アトピー性皮膚炎の最新治療として注目されている生物学的製剤(注射薬)には、「デュピクセント」「アドトラーザ」「イブグリース」などがあります。
これら3つの注射薬は、
アトピーの皮膚炎や激しいかゆみを引き起こす
「サイトカイン(IL-4、IL-13)」という
原因物質の働きをピンポイントで抑える作用があります。
- デュピクセント 「IL-4」と「IL-13」という、2つの原因物質の両方を抑えます。
- アドトラーザ / イブグリース アトピーの皮膚炎に深く関わっている「IL-13」という原因物質を狙い撃ちして抑えます
これらは、患者さんの症状や年齢、合併症に合わせて使い分けるケースが増えています。
① 顔に強い湿疹がある場合
デュピクセントの副作用として、
一時的に「顔面紅斑(顔の赤み)」が悪化するリスクが報告されています。
そのため、顔の湿疹が強い場合は、
アドトラーザやイブグリースを選択するケースが増えています。
② 喘息(ぜんそく)を合併している場合
一方で、喘息がありステロイド吸入薬などを使っている方には、
デュピクセントが積極的に選ばれる傾向があります。
デュピクセントには、アトピーだけでなく喘息の症状も同時に改善する効果が期待できるためです。
③ アドトラーザとイブグリースの違い
顔の湿疹などを考慮してアドトラーザかイブグリースで迷う場合、以下のような特徴から選択されます。
- アドトラーザ(15歳以上~)イギリスや欧州を中心に豊富な使用実績があります。また、現在ある3剤の中で一番低価格(薬剤費が抑えられる)なため、大人のアトピー治療において第一選択となる傾向があります。
- イブグリース(12歳以上かつ体重40kg以上~)アメリカで開発されたお薬で、発売から数年が経ちます。こちらは12歳以上(かつ体重40kg以上)のお子さんから使用できるのが大きな特徴です。通常2週間に一度行う注射を、症状が落ち着いた後に「4週間に一度(月1回)」へと間隔を延ばしても、症状の改善効果が維持されやすいという特徴を持っています。
④ 12歳未満の場合はデュピクセント
当院でも、11歳の男の子が保護者の方にしがみついて涙をこらえたり、12歳の男の子が痛みを理由に治療の継続を拒否したりと、子どもたちにとっては決して小さくない負担となっています。
💡 安全性(副作用)について
これら3つの注射薬は、
結膜炎を発症するケースがありますが、点眼薬で対応できることがほとんどです。
また、いずれも現時点で命に関わるような重篤な副作用の報告はほとんどありません。
比較的安全に使えるお薬とされています。
ただし、どれも比較的新しいお薬であるため、「数十年後に何が起こるか」という長期的なリスクについては、まだ誰にも予想がつかないという側面もあります。
新薬を導入する際は、この点も心に留めておく必要があります。
また、生物学的製剤は、アトピーの炎症を抑える
「対症療法」のひとつです。
そのため、注射を打っている間は湿疹が抑えられますが、完全に中止すると再び湿疹が出てきます。
ただし、中止による急激なリバウンド(症状の重篤な悪化)は見られません。
中には、中止した後も湿疹が軽微な状態に抑えられ、良好なコントロールを維持できているケースもみられています。
「ステロイドを使わずに、最初から注射にしたい」は可能?
標準治療を行う一般的な皮膚科では、
学会のガイドラインに基づき治療を進めます。
患者さんの「ステロイドを使いたくないから、注射にしたい」というご希望があっても、
保険適用のルール上、
基本的には以下のいずれかの条件を満たしているケース「のみ」が対象となります。
- 湿疹の範囲に応じた十分な量のステロイド外用薬(もしくは、タクロリムス軟膏)を、約6ヶ月間しっかりと塗ってもコントロールできない場合
- ステロイド外用薬(もしくは、タクロリムス軟膏)による副作用などで、物理的に使用が不可能な場合
基本的には
「まずステロイド外用薬などで適切な治療を行っても、効果が不十分な場合」
に初めて注射薬の導入が検討されます。
たとえ患者さんに
「過去にステロイド外用薬を使用したが、コントロールがつかずに悪化した」
という経験(既往)があったとしても、
現場では
「では、まずはもう一度、適切な強さ・適切な量のステロイド外用薬で試してみましょう」
という判断になるのが、現在の医療のリアルな現状です。
💡 地域や医師の判断による「解釈の違い」も
ただし、
お住まいの都道府県(自治体)の審査基準や、
主治医の保険ルールの解釈・判断によって、
少し柔軟に対応できるケースもあります。
県によっては、
「過去にステロイド外用薬で症状が悪化した」
「副作用によりどうしても外用が継続できない」
という明確な経緯や診断があれば、
6ヶ月の継続を待たずに生物学的製剤の開始が認められる場合もあります。
ガイドラインが求める「外用薬の継続」という現実
さらに知っておいていただきたいのは、
アトピー治療ガイドラインにおける
「外用薬(塗り薬)への徹底したこだわり」
です。
現在のガイドラインでは、
生物学的製剤(注射薬)を開始して、
仮に肌の湿疹が完全にきれいになった(皮疹がなくなった)としても、
保湿剤やステロイド外用薬は中止しないことになっています。
つまり、
注射薬でどれだけ劇的に肌が改善したとしても、
基本的には
「保湿剤とステロイド外用薬は一生塗り続ける」
という前提の治療組み立てになっているのです。
患者さんの見た目の肌の改善度合いにかかわらず、
とにかく
「保湿剤とステロイド外用薬による外用治療を継続させること」を最優先とする、
非常に厳格な内容
(見方によっては、外用薬の併用に強く固執しているとも言える内容)
となっています。
現段階では、
保湿剤とステロイド外用薬の「やめ時」についての明確な基準はありません。
主治医の先生に相談する場合
アトピーの新しい注射薬(生物学的製剤)を検討したい場合でも、
現在のお子さんの状況によって、
開始できる場合と開始できない場合があります。
① 現在、ステロイド外用薬を使っているけれどコントロールが悪い場合
「毎日しっかりステロイドを塗っているのに、どうしても湿疹が良くならない」という場合は、
まさに注射薬の導入を検討できるタイミングです。
その旨を主治医に伝え、生物学的製剤を始めたいという希望を相談してみましょう。
② すでにステロイド外用薬を中止して、しばらく時間が経っている場合
「以前は塗っていたけれど、今はもうステロイドをやめている」というケースでは、
現在のガイドラインや保険診療のルール上、
主治医の判断によって
「まずはもう一度、ステロイド外用薬による治療を再開しましょう」となる可能性が高いです。
(※ただし前述の通り、
地域によって、過去や現在の明確な副作用や経緯によっては、ステロイド外用薬を再開せずに対象となる場合もあります)
最後に
アトピー治療における生物学的製剤(注射薬)の選択は、
日本の医療制度における
「保険診療の厳格なルール」に基づいたステップを踏む必要があるため、
医師の自由な裁量だけで決められるものではない、
ということをご理解いただければと思います。
また、この「保険診療のルール」の解釈や、
都道府県(自治体)ごとの審査基準の違いにより、同じ症状や既往であっても
「この地域では開始できるが、
別の地域では開始できない」
という地域格差(現状)が存在することも
ご理解いただければと思います。