方は、単純無申告犯となった。この違いは、以上のことである。
 
 ただし、以下のように税制改正により「無申告者への罰則強化」となった。長くなるので「無申告者への罰則強化」で詳しく説明する。無申告者には人権侵害等の怖いことが起きる可能性が大だね。
 
 
 経済社会状況の変化に対応し、税制への信頼の一層の向上を図る観点から、租税に関する罰則(国税関係)について、次の措置を講じます。
① 大口・悪質な無申告事案に厳正に対応する観点から、故意に「納税申告書を法定申告期限までに提出しないことにより税を免れた者」について、5年以下の懲役若しくは500万円以下(脱税額が500万円を超える場合には、情状により脱税額以下)の罰金に処し、又はこれらを併科することとします(直接税及び消費税の場合)。
(注)消費税、航空機燃料税及び電源開発促進税を除く間接税等については、5年以下の懲役若しくは50万円以下(脱税額の3倍が50万円を超える場合には、情状により脱税額の3倍以下)の罰金又はこれらの併科とし、航空機燃料税及び電源開発促進税については3年以下の懲役若しくは50万円以下(脱税額が50万円を超える場合には、情状により脱税額以下)の罰金又はこれらの併科とします。
② 大口・悪質な消費税の不正還付請求事案に厳正に対応する観点から、消費税の不正還付の未遂を処罰する規定を創設します。
③ その他所要の規定の整備を行います。
(注)上記の改正は、平成23年6月1日以後にした違反行為について適用します。
 
 
 以下、現行の法令等
 
所得税法第二百三十八条  偽りその他不正の行為により、第百二十条第一項第三号(確定所得申告に係る所得税額)(第百六十六条(非居住者に対する準用)において準用する場合を含む。)に規定する所得税の額(第九十五条(外国税額控除)の規定により控除をされるべき金額がある場合には、同号の規定による計算を同条の規定を適用しないでした所得税の額)若しくは第百七十二条第一項第一号若しくは第二項第一号(給与等につき源泉徴収を受けない場合の申告)に規定する所得税の額につき所得税を免れ、又は第百四十二条第二項(純損失の繰戻しによる還付)(第百六十六条において準用する場合を含む。)の規定による所得税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2  前項の免れた所得税の額又は同項の還付を受けた所得税の額が千万円を超えるときは、情状により、同項の罰金は、千万円を超えその免れた所得税の額又は還付を受けた所得税の額に相当する金額以下とすることができる。
  
所得税法第二百四十一条  正当な理由がなくて第百二十条第一項(確定所得申告)、第百二十五条第一項(年の中途で死亡した場合の確定所得申告)若しくは第百二十七条第一項(年の中途で出国をする場合の確定所得申告)(これらの規定を第百六十六条(非居住者に対する準用)において準用する場合を含む。)又は第百七十二条第一項(給与等につき源泉徴収を受けない場合の申告)の規定による申告書をその提出期限までに提出しなかつた者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。